転職25回 〜8回 Vol.1〜
前回までのあらすじ
・新卒でブラック企業に就職したものの、約2ヶ月で退職。
・IT企業に就職するも、借金返済が追い付かずに退職。
・ソープランドに転職。過酷&ハイリスクなので退職。
・ボッタクリヘルス店。天才的詐欺師の才能を発揮するが1日で退職。
・イメクラ勤務。風俗嬢Tちゃんとの同棲を解消しボロアパート暮らし。退職。
・探偵に憧れて、なぜか警備員。飽きて退職。
・高給に釣られてケーブルテレビの飛び込み営業。心が折れて退職。
・再びIT業界。カチャカチャしている内に心の傷が癒えて再び探偵を目指し退職。
久しぶりのNOTEです。仕事ばっかりしてました。
あらすじを見れば何となく分かってもらえると思えますが、結構思いつきで動きやすいタイプです。今もそんな感じで、思いつきで仕事をしているので大変なのです。
さて、雑談はこの辺にして、またいつもの意味不明な思い出話を書きます。
一度は挫折しかけましたが、憧れの探偵を目指し再始動を始めた自分。
そして、見つけた職業はバイク便。
都会だと非常にメジャーな(?)職業のバイク便ですが、地方だと馴染みが無いかもしれないので補足しておきます。
要するに、バイクで荷物を運ぶお仕事です。おしまい。
もうちょっと補足しておくと、宅急便で配達すると時間がかかりすぎるので早く持って行きたい荷物や書類があるけど、自分で持っていくのは面倒だし時間の無駄。なのでお願いするのがバイク便です。
バイク便のライバルには「メッセンジャー」がいます。こちらは自転車で荷物(主に軽量の書類など)をシャーッ!っと軽快に運搬します。ただ、距離が長いとキツイと思われます。
その点でいうとバイク便はナイス。多少距離があったって、バイクでブブーンと走れば良いだけ。雨、雪、直射日光に弱いという弱点と、交通事故だけには気をつけなければいけませんが、そこはメッセンジャーも同様です。
さて面接です。
これまた思いつきで取得した普通自動二輪免許でしたので、免許取得してからほとんどバイクに乗りませんでした。つまり、ペーパーライダーです。そんなわけで合格できるかドキドキでしたが、普通に合格でした。
まぁ、合格するのは当たり前です。会社によって違うと思いますが、バイク便には時給などがありません。荷物を運んだら、運んだ距離によって給料が発生します。つまり、1日中何もしなかったら給料は0円なのです。ライダーが不足する繁忙期を考えれば、数は多ければ多いほど良いのですな。
そんなことを良く知らない内に、バイク便の仕事はスタートしました。
さて、ここで2つ問題がありました。
まず、バイク便をやるにはバイクが必要です。本当に当たり前のことなのですが、自分はバイクを持っていませんでした。こ…これはピンチ!ということもなく、会社からHONDAスーパーカブをお借りしました。もちろん賃借料をお支払します。
次の問題ですが、自分は東京に数年住んでいるにも関わらず、地名とか道とかが全然分かりませんでした。こ…これはピンチ!いや、本当にピンチです。とりあえず、本屋で地図を買って一生懸命に地名や道を覚えます。明治通りとか甲州街道とか非常にザックリですが、細い道までは覚えきれません。
さて仕事スタート。
毎朝最初にやることは、仕事が入りそうな場所への移動です。とりあえずビジネス街であれば仕事が来そうなので、新宿あたりに移動します。
次にやるのは…待機です。今では違う仕組みになっていると思いますが、当時は専用の情報端末がありました。仕事が入るとこの情報端末がピーピー鳴ります。そこには、「池袋に9時に集荷に来られる人はいませんか〜」的なメッセージが出てきます。自分が行けるようであれば、その仕事を情報端末で取得するのですが、これが早い者勝ちシステムなので、ノンビリしていると全然仕事が取れません。
それと、先程バイク便の給料は走った距離によって変わると書きましたが、最初の情報では「どこまで行く」という情報が見られません。ガッポリ稼ぐためには長距離が理想なのですが、「池袋→新宿」とかだったりすると、集荷してズコーッとなります。電車で持っていけよ!とは口が割けても言えませんが、心の中で叫びます。
逆に、「池袋→木更津」なんてパターンもあるそうです。その時は高速道路に乗って意気揚々と荷物を運ぶのでしょう。まぁ、自分はそんな長距離に当たった事がありませんでしたが。
ちょっと話が逸れましたが、とにかく情報端末で仕事を取得したら集荷に向かいます。荷物を受け取ったら目的地までお届け。サインを頂いて任務完了です。いつか完全にAIに仕事を奪われてしまいそうな、単純な仕事でした。
そんなこんなで1日を過ごすと、だいたい日給5〜7千円ぐらいになります。なんせ、同業ライダーが多くて仕事の奪い合いが激しいのと、短距離の仕事ばかり引き当ててしまい都内をチョロチョロしているばっかりなのと、道に詳しくないので配送に時間がかかってしまうということで全然稼げません。
うーむ、これはマズイと感じ始めました。
なにせ、こちらは借金まみれなのです。収入が少ないと返済が追いつきません。
裏技として、日中ガンガン働いた後に夜中もガンガン働くという方法がありました(もちろん違法です)。しかし夜中の依頼数はさほど無さそうですし、なにより24時間働くほど体力に自信がありません。バイク便で居眠り運転をしたら、即事故に繋がるのですから、そんなリスクは負えません。
もう1つ言えば、それだけ働いても日給1万円ぐらいです。全然割に会いませんな。
さて、そんな時に事件は起こります。
事件…というか、事故です。
その日も都内をブブーンと走り回っていました。
