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転職25回 〜11回 Vol.1〜

前回までのあらすじ
・新卒でブラック企業に就職したものの、約2ヶ月で退職。
・IT企業に就職するも、借金返済が追い付かずに退職。
・ソープランドに転職。過酷&ハイリスクなので退職。
・ボッタクリヘルス店。天才的詐欺師の才能を発揮するが1日で退職。
・イメクラ勤務。風俗嬢Tちゃんとの同棲を解消しボロアパート暮らし。退職。
・探偵に憧れて、なぜか警備員。飽きて退職。
・高給に釣られてケーブルテレビの飛び込み営業。心が折れて退職。
・再びIT業界。カチャカチャしている内に心の傷が癒えて再び探偵を目指し退職。
・バイク便。ロシア大使館の車両とクラッシュで恐ロシア。退職。
・ADSLサポートコールセンター。金髪になる。飽きたから退職。
・なぜかホストクラブ勤務。ニワカホスト瞬クンとしてデビューするも1日で退職。

たった1日のホストクラブ勤務を終了したところから再開です。

ホストクラブ勤務の前は某Y社のブロードバンド回線サポートコールセンターに勤務していました。
この頃、このサポートセンター内において非常に嫌われている一味がおりました。それが、コードネーム「パラソル部隊」。

このパラソル部隊の一味は、駅前や路上や家電量販店でADSLモデムを無料で配布するという、今から考えると何ともトンチキな商売をしていました。
まぁ結果的にはそれがADSLの普及に繋がり、日本のブロードバンド時代の夜明けとなったのです。トンチキとは失礼な言い方かもしれませんな。
問題は、このADSLモデムを配布している多くの人(ほとんどが派遣社員)が「パソコン?できないッス!」という人だったこと。ブロードバンドが普及する前のお話です。インターネットに詳しい御仁は少なかったかもしれませんし、パソコンを正式に習った人も少なかった時代です。ちなみに自分はプライベートではパソコン通信をやっていたり、数年前のケーブルテレビの仕事でブロードバンド回線の営業もやっていた為、ブロードバンドやインターネットについては多少の知識がありました。(でもまぁ、そんなに詳しくはありません。)

とにかく、ネット知識が少ない人たちがADSLモデムを無料配布しまくっているからADSLのトラブルが多いんだ!というのがサポートセンターの中の人たちの意見でした。
その話を聞くと、自分の中では「本当だろうか?」という思いがありました。
そして何を思ったか、本当なのかどうか確認するために、サポートセンターからパラソル部隊への転職を考えたのです。まぁ、その前に何故かホストクラブ勤務が入るのですが…。

さて、いよいよパラソル部隊へ配属です。派遣社員なので面接などは無かったような気がします。

初出勤。指定されたビルの一室に向かいます。そこには、50名を超えるヤングな男女が集まっていました。ほとんどが派遣社員です。
その派遣社員を取り仕切るのがパラソル部隊の社員様。こちらはヤングなメンズばかり。そしてただのヤングではありません。ソープランド、ボッタクリヘルス、イメクラ、ホストクラブなど、アンダーグラウンドの世界を少々かじってきた自分ですらドン引きをしてしまうほどの、ちょっとカタギではない雰囲気の社員様なのです。いや、もちろんカタギなのですが、昭和のゴリゴリ体育会系な方々といったところでしょうか。

特に研修などなく、我々パラソル新兵は戦場へと向かわされます。そう、路上という名の戦場です。
たしか4〜5人ぐらいがチームになって、都内の様々な場所へ向かいました。路上で組み立て式の机を設置し、白と青のパラソルをおっ立てます(これのせいでパラソルなどと呼ばれていました)。あとはADSLモデムを右手に、申込書を左手に持って、「インターネット3ヶ月無料デース!イカガッスカー!」と繰り返します。通行人の皆様から冷たい視線を感じますが、そんなことは関係ありません。本来、公道でこのようなイベントごとを行うに当たっては最寄りの警察署へ事前に届けを出さなければいけないのでしょうが、そんなことも関係ありません。ADSLモデムを持ち帰る人が、パソコンを持っていようが持っていまいが、そんなことも関係ありません。
とにかく、申込書に住所と氏名をご記入いただき、ADSLモデムを持って帰ってもらえれば良いのです。

