Michal Urbaniak (Poland) Part 2

Part 1から続きます。このPart 2では、Michal Urbaniak Constellationに続くグループであるMichal Urbaniak's Fusion名義の5作品を紹介致します。基本的には作品は発表年代順に紹介する事を心がけておりますが、UrbaniakがこのFusionで活動していた期間には、Fusion名義以外にMichal Urbaniak(ソロ)名義でも作品をリリースしております。つまり、Fusionの全5作品を連続で紹介しますと厳密にはUrbaniakの作品リリース順に紹介する方針から外れてしまうのですが、Fusionには関してはPart 2でまとめてレヴューする方が理にかなっているものと判断を致しました。このPart 2ではFusion名義の5作品について書いてみようと思います。


Michal Urbaniak Fusion – Same Title
(Columbia – CK 65525, CD, Poland, 1998, orginal1974)

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1.  Good Times, Bad Times  (5:12)
2.  Bahamian Harvest  (7:13)
3.  Impromptu  (3:24)
4.  Seresta  (6:04)
5.  Fusion  (2:55)
6.  Deep Mountain  (6:31)
7.  Bengal  (13:46)

Michal Urbaniak: Electric Violin, Soprano Saxophone
Adam Makowicz: Keyboards
Wojciech Karolak: Keyboards
Urszula Dudziak: Vocals, Effects
Czeslaw Bartkowski: Drums

Produced by Michal UrbaniakSol Rabinowitz
Recorded in Studio Walldolf, Germany, June 1973

本作はMichal Urbaniak Constellationに続くMichal Urbaniakの新しいグループであるところのMichal Urbaniak Fusionのファーストアルバムなのですが、実はヨーロッパに於いては1973年にはMichal Urbaniak Constellationのセカンドアルバムとして既にリリースされていた作品でもあるのです。タイトルはSuper Constellationとして発表されておりました。下の画像はそのアルバム・ジャケットです。

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この経緯を説明すると、まず、1974年に入ってからUrbaniakのアメリカ進出計画が持ち上がり、それに伴いバンドの名称をConstellationからFusionに改め渡米。更に米国到着後にニューヨークで録音したTr.5の"Fusion" (曲名からして新バンドの名刺的なナンバー)をボーナストラックとして作品に追加し米国及び全世界向けにMichal Urbaniak Fusionのタイトルで74年に出直しリリースとなったという事らしいです。1973年、元々は欧州でConstellationの新作として発売されたSuper Constellation (1973)は上の画像の西独盤LPがオリジナル盤です。一方、翌年(1974年)発表のMichal Urbaniak Fusionとしては米国盤LPがオリジナルで、他に日本盤、豪州盤、英国盤もリリースされていました。これにて世界デビューにも相成ったワケです。

所持しているのは1998年発売のCoumbia盤CDなのですが、デジタルリマスター済のせいか音質が素晴らし過ぎるのです。ここまでにPart 1で紹介してきた5枚の作品は、割と音がモコモコしていて、いかにも当時のポーランドと言った感じのサウンドクオリティでした。まあ、それは地域性や時代性と本グループの持味を上手く反映させていたとも言えるのですがね。それに対して本作の音は、極端に言えば、前作までのいかにも70年代の欧州的なうっすらと霞がかかったような状態が、いきなり1000m先まで目視可能な透明感を持ったクリアな音質へと激変。この98年のCD化の際のリマスターは正直やり過ぎですな。いかにもアメリカのリスナーが好みそうな音質ではありますが、個人的には作品の持つ趣きを殺しているに近いと言ってしまいたいです。バンドの個性をもっと鑑み、ヨーロッパでの録音の意味を考えて頂きたいものです。そしてその匂いを大事にして欲しいと思うのであります。

