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【短編】預けられた者達の衝動

戦力外者達の相談


 王国近くの小高い丘の上。そこに二人の人間と三体のモンスターが円陣を組んで座っていた。

 モンスターは青白い肌にあちこち傷だらけではあるが腐敗による損壊の無いゾンビ女性・エルダ、人間のような伊出達にズボンをはいた狼人間・ガル、半透明な色白い肌、白い衣装を纏った幽霊の男性・ボーマンである。
 人間二人の内、一人はローブが暑くて脱ぎ上半身裸の、魔法使いの初老男性・バルドと、村人と同じような衣装に剣を傍に置いた若者・オックス。彼らは魔王に立ち向かう勇者の仲間であった。

「さて、皆さんに集まってもらったのは、他でもない、我々は今後どうしていくかについてです」ガルが仕切った。
 エルダは爪を気にしながら訊いた。「今後って、ずっと同じでしょ? その内あの人達、魔王倒してくれるっしょ」
 バルドは扇子で自分を仰いでいた。「いやいやお嬢さん、これは結構深刻な問題だぞ」
「えー、どうしてですかぁ?」いじった爪が剥がれ、それを修正し始めた。「だってもうあの人達の旅って終盤に差し掛かってるじゃないですかぁ。てことは、余程の事が無い限りあっしら用事ないっしょ。ゾンビで死んでるあっしが言うのもあれだけど、もう皆終わった感じでしょ?」続きを微かに笑いながら言った。「まあ、あっしは人生もこっちでも既に終わってるけど」自虐だが笑えない。

「そうじゃありませんよ」ボーマンが話した。「僕たちは彼の優しさや魅力に惚れ、こうして仲間になった。しかしなったはいいがこうして預け所に預けられ、今まで一切呼ばれていない。これでは彼らの仲間になった意味が無いのでは? という事です」
「ええー。でもいいじゃん。あっしら魔王様の部下って言っても、会った事ないし、魔王様の部下の部下の部下に従ってるって立ち位置だったじゃん。正直、あの上司嫌いだったのよねー」
 エルダは、嫌気がさした現状で勇者一行に会い、仲間になったらしい。
「いいんじゃない? 不服があったら頃合い見計らって勝手に抜けるとか」
 エルダの提案は御尤もだが、四人はそれを素直に受け入れられなかった。

「それが出来るならとうにしているんだがな」ガルが話し出した。「俺はあの人達の優しさと勇敢さに惚れた。いくら同行させてもらえないといっても、会いに来てくれれば気に掛けてくれる。他の者達も同様の意見だそうだ」
「まあ、俺はあいつの幼馴染だから大事な奴らは気に掛けるのを知ってるから、いい加減な評価は出来ないんだけどね」オックスが言った。「ってか、こういった世界のシステムが変なんだよ。大半のモンスターが仲間になるけど、心が綺麗な奴限定とかどうとか。皆と話してたらモンスターも人間も似たようなもんっしょ。人間にも悪人だって卑屈で馬鹿なやついるし、仲間分けの分別に意味ないじゃん」
「ああ、そっか。人間は知らないんだね」ボーマンが返した。
「え? 何を?」
「この世界のモンスターは、魔王様の魔力と生き物の魂、まあ霊体とかって思って。それが混ざって何かしらに変化させたり宿したりして出来上がったのが僕らみたいなモンスター」
「ほう!」バルドが驚いた。「じゃあ、皆は元々人間だったりとかか」
「僕は見たまんまだからそうだけど」人間の幽霊としてである。「個体として、ああ、猛獣とか異形のモンスターとかです。そういった別の形として成り立ってる方々はその辺の記憶はありませんよ。それで仲間になるのは、前世が善良な方々とか、まあ、善行に携わっていた方々などです」

 オックスが質問を投げかけた。
「金貨や宝石が具現化したもんだと思ってた。だって昔っからモンスター倒したら高価なモノに変化するでしょ?」
 ガルが説明した。
「現代は確かにモンスターを退治したら金貨を出すモノはいるが……」どう説明しようか言い淀んだ。
 そんな彼に加えて、エルダが何気なしに応えた。
「ああ、あれ金貨に変換してるだけだよ」

