家業を継ぐため、会社を辞めるか迷っています~決める前に「小さなDO」を
今回は「勤務先の会社が拠点再編を行うのを機に、会社を辞めて、実家が経営する八百屋さんを継ぐことを考え始めました。家業を継ぐことにワクワクを感じているものの、事業として成り立たせていけるか不安もあります。どのように判断していったらいいでしょうか」という質問です。神奈川県内の会社員、40代男性から寄せられました。
リファラバのナビゲーターで、愛知県岡崎市の「岡崎ビジネスサポートセンター(オカビズ)」のチーフコーディネーター、秋元祥治さんが答えます。
ステップ1:家業の現状を把握する
大きく分けて、大事なポイントが三つあります。
一つ目は、まず家業について、きちんと調べて現状を把握することをお勧めします。
どんなに長い年月をかけて積み重ねてきた事業であっても、問題なく日々の営業が行われているように見える事業であっても、いざ蓋(ふた)を開けてみると、経営が大変厳しい状況だったり、大きな債務を抱えていたりということは珍しくありません。
後継者候補であっても、家業の経営状況を詳しく知らないというケースは多いものです。まずはお父さん、お母さんと話して、最近の財務諸表を見せてもらい、事業の状況を聞くことから始めたいところです。
この時に重要なのは、黒字なのか赤字なのかという現状の経営状態だけでなく、5年後、10年後の中期的なスパンで見ても、続けていけそうなイメージを持てるかどうかです。
具体的には、建物や設備の状況や従業員の年齢といった部分のチェックです。今のところ、建物や設備に問題はなかったとしても、遠くない時期にリフォームや更新の費用が必要になるかもしれません。従業員についても、もしも高齢な人ばかりであれば、この先も店舗の運営が持続可能なのかどうかを考える必要があります。
ステップ2:実際に家業で働いてみる
二つ目は、継ぐかどうか「今すぐ決めない」ということです。
会社を辞める判断をする前に、週末や有給休暇を使って、実際に実家の八百屋で働いてみることが大切です。今は継ぐことへのワクワク感が勝っていると思います。でも、継いだ後もワクワクできるかというと、それは別の話です。
実際にやってみないと分からないことはたくさんあります。例えば、毎朝、ものすごく早い時間から働くから、家族への影響もあるし、休暇の家族旅行が難しくなるなどライフスタイルが大きく変わることが考えられます。立ち仕事だから身体の疲労もあるし、重いものを持ち運びするから腰痛に悩まされるということもあるかもしれません。
実際に働いてみる中で、相談者さんがつながりのある地域から高原野菜を仕入れて売ってみる、新しい売り方を試してみることもできます。お客さんの反応や反響をみて、自分が継いだ場合にどんなことをやっていくべきかヒントが見つかると思います。
その上で、「この仕事は楽しい」「やりがいを感じる」と思えるか、それとも「つらい」「苦しい」と思うか。実際に働いてみることで、そうした部分が見えてきます。
オカビズにも、脱サラして喫茶店やパン屋を始めた方が相談にやってきますが、会社を辞める前に、自宅の一角やレンタルスペースでいいから、試験的にお店を開いてみたり、インターネットで販売してみたりすること、つまり「小さく始める(小さなDO)」をお勧めしています。
自分では自信のある商品であっても、お客さんがどのように反応してくれるかは、試してみないと分かりません。実際に商品を作って販売するのに、どのぐらい手間がかかるのかも分かりません。相談者さんは、実家の八百屋を手伝える状況にあるので、そこでまず試すということをぜひやっていただきたいです。
ステップ3:継ぐかどうか自問自答する
三つ目は、ここまでのステップで家業の置かれている状況が分かり、試しに働いてみて肌感をつかんだ上で、「自分は本当に継ぐのかどうか」「継ぐとすれば、どんなふうにやっていきたいのか」を自問自答することです。継ぐかどうか決めるのは、その自問自答を経てからでも遅くはありません。
自分が本当にやりたいことなのかどうか。当面は今のやり方で八百屋を続けていくとしても、中期的に自分ならどんな形にしていきたいのか。自問自答する時のコツは、これまでのステップで気づいたことを、箇条書きで良いので書き出してみることです。
財務を見て考えたこと、5~10年後を見据えたときのイメージ、実際に働いてみて感じたことなどを書き出して一覧にする。併せて、家業の良いところや課題、メリットやデメリットも書き加えることで、判断がしやすくなります。
その際、全国にある「よろず支援拠点」のような公的支援機関や、中小企業診断士といった専門家に壁打ちの相手になってもらうことも有効です。書き出したことの整理や、抜け・漏れがないか外部の目線からアドバイスがもらえるでしょう。
この過程で、インターネット検索でいいので、うまくいっている八百屋、自分が目指したくなるような八百屋、ベンチマークしたい八百屋を探してみてほしいと思います。一般的に八百屋は厳しい業態と言われますが、なかには新しい挑戦をして、新たな顧客層の開拓に成功している事例もあります。場合によっては、そのお店を訪ねて、実際に話を聞かせてもらう。自分の「ありたい姿」を見つけるために有効な方法です。
そして、何よりも家族と相談し、理解を得ることが大切です。お父さん、お母さんの考えももちろん重要です。しかし、言うまでもないことかもしれませんが、相談者さんは40代ということですから、奥さんやお子さんとの生活を成り立たせていけるかどうかという視点はぜひ大切にしてもらいたいポイントです。
ここまでご紹介した三つのステップを踏みながら、自分が家業を継ぐのかどうか判断していただきたいと思います。
▼Refalover(リファラバ)とは?