まあ、上記のように音質面での不満はありますが、演奏内容に関しては炸裂しております。とは言え基本的には、前作までを踏襲したバンドサウンドです。2人のキーボード奏者の有機的な絡み、非常にテクニカルなドラムス、自由奔放に舞うスキャット、そしてヴァイオリンとサックスによるインプロヴィゼーション。そして前作でも見られた事ですが、かなり個々のパートのインスピレーションが勝っていたかつての演奏から、各プレイヤーの役割分担をはっきりさせた傾向はより強くなっております。全ての歯車がきっちりと噛み合い、従来のプレイヤー単位と、そして新たにバンド単位のサウンドの両面に於いてもリスナーに彼らの音楽の凄味を伝えるられる体制が出来上がったと言えます。結果、過去から現在に至る古今東西の名作ジャズロック作品に決して劣ることの無い強力なアルバムが出来上がりました。内容は間違い無くマハヴィシュヌにも肩を並べます。唯一劣るのは知名度だけです。


Michal Urbaniak Fusion – Atma
(Ubx Records – UBX 1022, CD, Poland, 2014, orginal1974)

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1.  Mazurka  (5:08)
2.  Butterfly  (7:13)
3.  Largo  (4:30)
4.  Ilex  (5:48)
5.  New York Batsa  (5:03)
6.  Kama (Part I)  (2:24)
7.  Kama (Part II)  (2:21)
8.  Atma - Yesterday  (3:17)
9.  Atma - Today  (3:30)
10.  Atma - Tomorrow  (3:16)

Michal Urbaniak: Electric Violin, Soprano Saxophone
Urszula Dudziak: Vocal, Percussions
Wojciech Karolak: Keyboards, Fender Rhodes, Moog, Farfisa, Clavinet
Pavel Jarzebski: Bass
Ray Mantilla: Congas, Drums, Percussions
Czeslaw Bartkowski: Drums

Produced by Michal UrbaniakSol Rabinowitz
Recorded at: Columbia Records Studios, New York - June 1974

初の米国録音となったMichal Urbaniak Fusionの2ndアルバム。前作(1st)がMichal Urbaniak Constellationとの端境期だった為にベーシストが不在でツイン・キーボードという若干イレギュラーな楽器編成だったのですが、再度メンバーチェンジが有りMichal Urbaiak Group時代と同じフォーメーションであるViolin, Vocal, Keyboard, Bass, Percussion, Drumsの組み合わせへとバンドは再び戻っております。Urbaniakにとって、その後の音楽活動の主なる舞台となるアメリカでの第一歩が本作なのですねぇ。

