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#28 地球の割れ目
イスラエルとヨルダンの国境にある死海。
行ってみた。
エルサレムからバスに乗る。
遠くにキブツだろうか、地味な印象の建物が幾つか見える。
途中には海抜0mの標識があり、これより先は海面よりも低い所へ向かうわけだ。
死海は海抜−423mであり、その深さも最深部で433mある。
海抜0mから換算すると約850mの窪み、溝、亀裂である。
まるで地球に振り下ろした巨大な斧を抜いた後の傷のようだ。
また、出発地エルサレムの標高は800m弱なので、高低差は1200mを超えている。
車窓を眺めながら1時間半程揺られるとバスは地の底、死海湖畔に到着。
🚌==3==3==3
湖畔まで行くと幅18km先の対岸にそう高くはないヨルダンの山々がうっすらと連なっているのが目視できる。
水は澄んでいて、水中の白い石が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
目を近づけると、透明ではあるのだが、サラッとした液体というよりも、粘度があるように何かがゆったりと揺らめいている。
飽和寸前の塩水はこんな風に揺らぐのだろうか。
死海の塩分濃度は30%と異常に高く、(海水は3〜%程度)魚類が棲むことはできない。
生き物にとって死の海である。
そうなるとどれほど塩味が強いのか体験してみたくなる。
舐めるというのも躊躇われたので、濡れた指先をチョンと舌につけてみた。
「・・➿🗯!」
かなりのしょっぱさである。
しょっぱいと言うより、苦味を感じ、痛みすら覚えた。
さて。そうである。
ここへきた観光客の9割以上がやることを私もトライしてみたのだ。
水着になり、浮いてみた。
これが本当に浮くのだ。
何もしなくても。
試しに平泳ぎをしようとしても、足は湖面より上の空気を蹴る状態である。
両手を広げて仰向けになる。
完璧に浮く。
用意したハードカバーの本を開く。
活字を追う訳でもなく、単なるポーズだ。
(俺は今、地球の割れ目とも言うべき場所で浮いているのだ)
と感慨に耽っていると、何処からか金属音のような破裂音のようなものが聞こえてくる。
やがてそれは段々近づいて、音も大きくなってくる。
なんだ?と思いそちらへ目を凝らすと黒い点のようなものが見えるではないか。
ん?と思う間もなく、それはグングン大きくなり、やがて戦闘機であることを認識する。
「え?」
こちらは死海に浮いたまま、一瞬のうちに頭上を過ぎ去るその黒い飛行物体を呆けたように見つめるしかない。
恐らくイスラエル空軍の訓練飛行なのであろう。
この地が大きな緊張と強いタガによって辛うじて平和が保たれている地域なんだということを実感する。
そういえばエルサレムの土産物屋さんに売っていたTシャツには戦闘機のイラストと共にこんな文字がプリントされていた。
「America don't worry, Islael is bihind you.」
「我々がついているんだから心配しなくていいんだよアメリカさん」
なるほど。
コトは逆なのか。
妙に納得のいく言葉である。
戦闘機が飛び去った後、同じ方向を一羽の鳥が同じ空をのんびりと横切ってゆく。
あの鳥は海面より低い所を飛んでいるなんて夢にも思わないのだろうな。