僕は人生の初心者(まだ1度目)
ジュリアン・テンプル。と、言っても若い人には誰やらという感じかもしれないけど、80年代に大活躍していたイギリス人のミュージックビデオ監督だ。彼が1986年に監督した『ビギナーズ』という映画があるのだけど、また観たいなと思って配信されてないか調べたが、どこのサービスでも扱ってなかった。諦めかけたところ、リマスタリングされたブルーレイが発売されているのを知り思わず購入してしまった。
物語の舞台は1958年のロンドン。カメラマン志望の若者とデザイナーを目指す女の子とのラブストーリーに、当時のJAZZムーブメントやロックの台頭、そして新しい価値観を持ったModsたちの登場など、大英帝国の旧態然としたところに新しい文化が広がる様子をミュージカル風に描いた作品だ。
出演者が当時の豪華陣で、ヒロイン役はパッツィ・ケンジット、キンクスのレイ・ディヴィス、シャーデー、そしてデヴィッド・ボウイ!
ボウイは主題歌『Absolute Beginners 』も歌ってるが、これがちょーいい。僕はボウイの隠れた名曲だと思う。PVの監督もジュリアン・テンプルだ。
ただね。
これが。
映画としては酷いんですよ。
ストーリーや演出は陳腐だし、ミュージカルだけどダンスシーンにはっとするようなとこはないし、主人公演じたエディ・オコーネルはあんまり魅力的ないし(実際僕はこれ以外の彼の出演作を知らない。調べてもよくわからない)……。豪華なキャストも空回り気味。正直駄作だと思う。
しかし。
僕はこの映画が大好きなんですよ。
レイ・デイヴィスが演技して歌い、シャーデー演じる歌姫も美しい、パッツィはチャーミング。そしてボウイの堂々たるカッコよさ(ミュージカルシーンはかっこいいんだか何なんだかという感じだが)。これ以上何を求めるのか。充分じゃないか。
劇中のスタイル・カウンシルのヒット曲『Have You Ever Had It Blue』が流れるシーンも「おお」と思うし、58年という設定も絶妙で、モダン・ジャズムーブメントを踏まえて60年代のスウィンギグ・ロンドンを迎えようとする時代の躍動感にワクワクする。
でも映画はつまんないけどね。
人間は不思議なもので完璧だから愛するとか、不完全だから嫌うとかそういう生き物では無いのだなということを僕に再認識させてくれる作品の一つだ。結構俺の中でそんな作品いっぱいある気がするぞ。トランスフォーマーシリーズとか。
とにかく、ブルーレイを購入してこれでいつでも観られるという幸福感に包まれ、主人公が着ていた青いスーツに影響を受けブルー・スーツを仕立てたくらい好きな作品です。ジュリアン・テンプル自身もいまだにお洒落だしね。それで充分じゃないか。