アルバムのオープニングは、恐らくは、何度もリフレインする曲のテーマが彼の祖国の民族音楽由来と想像できるナンバー。1曲目から自らのアイデンティティを打ち出します。これは、当時の米国でのジャズロックバンドの両雄とも言えるべきMahavishnu OrchestraReturn To Foreverが、それぞれ、マクラフリンが夢中だったインドのラ―ガ形式の曲作りや、コリアの出自であるスパニッシュの血を意識させるリズム・メロディを大きな特徴としており、そこでUrbaniakも、この当時流行の「ジャズ + ロック + 民族性」のトレンドを踏襲し、米国ジャズ界では当時は珍しかったポーランド血統を売り物とすべく企んだ結果が本作の幕開けのナンバー"Mazurka"であったのではなかろうかと思います。個人的な考えですが、この民族性を強く打ち出す作戦は、あくまでもレコード会社側(或いはプロデューサーのSol Rabinowitz)がUrbaniakに持ち掛けたのではないかと思っています。しかし、Urbaniak自身は一旗揚げたくて音楽の本場であるアメリカに乗り込んで来た筈なのであります。少なくとも自身の持つ民族性云々よりも、その時点での米国のメインストリーム的な音楽で勝負したいと思ったのではなかろうかと思います。が、彼と契約したのは大手レーベル、天下のCBSであります。ポーランドからのお上りさんの新人が意見を言える企業ではありませんよね。CBSはUrbaniakを第二のMahavishnu Orchestraに育て、売り出す気満々だったのじゃないかと思われます。勿論、前述のUrbaniakの持つポーランド出自の民族性を前面に出してです。そして、見て頂きたいのはアルバムのジャケットのデザイン。何となく、自由で華やかな世界である西側諸国とは異なる薄暗い東ヨーロッパ(欧州の田舎)風な感じをそこはかとなく表現しているようなデザインじゃありませんか。このようなジャケット、Urbaniakが好んで採用したいと思うでしょうか。私はそうは思いませんねw 彼はポーランドからジャズの本場である米国に、故郷を捨ててやって来たワケです。過去を振り返るよりも、未来を考えたいでしょう。もし、これがレーベル側によって用意されたジャケットなのであれば、かなり確信犯じゃないかと思います。確かな事は言えませんが、そこにはアーティスト(Urbaniak)とレーベル(CBS)の対立が存在したんじゃないかと。今でこそアーティストの意思が尊重されて、その作品も音楽家の思い通りに制作されて当然の時代ですが、1970年代にはアーテイストの主張とは真反対の横暴がレコード会社によって当然のように行われた例は列挙にいとまが有りません。低予算で最大の売り上げを産み出す音楽家、そしてレーベルに対しては常に従順であり続けるアーティストこそが大手レコード会社にとっては良いアーティストなのです。極論すれば、作り出す作品の音楽的クオリティ等は二の次だったのです。それが1970年代と言う時代です。ついでに言いますが、個人的に興味深いと思った事があります。ジャケットのイラストとして描かれたUrbaniakの背中についているゼンマイ。あくまでも主観で深読みでもありますが、このゼンマイの意味はUrbaniakを含む多くの優れた東側のアーティストが社会主義である自国に、自身の音楽活動さえも徹底管理されて来たという事の暗喩なのではと思えてしまうのです。このゼンマイは東欧の社会主義政府が管理して、その都合の良い時のみにアーティストの活動を許すと言う事を表しているのではという事ですが。考え過ぎでありましょうか?しかし、もしもこのゼンマイにそのような意図が込められて描かれたものならば、ある意味、西側のリーダーたるアメリカからの社会主義諸国への痛烈な皮肉とも取れますね。東側ではアーティストの自由な創作意欲に任せた芸術は存在しないとのアイロニーです。まぁ実際に、東西冷戦期の東側社会主義諸国に於いては、当局に依る弾圧等が音楽家の自由な活動を著しく制限、また最悪の場合には音楽家は活動の禁止措置にまで追い込まれた等の話の多くが未だに語られ続けるのであります。でも、前述した通り、当の米国でも音楽家をレコード会社がその言いなりにさせてこき使う慣習が有ったワケです。これはこれで特大ブーメランではありますがw 東側諸国では勿論、西側自由諸国に於いても、アーティストの極端に低い社会的立場が改善される事となるのにはもう少し後の時代となるのです。例えば、昔はアーティストが心血注ぎ制作したアルバムのマスターテープすら契約の条項があるとは言えレーベルが所持し続けて、アーティストがいくら要求しても頑として権利を渡さない例がいくらでも有りましたからねぇ。

