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画面に広さを出す、写真の中の3つの層を考える

はじめまして

登山ブログRedsugarで山と写真の記事を書いています。

登山を始めてから写真に興味を持ち、写真の勉強を始めることとなりました。

写真に関しては山岳雑誌「岳人」に写真を寄稿させていただいたり、「いま一番美しい日本の絶景」にも数点の写真を掲載していただいたり、全国のJRに配布された福島県観光冊子にて「西吾妻山の樹氷」を掲載してもらったりしています。

最近ではフリー素材サイト「ぱくたそ」様でカメラマンとして活動させてもらっています。

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さて、今回は普段実地で行う練習を繰り返す中、どうやったら空間って表せるんだろう?「遠近感や広さの表現」に関して考えてみたことを記事に起こしたいとおもいます。

風景写真には空気感、空間表現が欠かせないものかと思いますが、今回はそれらを構成させる考え方の一つに関して、僕が気がついたことや考えていることを書いていきます。

2019年9月22日_■広さを生み出す遠景の配置に作例と技法を追加しました。

■広さをもたらす考え方としての3層、3分割法。

前景、中景、遠景の三つの層

今回お話する内容は、画面の中を構成する層を前景、中景、遠景と3つの層にして広さを出せないか、というお話です。

ナショナルジオグラフィックの写真の撮り方技法の本でも前景の重要性や、画面を構成する3分割法の話は出てきますが、その部分の【層】に関して考えてみることにしました。

遠近法を利用する際、画面に3つの層があると、写真の中により広い空間を作ることができる。

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これはリファレンスとして非常に明快なので、何度も自分で見直しています、38㎜の画角で撮影しています。

霧ヶ峰の蝶々深山から車山方面を見た景色で、霧ヶ峰の稜線と奥に立つ八ヶ岳、これらの間にある「広さ」を主題としています。

前景に当たる部分が画面右下の道となり、道が画面奥に向かって収束し中景の霧ヶ峰の湿原へと向かいます、そして最後遠景の八ヶ岳が彼方に見えるという構図。

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この写真は前景と中景が地続きになっていますが、距離感において目の前(前景)、300mほど遠くの霧ヶ峰(中景)、数キロ先の八ヶ岳(遠景)と三つの層に分かれています。

画面の中にある3つの層を考えると、奥行きを考えやすくなり、画面の持つ広さをコントロールすること可能だとこの写真から僕は学びました。

さらに、この霧ヶ峰の構図で重要なのは前景から中景へ向かう道が線遠近法的に収束していることでしょう、前景に線の要素を入れるとよいというのは良く言われますが、教科書的にそれが実践されていたんだなと後から見て感心しました。

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別角度から撮影して遠景の八ヶ岳を消して、かつ前景と中景の分離がぼんやりとしているものです、画角が先ほどと同じ38㎜なのですが、広さが全然違うと思います。

という感じで、日々のスナップや山の写真などを作例に、つらつら書いていきたいた思います。

このノートは有料ですが、少し内容が気になったら僕とコーヒーを飲むような感じで見てもらえると幸いです(タリーズやスタバで370円のカフェラテを一緒に飲もう、的な)。


■三つの層(レイヤー)を切り分ける

中景に対して、遠景と前景を切り分ける

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風景を前にしたとき、撮影したい主題を観察しつつ、その主題の背景と自分の周辺にも目を配ることが重要だと考えています。

まず主題に対して背景を見て、遠景のキャンバスを選び、その上に中景と前景を置くイメージです。

写真では那須朝日岳が主題として中景に位置しています、例としてこの写真を見ると、背景には安達太良等の北方の山と朝焼けに染まる空、真ん中に那須朝日岳、前景にボケた鎖とそれぞれの距離感がぱっきりわかれたもので構成されていると思います。

中景の前後で色やボケ具合で層を切り分ける形になっています。

距離感は先ほどの霧ヶ峰と同じで、自身の前、主題、はるか遠くの景色の3層です。

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前景の処理ですが、この場合撮影者の目の前に広がる景色、距離感を表現するために入れはしたものの景色の認識としては「見えているけど見ていない」景色なので前ボケを利用して「見なくていい場所」として処理します。

当たり前ですが、画面全体にピントが合っていた場合、「見えてるけど見てない」をボケで表現することができません。

僕が見ている範囲の山岳写真では、この前景がないものや全体にピントが合っているもの比較的多く、山を山として記号的に撮影するものや強力なパースをかけた絶景写真多いのですが、