ある会社から荷物を受け取り、近場の会社へお届けの仕事です。
片道一車線の道は渋滞していましたが、バイクは路肩をガンガン走れます。本当はいけないのでしょうが、そうでもしなければ荷物の配送に時間が掛かりすぎてしまうのです。
そんな時、突然目の前に紺色のセダンが現れました。対向車線から、唐突に右折してきやがったのです。
路肩を走っていましたので、左右に避けることはできません。フルブレーキしましたが、もはやセダンは目の前でした。セダンの助手席のちょっと前あたりに突っ込み、そして吹っ飛ばされます。
人生において、初めての交通事故でした。衝撃で道路に倒れ込んだまま動けません。
そんな時、ツカツカと誰かが近づいてきました。それは、40〜50代とおぼしき金髪の外国人の女性の方です。ミーをヘルプしに来てくれたかと思いきや、まったく違いました。
「glrじゃ☓がdろr○lslj!?kjb△sでゃlっjkじゃ!!(意味不明)」
なにやらひどくお怒りのご様子。ベリーアングリーです。そして、グロッキー状態のミーを無理やりスタンドアップさせて、助手席付近がベコッとヘコんだセダンまで連れて行きます。
「cjgはおあjgぁj;;あ!!jlっりんblf!!(意味不明)」
どうやら、お前のせいで車がヘコんだじゃないか!と言っているようでした。
しかしですね、ジャパンの道路交通法は「直進車優先」が原則です。確かに路肩をガンガン走っていたのは悪かったですが、だからといってこちらの進路妨害しておいてクラッシュさせて、この態度はいかがなものかと。
非常にムカムカしましたが、相変わらず事故のダメージが残っており動くことも反論もできません。まぁ、こっちは日本語オンリーなので反論は不可能ですが。
ふと気がつくと、この外国人の方がどこかの建物に入ろうとして右折したのだと気が付きました。その建物は非常に大きく立派で、玄関には重厚な門が備え付けられており、巨大な表札が付いていました。どうやら民家ではありません。表札にはこのように書いてありました。
「ロシア大使館」
うーむ、どうやらロシアの関係者の方の車とゴッチンコをしてしまったようです。人生における最初の事故の相手がロシアとは、先が思いやられます。
よく見ると、ロシア大使館の入口付近には警察官の方が立っていました。もちろん、この事故現場には気がついているハズですが、知らんぷりを決め込んでいます。傷を負った哀れな日本国民が金髪外国人女性に無理矢理立たされて説教を食らっているというのに…。
そうこうしている間に、どこかの民間人がミーをヘルプしてくれました。ヒートアップした金髪外国人女性と自分を引き離して、自分を歩道あたりに寝かせます。だれかが119番に電話してくれたらしく、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきました。
数分後、救急車が到着します。その頃になるとほとんど痛い部分もなかったのですが、それまでの人生で1度も救急車に乗ったことが無かったという事もあり、救急車に乗り込みます。いつも思いつきで生きているのです。
病院…どこの病院だったかすでに忘れていますが…ではレントゲンなど撮りました。まぁ、別に何もありません。徒歩でトコトコと歩いて、事故現場に置き捨ててあるスーパーカブの回収に向かいます。ちなみに派手にぶつかった割にはスーパーカブは無傷でした。恐るべしメイドインジャパン。
配送途中の荷物については、同僚の方が届けてくれました。なので、その日は仕事終了。
さて後日。交通事故の調書作成のために警察署へお呼ばれされました。
今の自分だったらこう言います。
「こちらは直進だった上にバイクですよ!しかもぶつかったのは相手車両の前部。つまり、避けられるタイミングでは無い時に目の前に出てきたんですよ!さらに、事故直後の怪我人を引っ張り回して説教をするなんて非常識にも程がありますよね!おかげで、足と腕と首と背中と腰と頭と臀部が痛くて仕事になりません!お金ちょーだい!」
しかし、当時の自分は世間知らずボーイでした。どっちが悪いのか分かっていないぐらい、交通ルールの知識も持っていませんでした。調書を作成していたベテラン警察官はそれを察したのでしょう。こんなようなことを言いました。
「今回はね、交通ルールに照らし合わせれば相手の車が悪いよ。でもね、君も路肩をガンガン走っていたでしょ?それは危ないよね?しかも相手の車はボコボコにヘコんだし、お互いに引き分けってことでいいね?」
おそらく、相手側が普通の民間人であればベテラン警察官もこんな事を言わなかったでしょう。しかし今回の相手はロシア様。トラブルはゴメンだよ…という事で、説得しやすい自分のほうを抑えることにしたのでしょう。
当時の自分には、警察官に反論する知識…というか度胸もありませんでした。
「分かりました」
こうして、交通事故の処理は終了しました。
それから数日後、バイク便を辞めることにしました。
いくつか理由があります。
1つは、給料が安すぎて借金返済ができない。
それから、やはり交通事故に対する精神的な後遺症が残りました。まぁ、ビビったのですな。
そして、季節が冬になったので寒くなったこと。冬場のバイクは地獄でございます。
バイク便をやっていたのは4〜5ヶ月ほどだったと思いますが、今思えば、探偵になって最も役に立ったと思った仕事がバイク便でした。もしも「将来探偵になりたい」という奇跡的に奇特な方がいらっしゃったとしたら、バイク便を経験しておくことをオススメいたします。
とはいえ、やらなくても別に問題ない…といえば問題ありませんが。
寒くなってきたので、次回はインドアのお仕事の話です。