Project:;COLD 2.0 ALTÆR CARNIVAL 謎解きクロスワード解説
こんにちは、リー猫と申します。
みなさんは、クロスワードを解いたことがありますか?
タテのカギとヨコのカギをヒントに、文字を交差させながら盤面を埋めていき、答えとなる言葉を導き出すという、100年以上前から親しまれている言葉のパズルです。
解いたことは無くても、新聞や雑誌で一度は目にした機会があるのではないでしょうか。
一見するとシンプルなこのパズルですが、いざ自分で作ってみようと思うと、文字をクロスさせる位置の調整や、出来るだけシンプルな言葉を選ぶ必要があるなど、なかなか難易度の高い作業です。
ところが、そんなクロスワードパズルを使って、極限まで難易度を高めた問題が、あるイベントで出題されました。
ここでいう難易度とは、解く側はもちろんのこと、むしろ『作る側』にとってのハードルの高さを意味します。
そのイベントこそ、『Project:;COLD 2.0 ALTÆR CARNIVAL』です。
2024年2月17日にスタートし、”視聴者参加型のデスゲーム”というセンセーショナルな見出しで注目を集めたこの作品。
4週にわたり、参加者の少女たちが命を懸けて挑むデスゲームの模様をYouTubeで生配信し、視聴者がリアルタイムで謎解きに参加するという斬新な手法で、最大1万人以上の同接数を叩き出しました。
本記事でご紹介するのは、そんなALTÆR CARNIVALの三週目、3rd GAMEにて出題された『謎解きクロスワード』です。
その名のとおり、謎解きとクロスワードを合体させた問題なのですが、もはやある種の芸術と呼べるほどに、素晴らしい作品でした。
趣味で謎解き問題を作っている私にとって、このクロスワードは一つの究極形であり、作問の経験がある人ほどその凄まじさが伝わるはずです。
それでは、出題された全3問を<解法>と<作り方考察>の2つの側面から詳しく見ていきたいと思います。
個人の主観ではありますが、それぞれに「解く側の難易度」「作る側の難易度」も表記してみました。
<全問題共通>
まず、クロスワードですので当然「タテのカギ」と「ヨコのカギ」が用意されています。
ところが、このカギがアナグラム化されており、正しく並び替えないと読めなくなっています。
これを読み解くだけでもすでに至難の業なのですが、本番はこれからです。
謎解きクロスワードの本領は、すべてのマスが埋まってから発揮されるのでした。
一般的なクロスワードと同様、盤面には太枠で強調されたマスがあり、そこから文字を抜き出すことで別な単語が出来上がります。
しかし、その単語こそ謎解きの問題であり、クロスワードを完成させる作業は、謎を解くための準備作業に過ぎないのです。
※なお、このゲームはチーム対抗戦で、クリアタイムが早い順に勝ち抜けとなり、最下位となったチームは応援していた少女が処刑されてしまうという、大変なプレッシャーの中で謎解きに挑む必要があります。
<問題①>
解く側の難易度:★★★★★
作る側の難易度:★★☆☆☆
まずは、マスがすべて埋まった状態のクロスワード盤面と、文字を拾い出来上がった謎解き問題文をご覧ください。
<解法>
一見すると、少し大きめの一般的なクロスワードに見えます。
(アナグラム化されたカギを元に完成されていることをお忘れなく……)
導き出された問題文は「ニゼロニサンゼロゴサンイチオウノキセキ」。
この言葉は、下記のように読み解く必要があります。
現れたのは、日付と『王の軌跡』というワード。
ここで、改めてクロスワードの盤面を見てみると、マス目が『9×9マス』であることに気付きます。
『9×9マス』と『王』、このヒントから【将棋】が浮かびます。
先ほどの日付【2023年5月31日】と【将棋】で検索をかけると、2023年5月31~6月1日(水・木) にかけて行われた、第81期名人戦七番勝負第5局(藤井聡太氏が七冠を達成した対局)がヒットします。
すなわち、現れた日付はこの対局を意味していることになります。
では、『王の軌跡』が表すものとは何なのでしょう。
それは、藤井氏の『王(※玉)』が移動したマスです。
※名人戦は藤井氏が挑戦者のため、王ではなく玉を使用していました。その対局の結果として、藤井氏が勝利したので『王』と表したのではないかと思われます。
当時の対局の棋譜を公開しているサイトなどから、王の辿ったマスを拾い上げてみると下記のようになります。
クロスワードの盤面と将棋盤を対応させ、藤井氏の王が通過したマスの文字を辿ると、ダイギンジヨウ(大吟醸)という言葉が現れます。
これが、問題の答えでした。
<作り方考察>
この問題は、『9×9マス』の盤面を用意し、『王の軌跡』の位置に答えとなる文字を配置すればよいので、比較的作問は楽だったのではないかと考えます。
とはいえ9×9という巨大なクロスワード自体が大変なうえ、「ニゼロニサンゼロゴサンイチオウノキセキ」が拾える単語をバランス良く配置しなければならないため、相当の労力が必要だったと思われます。
実際のプレイ画面は下記リンクからご覧いただけます。
残念ながら正解前にタイムアップとなってしまいました。
<問題②>
解く側の難易度:★★★★★
作る側の難易度:★★★★★
上の問題と同様に、マスを埋めた状態のクロスワード盤面と、謎解き問題文は下記のとおりです。
<解法>
出来上がった謎解き問題は「トドウフケンココノツケセ」。
これはそのまま漢字に直して「都道府県九つ消せ」と理解します。
都道府県をどこから消すのか、と考えた時にクロスワード盤面に目をやると「ケ」と「ン」の文字が多く使われていることに気づきます。