僕は見たままの映像に近くなるよう、こういった前景を入れることにより3つの層を作り、視線を主題へ誘導するようなほうが空気感が出ていてよいのではと考えています。

層の間にある空間の大きさを考える

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こちらの蔵王のお釜はパンフォーカス気味に撮影しています、ボケは使ってませんが、オブジェクトで画面を3つの層に分けました、主題であるお釜が中景にある状態で、足元の砂礫と草の前景と、宮城県側の遠景です。

前中遠を考えるときに僕は文章化すると下記のような考え方をしています。

・遠景:宮城側の空と登り来る太陽

山と海の間の距離と空間:大

・中景:お釜とその周辺

前景とお釜の間の距離と空間:中

・前景:自分の立ち位置の周辺

自分と前景の距離:小

・撮影者の立ち位置

画面内に3つの層が生まれることにより発生する、↓部分に含まれる空間の情報が広さを演出ために使えるというものです。

■層の間に生まれる空間

3次元を2次元に落とし込むためにどうしたらいいんだろうか?

層の間に空間が生まれるという話ですが、僕が撮影するときに「これかな?」と思って考えていることを図に起こすとこんな感じになります。

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実際に見ている景色は三次元的な奥行きがありますが、人間が見ている景色は見えてるけど見てない場所があったり、人の認知とカメラで撮れるものには差が出てしまいます(カメラが光学的には正解だが、人の認識は光学的な回答とはまた別)、また、意識しなくては二次元の絵に落とし込むときに奥行き方向の空間情報が失われがちです。

僕はその部分を補うための方法として、3つの層をまず意識しつつ、大きさの恒常性や線遠近法、ボケを利用することが空間を表現することに大事だと考えています。

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例えばの図なんですが、こんな感じにわかりやすく色、境界線と分かれている景色なら安易に奥行き感を理解することができるでしょう。

良く海外ドラマなどでやたらぼけた前景(人の肩を後ろから撮ったり、手前の食器などをぼかしてあえて入れていたり)を入れたりするのは、狭い空間で手前、主題の人、背景の3つの層を絵的に構築して「空間」を表現しているからだと考えています。

■層を意識して前景を考える

3つの層を考えるとき、目を引いたものに対して自分との間を考えて、前景が入れれる場合と、そうでない場合があるとおもいます。

前景の使い方にはいろいろな方法がありますが、僕が今の段階でよく使うものから前景を考えてみます。

前ボケを利用した前景

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「見えているけど見ていないもの」を入れる、いわゆる前ボケを利用するものです、先ほどの那須のものがまさにそれ。

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スナップだとこんな感じで、前景をぼかすことにより奥へと視線を誘導させるようなやつです。

線遠近法を入れた前景

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前景に線遠近法の要素を入れて、中景にそれをぶつける「前景に線の要素を入れる」というものです、こちらの写真は前景から奥に向かって線遠近法を使い力を集約していますが、前景をぼかしたので視線が人へと向かいやすくなっているはずです。

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超広角を利用して線遠近法を使った場合、強力なパースを画面にかけることができますが、その結果本来の景色の持っている情報よりも、パースのダイナミックさなどが先行した絵作りとなり、「何が写したいのかわからない量産型絶景」を生み出しがちかもしれないですね。

超広角を利用し前景に主題を入れる

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前景に主題を置く、広角では良く被写体に寄れといわれますが、これは広角レンズの持つ前景を引き寄せて、中景より奥を遠くに追いやるという効果を使って遠近感を強調するものだと考えています。

海沢渓谷三段の滝は左右に人工物、滝自体もあたりさわりのない3段のものです。

3段故の奥行きと高さを撮ろうとしたとき、超広角を利用し1段目の前景により、中景と遠景を奥に飛ばすことができれば、奥行きと高さを強調することができます。

これは後述の「マクロで練習すると背景を整理する練習になり、ネイチャーでも生かせるようになる」というものの延長にあります、層の組み方が同じです。

■広さを生み出す遠景の配置

中景と遠景を切り分けるいくつかの手法

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空気遠近法による遠景の作成。

遠景は主題に対しての背景でとても重要な要素で、中景と切り分けてあげると広さの演出にとても貢献してくれます、こちらの写真では手前の天童市内と奥の奥羽山脈とで空気遠近法による色の対比により、層を作りました。

空気遠近法とはいっても、僕はこの技法は単純に色彩遠近法の一種だと考えています、空気遠近法は遠くのものが空気の層を通る光が拡散することにより霞んだり青くなります、色彩学的に青はそもそもが暗い色ですよね?