実は本作はUrbaniakが自分のリーダーバンドFusionを、ほぼポーランド人ミュージシャン(Ray Mantillaだけラテン系米国人)のみで編成し録音した最後の作品なのです。(次作では多くの米国人演奏家が関わるのですが、) 本作に於いては、ほぼポーランド人のみでの演奏の為、上記の通りレーベル側が望んだとされるポーランド色が感じられるジャズロックというコンセプトが容易く実現出来たと思われるグループ編成だったのですねぇ。まぁ、仮にUrbaniakはそのコンセプトに余り乗り気でなかったとしても、このポーランド人ばかりの編成では意識せずとも民族性は演奏に滲み出るモンです。そして、そのようにミュージシャンの自由意志が無視されていたと仮定しても、アーティストの民族由来のルーツを深く感じさせる音楽は、あらゆる面での説得力が桁違いなのは間違いありません。それは、民族音楽という物は、その地に特定の民族が存在し生きてきた一つの証であり、そこで奏でられ歌われる音楽はその存在理由が常に民族の生活と共にあるからです。その、決してフィクションのかけらさえ存在しない音楽は、人が演じる物ではこれ以上の強靭さを持つ物はありますまい。その意味では、Urbaniak自身が結果として本作品を好むか好まないかに関わらず、本作に収められた音楽は圧倒的な存在感を示し、過去の(民族性が強い)彼の欧州録音作品群と同等の内在する力がであると個人的には思うのです。まぁ、この部分は違う意味で(一聴き手の立場で)アーティストの意思をないがしろにしているかも知れませんが(もしかしたら、余り気乗りしていないかもと言う意味で)、熱烈な一ファンの偽らざる本音という事でご勘弁をw


Michal Urbaniak Fusion – Fusion III
(Wounded Bird Records - WOU 3542, CD, Poland, 2012, orginal1975)

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1.  Chinatown (Part I)  (5:24)
2.  Kuyaviak Goes Funky  (6:12)
3.  Roksana  (5:42)
4.  Crazy Kid  (2:35)
5.  Prehistoric Bird  (5:19)
6.  Bloody Kishka  (4:21)
7.  Cameo  (4:41)
8.  Stretch  (6:20)
9.  Metroliner  (4:44)
10.  Chinatown (Part II)  (3:56)

Michal Urbaniak - Electric Violin, Synthesizer
Anthony Jackson - Bass
Gerald Brown - Drums (Tr.3, 6)
Steve Gadd - Drums (Tr.1, 2, 4, 5, 7 to 10)
Wlodek Gulgowski - Electric Piano, Moog Synthesizer, Electric Organ
Joe Caro - Guitar (Tr.3)
John Abercrombie - Guitar
Larry Coryell - Guitar (Tr.6)
Bernard Kawka - Voice (Tr.8)
Urszula Dudziak - Voice, Percussion, Synthesizer

Produced by Urszula Dudziak
Recorded at Electric Lady Studios, New York, February 1975.

前作Atmoの項でも書きましたが、Michal Urbaniak Fusionの第3作である本作に至りバンドはUrbaniakが彼の奥方であるUrszula Dudziakとの2人組のユニットへと化したと言えます。演奏に参加しているその他のミュージシャン達は、2人のポーランド人演奏家(Wlodek GulgowskiBernard Kawka)を除き全て米国人となりました。その米国人達は既に音楽界で名を成している演奏家ばかりで顔触れが非常に豪華です。逐一紹介する事も憚られる程の有名人が集合しています。この凄腕演奏家達を集める事ができたのはレーベルのコネでしょうねぇ。まぁ、これがUrbaniakが契約した業界最大手CBSレコードの力なんですね。ここでは、そのアメリカ人ミュージシャン達ではなく、本作参加のポーランド人ミュージシャンの2人の内の1人、キーボード奏者のWlodek Gulgowskiについて少々書きます。本作に於いては鍵盤関係を1人で一手に引き受け見事な演奏を披露致します。そして、彼はプログレ関連でも実は知る人ぞ知るプレイヤーなのです。主に北欧の幾つかの傑作ジャズロック系のプログレアルバムのクレジットに彼の名前を見つける事ができますな。まずはひとつ目、好事家好みのスウェーデン産ジャズロックバンドPop Workshopの1973年のファーストと1974年のセカンドの正式メンバーに名を連ねます。本バンドは同国の伝説的なギタリストJanne Schafferがメンバーだったり、2ndアルバムではドラマーとして米国からTony Williamsを呼んで叩いてもらったりでバンド自体の話題性もそこそこ。そして作品内容は2作共に良。そして次、1976年、これもスウェーデンのジャズロックバンドMade In Swedenのラストアルバムに参加。そして重要作、1977年には、元WigwamのベーシストであるPekka Pohjolaの欧州を代表する大傑作アルバムKeesojen Lehto (The Mathematician's Air Display)の録音にMike OldfieldPierre Moerlen等の大物と共に参加し、重要な役割を担います。本作こそが、彼の生涯で1番の大仕事でしょうな (これは、あくまでもプログレファンの価値観で見た限りですw)。その後もスウェーデンのシンセアーティストのRalph Lundstenの多くの作品に参加したりで00年代位までは音楽活動があったようです。

