いったい何が起こっているんだ!?
スパイク・リーの最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』を観た。
アメリカから端を発し世界に広まった Black Lives Matterの盛り上がりを予言するような内容という前評判と、スパイク・リーの描く戦争映画ということで興味を持ったのだけど、これは骨太な作品だった。
ベトナム帰還兵の4人が戦友の遺骨と偶然手にし隠した黄金を回収するために再びベトナムを訪れる。戦友同士の友情、金を目の前にした人間の欲望、それをかすめ取ろうとする部外者…。様々な思惑がスパイク・リーらしいまるでミュージックビデオのようなテンポのいい映像で紡がれていく。まずオープニングにマーヴィン・ゲイの『Inner City Blues』が流れる。超クール。改めて歌詞を読むと70年代アメリカの問題を提起している内容なのだが、それがまるで現在を描写しているようで複雑な気持ちになる。
ロケットが月打ち上げられた
その金は恵まれない者に使ってくれよ
俺たちが稼いだ金は
手にする前にお前らが掠め取る
叫びたくもなるさ
俺の生活をどうしてくれるんだ
叫びたくもなるさ
俺の生活をどうしてくれるんだ
この他にも『Wholy Holy』『Flyin’ High (In The Friendly Sky)』『What’s Happening Brother』そして超名曲『What’s Going On(この曲の映画内でのアレンジは超クール)』と、マーヴィン・ゲイのアルバム『What’s Going On』から何曲も使われている。まるでこの映画のサントラだ。
また、ふと気付いたのだがベトナム帰還兵たちの名前がポール、オーティス、エディ、メルヴィン、そしてポールの息子デヴィッド…これテンプテーションズの黄金期メンバーの名前じゃないか。それならば、戦死した彼らのメンターだったノーマンとは? わからなかったので調べるとテンプテーションズのプロデューサーであるノーマン・ホイットフィールドからきているようだ。
なんというソウルへのオマージュ。これだけで感動してしまった。それに「黄金の誘惑(Temptation)に絡め取られた男たち」という意味もあるのだろう。
川をボートで下るシーンにワーグナーの『ワルキューレの騎行』が流れたりサイゴンのクラブに「Apocalypse Now」と書かれた看板があったりと、コッポラの『地獄の黙示録』に対するオマージュが 随所に見られるし、金を手にした男たちの仲に亀裂が走ることによっておこるサスペンスはジョン・ヒューストンの1948年作『黄金』を思い起こさせる。また、還暦を超えた老兵たちが最後の死に場を求め戦う様はサム・ペキンパーの1969年の傑作西部劇『ワイルド・バンチ』が透けて見える。このようにスパイク・リーは先人の偉大な監督たちに敬意を払っている。
映画の中でも人種問題についてストレートなメッセージをぶつけてくるが、注意して見ると決して黒人対白人の二項対立をけしかけてるのではないのがわかる。
しかし、ジャン・レノ演じる金を掠め取ろうとする悪役がいかにも白人を象徴する上下真っ白なスーツ姿なのは強烈な皮肉だけど。
映画のラストに「Black Lives Matter!Black Lives Matter!」と連呼する場面が出てくる。この映画は昨年作られているから、この運動が決して最近始まったものではなく、過去から現在にかけて連綿と続くアフリカン・アメリカンの叫びだと痛感する。強烈なメッセージを含んでいるが超エンターテインメント映画だし戦争映画の名作でもあると思う。スパイク・リーの円熟期に僕たちは立ち会っているのかもしれない。
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