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17.伝説③/ロレックスデイトナ アイボリーダイヤル化プロジェクト

※こちらは史実に基づいたフィクションです。
細かな点で創作箇所がございます。

前回からの続きです。
伝説②▶︎

伝説①▶︎

年老いた哀れなエンジニア“シャルル・ベルモ”のストーリー

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時を戻して1975年、ゼニス社

経営陣から

これからの時代はクオーツ、クオーツなんだよ!月に5秒の誤差精度だぞ!それがこんなに低価格で簡単に作れる。革命だよ、正に。これさえあれば無駄で高給取りの時計技師は全員解雇!一気に経営はスリム化だ。
それなのに機械式なんて…1日に5秒もズレながら、それがスイスの最高精度ですだって?ハハハ、今や笑い物だよ!
こんな時代遅れの時計。開発は一切中止!良いな、これは命令だ。」

この話を聞いた時、シャルルは危機感を覚えました。

「このままだと、他社も含めてスイス機械式時計の全ての文化・遺産は失われてしまう…
せめて、ゼニスはエル・プリメロ。
これだけは一つの遺産として、たとえ会社が苦しくともスイス人の誇りとして、残す義務がある!

もちろん自分も開発に携わった訳ですから愛着もひとしおです。
そこで必死で残すよう嘆願書をシカゴの会社に何度も送りました。
もちろん余裕で無視されます。

そして、なんとシャルルは暴挙に出ました。
その廃棄・売却される中から勝手にエル・プリメロの技術計画書と道具を一人で全て集め、屋根裏部屋に隠しはじめたのです。
完全に社命に背いた行為です。会社の資産を自己判断で意図的に紛失させていったのです。

エル・プリメロの製造に使われていた機材を解体して、他にも製造過程を再開させる方法の説明をこっそり走り書きでメモしていき、必要な部品には全てに丁寧にラベルを貼りつけました。

定年までゼニスで過ごす最後の数ヶ月。1トン近い機材を工場の屋根裏部屋に夜間たった一人で隠し、そして、いつ開かれるかも分からない扉を誰にも分からないよう閉じました。
何百年後とも分からない未来の人々のために向けた、シャルルが残した時計文化のタイムカプセルでした。

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彼は決してスーパーヒーローになろうとしたわけではなかったのです。この暴挙はただ、スイス人として、時計設計技師としての誇り、何より時計文化への畏怖・祈りであったのです。

確かに技術的にはクオーツに及ばないかもしれない。ただシャルルはこの何世紀も脈々と続いてきたものが全く違う方式で突然置き換わり、プツリと文化が切れてしまうことなど決してないと信じて疑いませんでした。

何百年先かわからない。人々がまた、機械式時計のテンプを動かそう・動かしたい、そう願う時は必ずくる。
その時のために…そして何よりこれまでに脈々と積み上げてきてくれた先人たちへの想いの顕れだったのです。

彼もまた、復活を信じる一人の男でした。
その復活は自分が生きている間ではないだろうからこそ、一つ一つ丁寧に分かるように整理していきました。

「同僚にどんなに冷ややかに見られようが、哀れな老人と思われようが…」

もちろん周りの同僚たちは手を貸す訳でもなく、冷たい目で見る彼らにはこう映っていました。

“俺は時代遅れ・レガシーなんかじゃない!”

時代についていけなかった年老いた哀れなエンジニア。自らのキャリアにすがりつき、ただただ意固地になっている。

そして、誰からも祝福を受けることなく、老兵シャルルは定年を迎えゼニスを去っていきました。

夜明けが始まる。10年後、そのタイムカプセルは開かれた!

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屋根裏部屋の壁はついに破られました。

その向こう側には、埃こそかぶっていたものの、丁寧に解体分類されていた金型・工具類は、殆どがそのまま使えました。

そして、このシャルルの願いと祈りのお陰で、約7億円とも言われていた再開発費に、ほとんど追加投資を掛けることなく歴史的傑作ムーブメントの生産再開の目処をつける事ができたのです。奇跡が起きたのです。

経営陣もまた、天に祈りと感謝を捧げました。

この頃には多くのメーカーが自動巻クロノグラフムーブメントの開発中止・撤退を決定していました。正にゼニスにとっても、ロレックスにとっても、何よりスイス時計業界にとっても、起死回生の最後のチケット。それがゼニスの屋根裏部屋の片隅に埃を被りながらも残っていたのでした。

経営陣は、急いでオスカーに電話を入れました。

「エル・プリメロ納品の件、ぜひやらせてください!」

ゼニスは無事ロレックスと10年契約で当時の8億円相当の契約を結びました。
ゼニスはこの奇跡により、一筋の光が差し込みました。
スイス機械式腕時計の復活を信じた、両社と2人の男は奇跡を引き寄せたのです。

10年契約って大きく出たロレックスだったが…?