閑話休題。まぁ本作に於いては、米国人2人のリズム隊に尽きますよねぇ。何しろ天下のSteve Gadd (2曲のみGerald Brown)とAnthony Jacksonのドラムスとベースですからねぇ。1970年代からの米国でのポップス・ロック・ジャズと様々なセッションへの参加機会が飛び抜けて多いミュージシャン2人です。まさにこれぞ、アメリカンリズムセクションてなワケです。前作迄のポーランド人に依る東欧のリズムセクションと比較すればバンドの音も全く異質なモノへと変化して当然です。予想通りと言うべきか、音はアメリカ~ンなフュージョンにジリジリと寄って行きます。この2人のテクニカルで安定した演奏自体には文句を付けようがありません。が、一方では、余りにも彼らのカラーが強すぎて、ややもすると主役を凌駕してしまう危惧すら感じます。ホント、この2人の存在だけで、本作ではFusionは別バンド化してしまう始末なのです。ところで本作では、Urbaniakのバンド史上初めて本格的にギタリストが参加した作品です。しかも集まったのは名手揃い。が、こちらの方はグループのサウンドの変化 (ポーランドスタイルから米国スタイルへの変貌)に関してはリズム隊程には直接の関与はして無さそうですね。まぁ、前述の通りFusionは元々はギタリストの居ないバンドでしたからね。とは言えど、John Abercrombieをメインに据えて、更に1曲ずつですがLarry CoryellJoe Caroの演奏には要注目です。AbercrombieのTr.8でのパフォーマンスを始め、随所で取るソロ等は彼等の圧倒的な実力を確認出来ます。

なんだかんだと言いましたが、それでも本作の作風は、思うにMichal Urbaniakの望んだものとなったのではないかとも思えるのです。前にも申し上げておりますが、彼がジャズの本場アメリカへと故郷を後にして乗り込んだ大きな目的(米国でのメインストリーム系ジャズの演奏)を考えるに、アメリカの名手達が大挙して参加をした本作を以って漸くにその夢は第一歩を踏み出し始めたと言っても良いのではないかと思うワケです。しかし、個人的な本音を言えば、彼が自身の民族性を薄めてまで、アメリカ的なるものを彼の音楽に取り入れ始める事は歓迎するべき事では無いのです(つまり、アメリカンフュージョン化する事に賛同出来ないって事です)。まぁそれでも、本作品の時点に於いては彼の音楽はまだまだ欧州型の強靭なジャズロックの側面もキープしております。故に、音楽のアメリカナイズは一応はこの程度なら許せる範囲ではあり、聴くに堪えないと言うところではないと思われます。まぁそれでも、大きな目で見た場合、CBSとの契約は余り良い結果をもたらしたとは言えないと思いますよ。


Michal Urbaniak Fusion – Smiles Ahead
(UBX Urbaniak Masters Series – UBX 1018, CD, Poland, 2012, orginal1977)

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1. Smiles Ahead (10:55)
  a) Smiles Ahead  4:00
  b) From Smiles To Smiles  2:09
  c) More Smiles Forever  4:51
2. Hymn Of The Uranian Sequels (7:04)
3. Piece For 15 Strings (4:40)
4. In The Wake Of Awakening (6:36)
5. Aflatus (5:11)
6. Schwarzwald Vibes (3:00)
7. Sunday Melody (1:20)
8. Autobahn (4:54)