「「変換⁉」」オックスとバルド同時に驚いた。

「そ。本当は金貨とかに変わんなかったのよ。退治して毛皮剥いだり、骨取ったり、武器とか防具や衣装とか色々の素材に使われてたみたい。ガルの毛皮とか見たら温かそうでしょ」
 現在は夏。この時期にそう言われても暑いだけだが、確かにそうである。
 振られたガルは自分の腕の毛を撫でた。
「けど、それするとモンスターが危険ってより、素材集めの人間の残虐性が浮き彫りになって、どっちが魔物かぁって感じ? で、元はボーマンの先祖なんだけどね。ゴースト族が一堂に集まって大規模禁術を使ったの」
「どんな禁術?」
「それが、死んだモンスターを金貨に変換するシステム。これが人間の記憶まで総合で書き換えちゃうから今まで素材集めに励んだ者達は、賞金稼ぎに変わってモンスターも強くなったってわけ。結構大変だったみたいよ。モンスターの残骸がそこら中に散乱してたみたいで」
「え、でも、日常で使われてるモンスターの素材とかは? 全部金貨だったら素材は存在しないじゃん」
「死んだモンスターが害意の無いモンスターに変換されて生きてるのが素材として残る種族。人間は金貨に変わるのを『モンスター』、死骸が残るモンスターを『野生や家畜の動物』って分別してるけどね。もう、モンスターって使い回し転生しまくりよ。あ、転生が流行ってるから使ってるんじゃないからね」
 そんな部分に関し、オックスもバルドも聞き流していた。

 話が大幅に脱線したが、ガルが咳ばらいをした。

「話を戻させてもらうぞ。殆どのモンスターは、あの人の仲間を離れたくない。しかし今後どうしようか悩んでいる者が大半だ」
「それはこちらも同じだ」バルドが言った。「そもそも同行出来るのが八名で、各々にイベントを控えた人間の仲間が十人もいて、それでモンスターが仲間になるという設定事態が狂っているのだ」

 オックスは納得した。「現在、頼りになる強そうな人間四名、モンスター三体、そして勇者。システムが勇者に人を選ぶ苦しみみたいな圧力かけてるのか、仲間になった連中に『お前等はただのコレクションなのだ』って決めつけてるような事が異常なんだよ。まあ、幼馴染の俺でさえ戦力外だけど」
 まったく笑えない冗談に、いよいよ爪の修復が不可能と判断したエルダ以外、一同に溜息を吐いた。
 束の間の考え事による沈黙の後、ボーマンが提案した。

「僕たちで町を作りましょう」

 突拍子もない提案だが、はてさてどうなることやら。
 戦力外でやる事も無いモンスターと人間達の行く末は。

国の規制

 町を造る。簡単に提案された事だが、これには大きな障害が立ちふさがった。それは、国の許可申請だ。
 現在、預かり所にいる者達は、国の指定された土地内でしか生活できない。これは、勇者の数々の功績により国王の恩恵で貸し与えられた、云わば【借地】なのである。
 広さとしては町一つが出来そうなほど広大ではあるが、それを勇者以外の者がむやみやたらにいじっていい理由にはならない。

「つまり、何も出来ないって事だよね」オックスがぼやいた。
 町創作に関し、四人が集まった。とはいえ前回の面々、オックス、バルド、ガル、ボーマンである。エルダは諸事情によりこの場に居ない。
「けど国の規定もおかしいよね」

 三人はボーマンの方を向いた。

「何がだ?」バルドが訊いた。
「ほら、一応僕らはモンスターで、人間の仲間も混ざってて、皆が善良な者達って事でここに預けられてるんでしょ?」
 三人は頷いた。
「けど、それって僕らの個性はそっちのけの考えだよね。善良って言っても、全員が全員気長で穏やかって訳じゃないもん。短気だって喧嘩っ早い奴だって、力振るわなきゃ気がおかしくなる奴だっているでしょ? そんな連中が一か所に集まって、その土地が現状を維持できるわけないじゃん」

 現に、大の大人三人分の高さはある巨人族のモンスターは、草原に向かって丸太のような木槌を振り下ろして穴だらけの所は数多い。
 ボーマンの話を聞いたガルは頷いた。
「確かに。勇者様への手助けとして国が貸し与える土地としては、些か締まりが甘いな」
 そう考えると他にもおかしいとと思われる点がいくつか見受けられる。

 人間は別に預かり所に住まなくてもいいのではないだろうか?
 善良なモンスターを預けるなら、なぜ敷地より街中へ入らせない結界が張られているのか?
 土地の改築等に規制を張られる?
 警戒してるのか重宝しているのかは分からないが、食料は国が支給してくれる。
 有事の際、国の防衛役として戦場に駆り出される。