ちなみに、この仕事は時給制でした。たしか時給1300円ほどだったと思います。何十件の申し込みをもらっても歩合は一切ありません。にも関わらず、パラソル部隊の兵士たちは必死の思いでADSLモデムを配布していました。なぜか…?
お分かりでしょう。1日が終了すると、我々兵士たちは朝方集合したビルへ帰陣します。そして、そこには例の社員様たちが鬼軍曹となって待ち構えているのです。
「申し込みゼロ?ハァ〜?テメーやる気あるのかヨ!」
なにかの冗談ではありません。本当に、そんな口調で鬼軍曹に責め立てられます。中には正座をさせられている兵士もいました。1度はビンタをされている場面にも遭遇しました。正座&ビンタですよ?今の時代だったらスマホで撮影されてSNSで拡散されてワイドショーに取り上げられてもおかしくありません。しかしまぁ、当時はまだ若干昭和な空気が残っていたので、「うわ〜、怖っ!」と思うぐらいで済みました。

確か、そのビルへは2〜3ヶ月は通ったと思います。その間、様々な人たちと一緒に働き、仲良くなって飲みに行くこともたくさんありました。我々はいわば戦友。申し込みゼロの日には、本来味方であるハズの鬼軍曹から「叱咤」という名のマシンガン連射を浴びるのです。同じ境遇の仲間として、時に笑い、時にガックリとしたものです。
しかし、そんな日は長くは続きません。
ある時、この鬼軍曹揃いの会社以外にもパラソル部隊の仕事がある事を知ります。しかも、そちらはそれなりにホワイトだというウワサ。同じ仕事をするのであれば、ストレスが少ない方が良いに決まっています。派遣先を変え、新たな戦地でADSLモデムを配布することになりました。さらば鬼軍曹ども。

あっ、ちなみにこの派遣先の移動は転職回数には数えていません。派遣会社や業務内容が一緒なので。

さて、新しい派遣先では、主に家電量販店の中でADSLモデムを配布することになりました。
先の「路上の声がけ」に比べれば、家電量販店の中の仕事は天国です。
まず、路上では暑い&寒いという問題があります。雨が降ったりすれば、だれも立ち止まってくれません。
それと比べて家電量販店。雨が降ろうが雪が降ろうが快適そのもの。悪天候時には来客数は減りますが、こればっかりはコントロールできません。

それに家電量販店には「パソコン」という武器がありました。
当時は「インターネット通販でパソコンを買う」なんてことはメジャーでは無く、ほとんどの人が家電量販店でパソコンを購入していました。パソコンを買ったら次に何が必要か?まぁプリンターかもしれませんが、中には「インターネットもやりたい」という御仁もいます。そんな方々が、勝手にフラフラ〜っとパラソルに集まってくれるのです。「インターネット3ヶ月無料デース!」なんて言わなくてもOK。むしろ、ADSLのチラシなどが置いてあるブースをあえて無人にした方が、人が集まってきやすかったぐらいです。留守にしておいて罠を張る。チラシに釣られてフラフラ寄ってきた御仁に、「ちょうど無料キャンペーン中なんですよ〜」と話しかけるワケですね。自分の場合、その方法が最も効率良かったです。

そんなこんなで、このパラソル部隊へは1年ほど配属しました。
その間、家電量販店でアルバイトをしていた女子大生と仲良くなってデートをした楽しい思い出もあります。同じ仕事をしている同僚の若いオネーチャンと飲みに行ってホテルへGOした思い出もあります。
しかし何をするにしても、常に1つの問題が立ちはだかりました。それは借金です。多額の借金を背負っていたので、ろくなデートもできません。そして、時給1300円程度では無くなるような借金ではありませんでした。

うーむ、どうするか…。
そんなタイミングで救いの神があらわれます!
以前、ケーブルテレビの飛び込み営業をしていた時の同僚から、ある仕事のお誘いを受けました。なんと日給14000円以上。
今のパラソルですと、時給1300円×8時間労働=10000円を稼ぐのが関の山です。かたや日給14000円。それはもう、そっちをやるに決まってます。
という事で、マッハでパラソル部隊を脱隊です。

さて、路上や家電量販店でADSLモデムを配布するという仕事でしたが、この頃は「こんなテキトーなバラマキやって、本当に儲かるのかしら?」と思っていました。しかし、その後のY!社やSB社の繁栄ぶりを見れば、このパラソル部隊のバラマキ作戦が功を奏したと言わざるを得ません。現在は経営者をしている自分からすれば絶対にマネはできないですが、まぁそれが器の違いなんですかね…。

次回は「高給&楽チン」という夢のようなお仕事の話です。

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