Michal Urbaniak - Violin, Lyricon
Urszula Dudziak - Voice, Electric Percussion
Robert Anthony Bunn - Bass Guitar (tr.1, 2, 4, 6)
Basil Farrington - Bass (tr.8)
Emmet Chapman - Chapman Stick (tr.3)
Steve Jordan - Drums (tr.8)
Transcending Sonship - Drums, Percussions, Voice (tr.1, 2, 4, 6)
Joe Caro - Guitar (tr.8)
Harold Ivory Williams - Keyboards (tr.1, 2, 4, 6, 8) 

Produced by Joachim-Ernst Berendt
Recorded at Tonstudio Zuckerfabrik, Stuttgart, Germany, Nov. 1976 (Tr.1, 2, 4, 5, 6, 7) &  Dick Charles Studio, New York, Jan. 1977 (3, 8)

個人的には余り良いとは思えなかった米国の大手レーベルであるCBSとの契約を前作のリリースを以って終了し、Michal Urbaniak Fusionは新たにMPS Recordsから作品をリリースする事となるワケです。MPSは1960年代に興された西ドイツのジャズ専門のレコード会社です。基本的にUrbaniakはヨーロッパのレーベルから作品を出した方が良いと思っておりますので今回のレーベル移籍は個人的には歓迎であります。今回、UrbaniakDudziakのバックバンドを務めるミュージシャン達、前作と同様にアメリカ人ではありますが知名度の高さでは前作に参加していたミュージシャン程の有名人はおりません。この点も歓迎です。なぜかと言えば、前作参加のミュージシャン達は実績が充分で、しかも自身の色がとてつもなく強烈で、クセの強い連中ばかりでした。彼らはセッション参加でも、本来的には主役であるUrbaniakDudziakを喰ってしまう程の外連味を発散しておりました。その点がが非常に気になっていたのです。当然の事ですが基本的には、セッションに集められた演奏家達はUrbaniakの指揮下に置かれるべきですよね。そしてUrbaniakの意向の元に作業を進める事も言わずもがなです。Michal Urbaniak Fusionは、一見グループのように見えても、実態はUrbaniakDudziakの夫婦ユニットなワケで、彼等以外の録音に呼ばれた演奏者は本作の録音の為だけに居り、バンドの正式なメンバーとは言い難い存在です。しかし、この部分が前作に於いては、恐らくレーベル側のプロデューサーの指示があったのかも知れませんが、録音に参加していた有名ミュージシャン達がUrbaniakの指図を超えて独自の判断にて少々暴走した感があったと思えるのです。前作の項でも述べましたが、その辺りが前作が"アメリカンフュージョン化"したとして感じられる所以でしょうかね。それでは、本作ではその辺りはどのようになっているかと申しますと、今回のアルバム制作の為に呼ばれたミュージシャンの面々は、バンマスであるUrbaniakの意向を理解して、彼が頭の中に描いた音像がほぼ実現しているものと思われます。とは言っても、まぁ、これもあくまでも筆者がそのように感じたという事のみを根拠として言っているだけですから、本当の事は判りません。それでも普通に考えれば、通常のアルバム制作に於いてはこの状態が極々普通なのは言うまでもありません。

