#93 水着売り場
もう何年も前のこと。
妻が水着を買うと言うので付き合った。
女性水着売り場などという場所はこれまで一度たりとも足を踏み入れたことがなかったのだが、まあ空気感まで含めてカラフルなトコなんである。
赤や、青や、黒、黄色、花柄、なんか布面積がちっちゃくないかコレ的なものまであるではないか。
そして少しドキドキする場所でもあるのだった。
気に留めた幾つかの水着を持ち、妻は試着室へ。
その前で、手持ち無沙汰且つどんな表情でいればいいのか分からない私は
「どう?」
と聞いてみた。
というか、それぐらいしかすることはない。
「ん~この紺色のやつのワンサイズ上持ってきてくれる?」
「・・・ん、分かったあ。(だから最初からそれ持って入れっつーの!体型考えりゃ分かるだろ!)」
などとやっていたのだ。
指定されたサイズと、新たに良さげなものも見つけたのでそれらを持ち
「お?あれもいいんじゃないの?」
などとウロウロしていた時、後方より声が掛かる。
「あの・・お客様・・・」
振り向いた私の耳に聞こえてきた言葉は一生忘れられないものとなった。
「ご・・ご試着でしたら・・こ・こちらでどうぞ。(with 怯え)」