なので、前景と中景に明るい暖色系があり、奥にそもそもの色が暗いとされる青がある場合は層を簡単に作ることができるというものです。

ただ、一つ注意したいのは3層で色は分離したいということです、空気遠近法で遠景が青となる場合その手前も青で……となると、明度、彩度などの工夫が必要になるかと思います。

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色彩の効果

霧ヶ峰での遠景は奥にある八ヶ岳と手前の霧ヶ峰とオブジェクトで分けています。

こちらも遠景が青く、画面手前に来ると黄色が多い構成ですね、画面はこの二色と遠景に顔を出した空で構成されています。遠景の手前の中景が影となり色的にも青が強いことと、手前の黄色が対比となり色彩的な効果もあって奥行きが生まれています。

この場合は中景から遠景は青系ですが、霧ヶ峰の稜線と画像の上辺のフレームが遠景の八ヶ岳がのぞき込むための穴を形成しています、さらにそこに走る明るい空の色が周辺との差を生むことにより、遠景が中景から分離されているので、違和感がありません。

景色を見たときに色や質感、オブジェクトを3つに分け、主題に対してまず背景を考えるのがよいのかなと今は考えています、主題に対して背景を整理するためには、マクロを利用した練習などが有効です。

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色と光の層

この写真は前景に明瞭な高山植物、背景に行くにつれて解像度と色が失われ、さらに色も明るくなっていくという構成になっています。効果を発揮しているのは層の連続性です。

前景を基準として中景に行くにつれて一つ一つ要素が「なくなっていきます」、層を組むということでは目の前の景色を作例のように横に横断する層をいくつも重ねるのが一番簡単で理解するのには手っ取り早いかもしれません。

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光学効果による前景の作成

なぜ風景はF22とかF16で撮らなくてはならないのか?と思ったことはないでしょうか、よく見かける話ですが僕は絞って撮る必要があるのは前景と中景と遠景で風景に対しての説明が発生している場合と考えています。

それ以外の状況では、自分の表現したいことや撮りたい絵に合わせて露出はコントロールされたほうが良いでしょう。

さて、光学効果による前景の作成とは、開放状態で強力な前景を無理やり作るというものです、広角を利用した場合前景と中景が線でつながってしまっていて切り分けれない、などといった時に使われることが多いです。

望遠でも上記の作例のように自分の手前をぼかして、那須岳の避難小屋とその奥の森という2層の前にもう1層強力な前景を作ることにより、奥行きを意識してもらうというものになります。

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開放を使い前景を緩くすることにより、画面中心の小屋やその奥にアイキャッチが落ちるようになっていないでしょうか?

自分の立ち位置から那須岳避難小屋への道のりを表現しようとしたこちらは、手前の草木を入れて立ち位置を示唆し小屋までの距離を出しています。

しかし、手前が強くなりすぎると目が手前で止まります、なので開放で緩めることにより視線が最初に真ん中に行くようにと調整を行いました。(PCの画面で見ないとわからないかもしれません)

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前景を緩めていない場合の写真を見てみましょう、こちらの巻機山は30㎜付近で撮影されており、前景から伸びる線の効果で中景に視線が……となるはずですが、手前の足元に視線が行きがちではないでしょうか?

これは手前の道と、画面真ん中の池塘のあるエリアが絵的には一体化してしまい切り離しが不十分になっており、層的には2層となっていると考えるのが妥当です、3層以上とするためには手前をもっと緩めなくてはいけなかったのでしょう。

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背景という書き割りの超巨大なお皿の上に、主菜と副菜をどう置くかを考えるイメージです、マクロでの練習で主題と背景というシンプルな組み合わせを練習すると、自然とネイチャーでも3層を意識する際に役立ちます。

前景の花びら、中景のボケた花びら、背景の緑一色といった感じです、前述の3段の滝を超シンプルにするとこの考え方になります。

■3層を使って空間の広さを表そう

層を構築するためのものは無限大

3層を構築すると広さが出ると考えてお話をさせていただきました、この層を作るための要素はいろいろなものがあります。

オブジェクトの違い、色の違い、ボケ方の違い、質感の違い、暗さの違いなどいろいろな要素を利用して前後の面に認識の境界線を設けることができるはずです、それらのコントラスト、メリハリに差があればあるほど境界線は認識しやすく、層がはっきりするのではないかと考えています。

海外ドラマやBBC、ナショナルジオグラフィックの特番が好きで、なぜ彼らの作る絵は広いんだろうということを考えて練習をしているなかで思った層の意識、山や自然の中で写真を撮るとき、少し意識をしてみると、それまでよりも広いものが撮れるのではないかなと思います。

というわけで、普段の練習や山での撮影で考えている、広さに関して僕なりに考えていることでした、何かしらの参考になれば幸いです。




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redsugar
登山ブログを書いたり、山で写真を撮っています、登山写真で気が付いた技術をひたすらつぶやきます。