 バルドは頭を掻いた。
「こりゃぁ、考え方を改めるしかないぞ」
「っていうと?」オックスが訊いた。
「そもそも、バリバリ規制が掛かった場所を人様並みにいじるって考えが甘いのだ。国民は働く事で誰かの支えであり、その成果と納税で国益になっている。まあ、冷静に考えれば儂らの存在は有事の際の兵器かもしれんが、現状では国税を使って生かされてる金食い虫だ」

 ガルは眉間に皺を寄せた。

「少々言葉が過ぎるのでは⁉ 我々がーー」
「しかし事実だろ? ここにいる四名、何で稼いで国に金を払った?」
 言われて三人は押し黙った。
「そもそも国というのは国王を含めた城側と、国民との間に快い感情を剥きだしあって楽しい嬉しいの間柄であっては成り立たん。国民が納めるモノをきちんと納め、城側は国民の生活等をきちんと成り立たせるために政を行い、更には国の行く末を決める舵取りもせねばならん。今は魔王がいて、我々のような存在が成り立っているが、勇者様の旅の終焉、それは我々の”離別”を意味する事にもなる。居ても国税を消費するだけだからな」

 いくら勇者様の偉業によりしばらくは残っていても、魔王に苦しめられていた時代の熱が冷めれば、預かり所の有無を問われてしまう。当然、潰されて全員が方々に散るのは目に見えている。
 三人はバルドの意見に納得した。
 四人が頭を悩ませていると、オックスがある事に気付き、よーく考えたのち、それしか手はないと思い至った。

「これなら何とかなるかもしれない」

 はたして、オックスの提案とは如何に。

イベルの交渉

「では、特殊建造物二棟、預かり所滞在のモンスター及び人間の外出許可の申請を受諾致します。本当に宜しいのですね。勇者のいない貴方達が外出するという事は、魔王の気に侵される危険があるという事を」
 預かり所担当者と、紳士的な容姿の悪魔族モンスター・イベルとの契約は無事に済んだ。
モンスターの監視役としてオックスが同行している。

「ええ、ええ。この条件を国側が飲んでくださるのでしたら、我々としても好都合。我々もただ放し飼いされているだけでしたら身体が訛ってしまい、国の提示する『有事の際の戦闘要員』としての役目を果たせなくなってしまいます。この条件を飲んでくださるだけで、この国の利潤を与える結果となりうるのです」
 さすが悪魔だけあって口がよく回る。元々イベルは人間を口八丁手八丁で罠に誘い込み、自身の持ちうる魔法を駆使して相手を殺すモンスターであった。しかし仲間にしても、戦闘向けではなく、敢え無く預かり所行の末路を迎えた。

「しかし国外にモンスターが出た際、悪に染まらない保証はどこにもないのでは? 貴方達も知っての通り、悪性の強いモンスターは国内に入れず、再び誰かと戦う羽目になるのですよ」
「その問題に付きましてはこちらの書類を御目通しくださいませ。これでしたらやや高い確率で悪性に染まりはしません。ですが、もし染まり再び人間に害を成すのであれば、その際は命を落とす覚悟は皆しておりますので」

 担当者は渡された書類を黙読し、納得した。
「分かりました。では、外出に関する最終確認とさせて頂きます。同行するモンスターの監視及び世話役をオックス氏・バルド氏が担い、どのような惨事に見舞われたとしても、どのような害を被ったとしても、国は一切の関与をしないとする。これでよろしいですね?」
 イベルもオックスも返事をし、交渉は終了した。


「いやはや、よくこのような手段を思いつきましたなぁ、オックス殿」
 預かり所への帰路、イベルはオックスの案に感銘を受けた。
 オックスの提案は、自分達も国外へ旅し、功績を上げて国の恩恵を受けれる立場になる。そして勇者たちの労を労う施設を一つでも多く建て、役に立つというもの。

 しかしこの案には大きな問題が二つあった。

 一つ、勇者でない自分達が借地に一棟でも建物を建てても良いかという事。
 一つ、国外へモンスターが勇者無しで出ると、魔王の気に圧されてて悪性を取り戻すという事。

 建築の方は、他所で功績を上げれば許可してくれると思い、問題点としてはほぼ解決に近いものであった。
 一番厄介なのが、モンスターの外出。この問題を阻止すれば、色々と功績を上げるのは容易で、この難点だけを如何にしてクリアするか。オックスは悩みに悩み、解決の糸口を見出した。

『聖騎士の加護』と呼ばれる首飾りと、『恩恵の羽衣』と呼ばれる薄衣。この二つを使用する。
 聖騎士の加護は、悪性の高い気を寄せ付けない効果があり、恩恵の羽衣は、装備者が受け持つ特殊効果を仲間全体に分け与える。
 どちらも希少だが、戦闘が激化する勇者の旅路では、現在不要とされ預けられている。
 この二つを装備して旅をすると、仲間のモンスターは装備者が死なない限り安全だ。