つまり、盤面の中から9つの都道府県名を見つけ出し、それを消して残る文字が答えとなるのです。
しかし、上の盤面から47ある都道府県のうち9個を発見し、さらに答えとなる文字を残す必要があるとなると、ひとつひとつ整理して考えないと泥沼にはまってしまいます。
クリアタイムを競いあうため、精神的な余裕のない中で、ゆっくりと情報を整理できるかどうかがポイントであったと思います。
(実際には、たまたま入力されたワードが答えであったため、3チーム中最速でのクリアとなりました)
では、実際に盤面から9つの都道府県を探してみましょう。
整理していくと下記のような流れになります。
※様々な考え方があると思いますので、あくまでもパターンのひとつとお考え下さい
このように、ゆっくりと消去法で考えれば、9つの都道府県を発見できる作りとなっています。
しかし、他チームの状況が分からない中、少しでも早く問題を解かなければならないプレッシャーの中で、このように落ち着いて考えられるでしょうか……。
発見した9つの都道府県を消し込むと、下記のようになります。
残った文字(赤字)は「ネ・セ・グ」。
この3文字で作れる言葉は「ネグセ(寝癖)」しかありません。
<作り方考察>
このクロスワードは『盤面に使う全ての文字』があらかじめ決められています。
9つの都道府県名と答えをミックスし、意味の通る言葉に分解した上でクロスワードへ落とし込む。
考えただけで気の遠くなる作業です……。
ちなみに、47都道府県から9つ抜き出すパターンは13億通りです。
おそらく「トドウフケンココノツケセ」が作れる県名をピックアップすることから始められたと思いますが、それだけでも複数の候補が挙げられるため、途方もない作業です。
この条件を提示され、クロスワードを作れと言われても私には無理です……笑
実際のプレイ画面は下記リンクからご覧いただけます。
全てのマスが埋まり切る前に偶然答えが入力され、2分半でのクリアとなりました。
<問題③>
解く側の難易度:★★★☆☆
作る側の難易度:★★★★★★★★★★
最後の問題は、2問でワンセットとなります。
まずは、初めのクロスワードを文字の埋まった状態で見てみましょう。
上の2問に比べ盤面は小さく、出来上がった問題も5文字と短いです。
ですが、この5文字では意味のある言葉になりません。
ゲーム開始前に説明がありましたが、この言葉をシーザー暗号で意味の通る言葉に復号する必要があります。
Wikipediaの説明では3文字分とありますが、この問題では「何文字ずらすのか」は伏せられていました。
<解法>
まず、アナグラムを解いて出現する全てのカギを見てみましょう。
どのカギも、かなりざっくりとした説明です。
候補が多いため、参加者は思いついたものを片っ端から入力していく必要がありました。
そして、クロスワードを埋めて出来上がった『チンエラヤ』という暗号文を10文字ずらします。
暗号の5文字さえ完成すれば、ひとつずつシフト(ずらす)していくだけなので、ツールを用いればそこまで時間をかけずに正解を導けたはずです。
そして、上の問題を解いた後にSTAGE2として出題されるのが下記のクロスワードです。
先ほどの盤面とよく見比べてみてください。
両者の違いは、右下に黒マスが一つ増えただけ、という事に気づくと思います。
そして、この問題が出題される前、画面にはこんな説明文が表示されました。
カギはそのままに。
つまり、1問目と同じカギでクロスワードを埋めることができるのです。
たくさんの候補があるカギが設定されていたのはこのためでした。
もちろん、事前にその事を知っていたらカギをメモしていたでしょうが、早解きの緊張感の中でそれができていた人は居たのでしょうか。
そして、出来上がった『スエラオケ』という5文字の暗号を、先の問題同様にシーザー復号します。
STAGE2は44文字ずらす必要がありました。
(2文字戻しても同じ結果となる)
<作り方考察>
どのような発想をすればこの2問を思いつけるのか、制作者に聞いてみたいです笑
カギがそのままという縛りがあるので、複数候補のあるカギを設定する必要があるのはもちろん、同じ位置で文字がクロスしなければなりません。
先ほどの「都道府県9つ消せ」も途方もなく大変な作問でしたが、こちらはそれを遥かに上回っています。
白紙の状態から作るとして、正直、どこからどう手を付けていいのかもわからないです。
解く側から見れば、1000人を超える人数で何度でも入力ができるので、複数候補のあるカギだとしても答えが出るまでにそこまで時間はかからないでしょう。
シーザー暗号にしても時間の問題です。
この問題は、解く際の難易度というより、問題の設計そのものを見せる、一つのアート作品だったのではないかと思います。
私が参加したのは都道府県を消す問題だったのですが、後からこちらのアーカイブを見返して衝撃を受けました。
文句なしに、これまでに見た謎解きの中で一番美しい問題です。
実際のプレイ画面は下記リンクからご覧いただけます。
負けたら終わりというプレッシャーの中、参加者たちは約8分で答えに辿り着きました。
<さいごに>
今回ご紹介した『謎解きクロスワード』は、物語の一部として10分弱で終了しました。
しかし、見れば見るほど作問の手間やその奥深さを感じずにはいられず、多くの方へ共有したいという想いから、このような記事を書かせていただいた次第です。
改めて、このような素晴らしい問題を『完全無料』で提供いただいたProject:;COLDには感謝するばかりです。
私も謎解き問題を作る一人として、精進していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。