本作に収められた全8曲の内の6曲は、新たにUrbaniakが契約したレコード会社であるMPSのお膝元である西ドイツで1976年11月に録音されております。覚悟を持ってヨーロッパから渡米したと思われるUrbaniakにとっては、2年余りで再び欧州に舞い戻るような形となった今回のアルバム制作は複雑な感情が有ったんじゃないかとも思われるのですが、しかしながら出来上がった作品だけをみれば、彼のポーランドルーツが上手く反映された非常に質の高い欧州型フュージョンとして成立。奥方のフリーなスキャットも水を得た魚のような様相。これは米国で大手レーベルの流儀に従い録音した前作と比較するに、作品全体の流れが無理なくスムーズですな。強固でスクエアな器に閉じ込められた印象からの解放。音楽の構成を、連なる点で考える言わば微分的なアメリカに対して、繋がった(曲)線として捉えて即ち積分的と言えるヨーロッパ。大まかだが、個人的にはこれが両地域に対しての考えです。勿論、例外はそれなりに有りますが。つまり、両者の違いは多大です。当然の事Michal Urbaniakは、共産主義ポーランドという西側自由主義諸国との人々・文化の行き来が制限された地域の出身であります。ポーランドのような、つまり閉ざされた地域内では独自の文化が育つ傾向があると言えますよね。それは真の民族性では無いのですが、まあ政治環境に依る後天的な地域限定の文化の醸成とでも言いますか、分かり易く言えば、今で言うガラパゴス化ですね。当然、音楽文化でもその傾向に習うものと思われます。更に、これは大事な事ですが、現在ポーランドと呼ばれる地域に長きに渡って歴史を紡ぎ、生活をして来た民族のアイデンティティを具現化した民族音楽文化も当然存在するワケです。その新旧2つの音楽文化が混ざり合って形成されたモノが、しばしば好事家が注目するに値する対象として認知されます。ポーランドに生を受けたUrbaniakは、かつて一心にジャズを演奏しました。但しそれは、西側のリスナーにとっては、かつて一度も聴いた事のない独特な訛りを持ち、そしてその眼には非常に魅力的に映る種類のジャズだったのです。自らの好みに合致する音楽を地の果てまで探しに行く事を本望とする音楽ファンが放っておく筈がありません。図らずもレーベル契約の関係で、プログレファンから評価の高い渡米前のUrbaniakミュージックの制作環境に一歩戻っての制作となった本作であります。それは好事家達が望んだMichal Urbaniakが元来有していた作風の佇まいが戻ってきたと言えましょう。個人的には前作と比較にならない程、ポーランド人としてのUrbaniakの魅力が詰まっているものと思われます。


Michal Urbaniak Fusion – Heritage
(MPS Records – MPS 15.512(5D 064-60328), LP, Poland, 1978, orginal1978)

画像6

A1.  Heritage  (7:02)
A2.  Prayer  (3:20)
A3.  Vio-Lines  (2:33)
A4.  Stick It In  (7:58)
B1.  Cucu's Nest  (8:17)
B2.  Gaby's Mood  (3:21)
B3.  Storks  (8:30)

Michal Urbaniak - Violin, Lyricon
Urszula Dudziak - Vocals, Electronic Percussions, Synthesizer
Lurenda Featherstone - Drums
Tony Bunn - Bass Guitar
Kenny Kirkland - Keyboards

Produced by MPS Records GmbH
Recorded at Tonstudio Zuckerfabrik Stuttgart, Germany, July & August 1977