「けど、イベルさんの話術が無いと許可を得られませんでしたよ。それに、問題はまだまだ山積みですから、イベルさんには今後とも頼る形になるのは申し訳ないのですが」
「そのように下出に回らないで頂きたい。私など口八丁と微々たる魔法を使用するしか芸は御座いません。それを遺憾無く発揮できるのでしたら、存分に発揮致しますよ」
「心強いです」


 二人が預かり所へ戻ると、ガルとボーマンとバルドが会議室へ二人を連れて行った。

「さて、無事に許可を得たとはいえ、何から始めれば良いのやら」バルドが呟いた。
 四人が悩む中、イベルは手を挙げ、ガルが訊いた。
「そもそも、皆様はどれ程の戦闘能力があるかを知ることが重要だと思います。私はついひと月前にこちらへ来た新参者故、皆様の事をよく理解しておりません。勇者様も魔王に迫る存在な為、魔王の気も昂(たかぶ)り、国外のモンスターも強くなっておられます。そもそもそういった凶暴な元同胞を殺める事が出来るかどうか。まずはそこから見た方が宜しいかと」

 確かに。と、四人は納得した。

「しかしそうなると、また問題が出てきますよ」ボーマンが答えた。「イベルさんは元が強いモンスターだからレベルを上げればかなり強くなります。けど、僕や小物のモンスターはレベルが上限に達しても強さに限度があります。だから旅向きじゃないです」
 続けてガルも補足した。
「そもそも、俺たちに強さの見込みが無いからここに預けられたようなものだ。旅を出来ても近場のモンスター討伐ぐらいが関の山だ」

 イベルは手を二度叩いて注目させた。

「皆様、そこまで落胆する必要は御座いませんよ」
 一同、イベルの話に注目した。
「そもそもレベルに上限があり、強くなければならず、旅の人数に制限があるなどは、”勇者様”が背負った欠点のようなもの。冷静に考えてみてください。旅芸人や商人の方々は人数制限を設けて行動してますか? 荷物の量など規定はありますか?」

 言われてみれば。と、一同は納得した。

「我々は弱く魔王退治と言われる力圧しで制する旅に不向き故に集められた者達です。しかし、勇者様が背負った条件を背負う必要が無い利点を得ています。つまり、旅の同行数に制限は無く、力比べで相手を制する必要もなく、武術剣術、そして魔法を駆使して相手を負かす必要も無い。更には馬車など必要とせず、体の大きいモンスター、力の強いモンスターの協力を得て物を運ぶことも出来るということ」
 オックスが質問した。
「けど、どうしても相手が攻めてきたら太刀打ちしなければなりません。どうすればいいのでしょうか?」
「力で負けるなら戦略を練って相手と対峙すればいい。ここには多種に渡るモンスターがいます。それぞれの利点を考慮して如何に相手を罠に嵌めるか、武器を即席で造り退治するか。それを繰り返していれば、必然的に皆、強くなります」

「しかしレベルの限界まで達してもそれほど強くならん者もいるぞ」ガルが訊いた。
「”限界”というのも勇者様が背負った欠点の一つ。あの御方様は条件が揃わなければ更なる高みへ行けないのが”枷”でもあります。しかし我々にはその枷がない。限界突破、進化、覚醒。中には転化や闇化などというのも御座います。つまりは、種族の本質を解放すれば益々強くなれるのですよ」

 そんなことを知らない四人は、なぜイベルがここまで色々知っているかを考えた。その答えはすぐに判明した。
 そもそも悪魔族は魔王の補佐を生業とする部族。人間側の特性は調べ上げて熟知している。それはつまり、勇者様の事も良く把握しており、他者と勇者様との違う性質も理解している。

「でも、そんな罠を張る策を練る人がそうそういるとは思えないけど……」
 ボーマンが嘆くと、すぐにその答えが判明し、一同はイベルの方を向いた。
 イベルはズレた眼鏡を指で押し上げ、不敵な笑みを浮かべた。
 この笑みはけして悪だくみを考えてではなく、彼の癖であった。

勇者、仲間との距離間で苦悩する

 勇者一同は、目当ての魔王を倒して帰路についていた。
 長年の悲願であった魔王を倒したのに一同は浮かない表情である。けして疲労がたまっているからではない。

 勇者一同の心のシコリ、それは魔王よりも強く、魔王も制御しえなかったモンスターが各地に点在しているらしい。
 レベルも高い勇者一行が満身創痍で魔王を倒したのに、それよりも強いモンスターがいるとなると、今後の旅路をどうしようか。もし旅を止めるなら、預かり所にいる仲間達はどうしようか。悩みの種は尽きなかった。