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舞台は再びロレックス。

オスカーは大きく出ましたが、不人気モデル・デイトナを売り捌くと言うまだ、大きな難関が残っています。

クオーツ全盛の中、機械式腕時計の復権をどう果たすのか?ロレックス社だけが儲かっていても、いずれ業界は先細っていく事がこれまでの神懸かりのマーケティングセンスで分かっていました。
未来が見えていたわけです。

ロレックスはこれまで、パテックフィリップのように、ユニークピースを売りにしないのは、ある一定数の数を流通させないと、ニーズの分母が増えない事を知っていました。

これはマーケティングの世界では常識ですが、実行し、それを成功させるメーカーは、一握りの天才的マーケターのみです。需要量を見誤れば供給量がダブつき、少なすぎれば、認知と需要が思うようにコントロールできず、結果売れない。

言うは容易い…の典型的な手法です。

つまり、ロレックスだけが生き残っても、機械式腕時計の数が減っていけば将来業界が消滅してしまう未来が見えていたのです。絶対成功させなくてはいけないのに、それを全く売れてないデイトナでやる。

オスカーにしてみても、こんな大勝負に勝算なんてあるわけありません。10年契約などという大風呂敷を広げたものの、ゼニスへ安定発注のために、この不人気モデルを10年どうやって売っていくのか。考えるだけで不安と重圧に押しつぶされそうな日が続きました。ほとんど寝ることもできないのに時間だけが全く足りない…

これまで同様、半額セールで売っていては、それこそスイス時計文化の敗戦を意味します。悩みに悩み抜いたオスカーとロレックスはスイス時計業界復活を賭け世紀の大博打に出ました。

それはなんと、不人気だったデイトナを人気モデルへ変貌させるため、心理操作を用いたいわゆる飢餓マーケティングに打って出る決定をします。正にユダヤ商人の血を引く人物の発想です。

手法としては一旦世の中に出回っている全手巻きデイトナを一つ残らず買い占め、市場から枯渇させるというものです。
それは不人気モデル・デイトナと言う“ババ”を一瞬で“ワイルドカード”に変える、マジックのような劇薬マーケティングです。
失敗すればブランドは失墜し、ゼニス共に大きな負債を負うことになりかねない。それほど大きなリスクを伴います。

しかし、スイス腕時計復活の狼煙を上げるため、時間の掛かる一般的な手法では今回は間に合わない、この劇薬しか残されていないと覚悟を決めたのです。
そして、やるならチャンスは一度しかありません。それは静かに忍び寄り、一瞬で仕留める、寝首をかくように実行しなければいけません。失敗すれば自らが死ぬ。

SNSがまだない時代だったので、徐々やるようなぬるいやり方では市場は反応すらしません。一気呵成にケリをつけるのです。

いきなりなくなると言うショッキングなニュースで、世界中をバズらせなければいけないからです。

エル・プリメロを必ず表舞台に戻す!
そのためにまず不人気デイトナを人気機種にしないとスタートラインにすら立てない。やってやろうじゃないか。ロレックスがこれまで培ったマーケティング戦略の総力戦だ!」

ロレックスはゼニスとの10年大型契約に加え、これほどの大マーケティング戦線までもスイス時計文化のために張り巡らしたのです。

そして。

それはこの時代、狙った以上の効果を挙げました。正にビタビタにキマりました。

・イタリア人が段ボール単位でデイトナを買っていった。
・ニューヨークからデイトナが全部なくなっている。

こんなニュースが世界を駆け巡りデイトナ狂想曲が始まったのです。一体何が起こっているのか?人々は謎に包まれました。
何が起こっているのか確認する間もない程、デイトナが目の前からドンドン消えていくのです。

エキゾチックダイヤルであるポール・ニューマンデイトナは日々10万円単位で価格が上がっていく…みるみるうちにセカンダリー価格は高騰し、イタリアのファッション誌の表紙をデイトナが飾るころには、デイトナを取り巻く環境は激変していました。

ある日を境に、デイトナは世界のセレブ憧れの腕時計へと一気に変貌していました。
「舞台は整った。あとは役者を待つだけだ。」
オスカーとロレックスはこの世紀の大マーケティングをやり遂げたのです。

遂にロレックス×ゼニス!奇跡のダブルネームモデルがドロップ!

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そして、満を持して1988年

ロレックス×ゼニス奇跡のダブルネームモデル、
エル・プリメロ搭載の新デイトナがロレックスから発売されました。

・ロレックスカスタム版エル・プリメロ搭載
・ロレックス初の自動巻きクロノグラフ
・52時間のロングパワーリザーブ
・40mmへサイズアップした貫禄のケース径
・サファイヤクリスタル風防
・防水性能はクロノグラフにはオーバースペック気味の100mまで引き上げ

ロレックス史上かつてない大幅なスペックアップでフルモデルチェンジ。正にクオーツ時代に切り込む、渾身のデイトナでした。

しかし、ここに思わぬ誤算がありました。
それは、その見た目・デザインでした。
このフルモデルチェンジ・デザインには賛否両論が巻き起こったのです

以前のデイトナへの憧れが強く高まった中、全く異なるデザインのデイトナにはアレルギーが強く出てしまったのです。せっかく熱狂的に関心が高まったデイトナブームに新モデルが水を差した格好です。

完全にスタートでつまずいてしまった新デイトナ。果たしてこれもオスカーマーケティングの想定内であったのか?それとも…

続く。

🔴さてさて、今回の定点観測。アイボリー化の進捗はどの程度か?

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※このPDP、スピンオフ動画になりました。YouTubeで公開中。お時間あればご覧ください。

🔴またデイトナ2004年F番のパーフェクト付属品情報もYoutubeで公開中。

次回予告⏩

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💁‍♀️1回目はこちら


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