余計な話ですが、ジャケットの石像がトランプ大統領にしか見えませんw 勿論、1978年の作品なので全く大統領とは関係はありませんが。本作品はMichal Urbaniak Fusionとしての第5作であり最終作です。Fusionは元々は通常のバンドとしてスタートしたものの、渡米した後に途中からUrbaniak-Dudziak夫妻を核とした音楽ユニットとも言える形態へと変化したワケです。それで1975年の3rdと1977年の4thでは大勢のミュージシャンを招いて曲毎に演奏参加ミュージシャンが異なる形式で作品を作ったワケです。ところが、本作に於いては、一応5人編成のバンドを組み、そのメンバーのみの演奏でアルバム一枚作り上げた形となっております。ゲストは呼んでおりません。このような形式での録音の利点としては、演奏に統一感が出ますな。リハーサルを時間を掛けて行えばメンバー同士のケミストリー指数が上昇し、阿吽の呼吸ってところ迄達する事でしょう。それと、アルバムコンセプトを打ち出している作品であれば、その作品の世界観を全員が深く理解・共有する事もグループとしてメンバーが固定している方が有利となりますな。それでは、本作に参加しているミュージシャンについて少々。ベースのTony Bunnは前作から続いての参加 (前作での表示はRobert Anthony Bunn)。ドラムスのLurenda FeatherstoneとキーボードのKenny KirklandFusionに初参加となる。全員アメリカ人ミュージシャンで、当然のように演奏技術は素晴らしい。中でも特にKenny KirklandFusionに初参加と書いたが、実は彼は1977年と1978年のUrbaniakのソロ名義2作で既に演奏している。あくまでもFusionに初参加という事です。で、そのKirklandですが、1980年代には渡辺香津美増尾好秋の作品にも参加したりで日本人との仕事もそれなりに有り。当時筆者はKenny Kirklandが参加した日野皓正グループのライヴを観ている。日野の最高傑作Double Rainbow発表後のツアー、1981年だったと思う。菊地 雅章がブレインとして制作したDouble Rainbowは真にプログレッシヴ・ジャズ。かなりの聴き応え。ホント日野皓正作品の中でも本作は唯一異質です。1981年の日本産はズバリ菊池Susutoと本作、両作の内容は世界レベル。現代のコンテンポラリージャズに匹敵します。未聴の方はお聴きになる事をお勧めします。で、筆者が観たコンサートには菊地は不参加だったものの、Double Rainbowの録音にも参加していたKirklandがライヴで大活躍。見事に菊地に代わり参謀役を務めました。当日の演奏曲では特に日野の次作(Pyramid)に収録されるストラヴィンスキーに捧げられた曲"Igor's Hideaway"のプログレッシヴさが圧巻だった。ライヴでの同曲は、後のスタジオ録音バージョンでは残念ながら薄まってしまった強烈なバーバリズムを発散する凄い演奏だったのです。それでKenny Kirklandについては、その後1985年には元PoliceStingのソロデビュー作に於いても重要な役割を果たし一流ミュージシャンへと成りあがる。まぁ、そのような逸材に一早く目を付けて自分の作品に参加させるUrbaniakの眼力もなかなかですなぁ。

話を戻して、Michal Urbaniak Fusionの最終作Heritageですが、オープニングの中世感溢れる行進曲のパート、そして続くUrbaniakのヴァイオリンとDudziakのヴォイスのユニゾン、これは絶品です。こんなにも欧州な楽曲を演奏している5人の内の3人がアメリカ生まれの黒人ミュージシャンなのです。ちょっとした驚きですね。ヨーロッパの演奏家も顔負けですよ。まぁこれは、前述したように、固定された5人のメンバーで演奏していると言う賜物ですね。Urbaniakが考える作品コンセプトの理解と共有がメンバー間で完全に為されている証左です。更には、作品全体を見ると、初期のFusionには目立っていた部分的に角が立ったような荒さが、上手い具合にこなれた滑らかさ加減はUrszula Dudziakのスキャットを含めて、Hatfield & The North ~ National HealthDave Stewartが見せた編曲の妙に通ずるモノがありますね。1970年代初頭のMichal Urbaniak Group時代ポーランド・ローカルだったグループは汎ヨーロッパで通用するバンドへと成長したものと見るべきでしょう。但し、Urbaniakは本作を以ってMichal Urbaniak Fusionの活動を封印してしまいます。一ファンとしては、本作のような出来の良い作品を残しながらも、この方向の音楽の終了宣言は非常に残念であります。彼はこの後、本グループのようなジャズロックから、米国での活動を念頭に、スタンダードなジャズの演奏に軸足を移していくワケです。


このMichal Urbaniak (Poland) Part 2では、Michal Urbaniak Fusionの5作品の紹介をいたしました。続くPart 3では、1970年代中期からのMichal Urbaniak(ソロ)名義の作品を中心に紹介して行く予定です。段々とプログレッシヴロックのテリトリーから外れていく傾向はありますが、それなりに聴き応えのある作品もありますので、引き続きお付き合いくださいませ。

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