 一行が国に帰還すると、その光景に驚きを隠せなかった。

 なぜか王国が色鮮やかな魔力を揺蕩らせており、所々に虹色に輝く工芸品が飾られている。勇者に馴染みのある家々には、琥珀色の牙が一本の紐で束ねられ、窓際に飾られている。
 石畳の通路にも宝石や魔石が散りばめられ、特定の場所にしか存在しない水晶の木々があちこちに立っている。しかも中々折れず頑丈だ。

「国王! これは一体どうしたというのですか⁉」
 すぐさま国王に謁見を賜った勇者が、開口一番に訊いた。
 国王の説明では、勇者が預けたモンスター達のおかげだと返ってきた。

 勇者は足早に預かり所へ向かうと、そこには異空間へ繋がる壁が隔てられていた。
「勇者様お疲れ様です。皆お待ちですのでどうぞこちらへ」
 綺麗に正装した衣装を纏っているが、よく見ればそれはエルダであった。

 勇者一同は多くの色が混ざって渦巻く壁を通り抜けると、そこには目を見張る光景があった。

 夕日の淡い橙色の光を纏う黄金色の麦畑、崖から眺めれる雄大な海、飛び交う鳥達、草原を駆け回る動物達、雲は全てが彩雲、吹く風には仄かに黄色や緑色の輝きを揺らめかす精霊が混ざっている。
 穏やかで和やかあ極楽の光景であった。
 ふと、勇者が見た先に、上半身裸で腿まで丈の短いズボン姿の男性を見つけた。
 駆け寄って見ると、隆々とした肉付きの、見違えたオックスであった。

「ええ⁉ オックスか! ……まあそれはいい。なあオックス! これは一体どういうことだ」
「おいおい、幼馴染との再会なんだ、もっと感動的にしようぜ」
 どことなく雰囲気まで変わっていた。
「まあいいや。ここは俺たちが旅して得た楽園さ。今皆色んな所にいるが、探せば誰かいるはずだ」
「いやそうじゃない。どんな旅したらこんな異空間を得られるんだ! それに街だって妙な事になっている」
「妙じゃないさ。実は、お前たちが魔王退治に行ってる間にな――」

 オックスは自分達の武勇伝を聞かせた。

 モンスターの監視役をオックス。策士をイベルに据え置き、一同は預かり所全ての仲間を引き連れて強くなる旅に出た。
 大仰な罠を幾重にも国外の森に張り巡らせ、悪のモンスターや獰猛な野獣を退治しては素材を集めて国へ献上した。
 修業と素材集めがひと段落した頃には、預かり所の町化計画の申請が下りた。しかし、ただの町で本当にいいのかと疑問が浮かび上がった。

 なぜなら、モンスター達は人間のような生活をしたいのではない。楽園のような空間で幸せに、悠々自適に暮らしたい。が本心だったからだ。
 この問題を解決するには、特殊な素材と魔法と土地が必要である。

 イベルの案は、空間転移魔法を張り、別の土地へ飛び、そこを楽園にする。である。しかしこの計画には特殊な素材が豊富に必要であり、仲間のモンスター達を進化・覚醒させてから、魔王より強いモンスター達のいる地へ赴き、素材集めがてら討伐しなければならなかった。

 オックス達は、苦労に苦労を重ね、この離れ小島と空間転移魔法を預かり所に張る事が出来た。街の雰囲気が変わったのは、目的地で調達した魔除け効果のある宝石などを国王に献上し、空間転移魔法の影響が街に及ばないようにするため、イベルが考案した安定術式の結果が、あの街に仕上げた。

「結構苦労したんだぜ。なあそれより温泉行こうぜ。モンスター達はそれぞれ悠々自適に暮らしてるけど、別の空間に人間が経営出来る温泉施設作ったんだ。国王様も御贔屓にしてくれてるんだ」
 オックスに手を引かれ、勇者は温泉地へ向かった。

 仲間がこういった功績を上げてくれるのは嬉しいが、苦労の質の違い、自分達が討伐に頭を抱えていたモンスター達を倒した不思議な虚しさ、彼らとの距離感。
 勇者は嬉しくもあり寂しくありながら思った。

 仲間は預けて疎遠になっていると、いつか自分が突き放されるのだと。 

 勇者は、討伐ばかりに感けず、仲間ともっと触れ合おうと誓った。




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