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日本政府は女性差別撤廃委員会の勧告に従い、日本軍「慰安婦」被害者の権利を守れ!

 国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が10月29日「日本の第9回報告書に対する最終見解」を公表しました。
 女性差別撤廃委員会は、女性差別撤廃条約の履行を監視するために、国連人権理事会が設置している外部組織です。今回日本政府がきちんと条約を履行しているのか対面で審査され、男女共同参画基本計画や夫婦別姓、皇室典範のことまで、たくさんの項目にわたって勧告されました。
 本日は女性差別撤廃委員会の勧告の中から、日本軍「慰安婦」問題に関してどのようなことが指摘をされたのか、紹介したいと思います。

1,女性差別撤廃員会の日本軍「慰安婦」問題に関する勧告

 日本軍「慰安婦」問題についてはまず、このように指摘しています。

33.委員会は、「慰安婦」の権利への取り組みに関する締約国の努力を称賛する。しかしながら、このような努力は、真実、正義および賠償に対する被害者/生存者の権利を確保するために、持続され、拡大される必要があると考える。

 「慰安婦」の権利への取り組みに関する締約国の努力とは、アジア女性基金の取り組みのことなどをさしています。しかしそれでは足りない、被害者の権利を確保するために持続され、拡大されなければならないと指摘しています。逆に言えば、日本政府のこれまでの取り組みは、被害者の権利を満たしていないということです。
 「真実、正義及び賠償に対する被害者/生存者の権利確保」という言葉が、日本軍「慰安婦」問題の解決とはなにであるのかということを示しています。それは政治的な決着などではなく、被害者の権利の問題だということです。
 日本軍「慰安婦」被害者が求めていたことは多岐にわたっているのですが、とてもシンプルに言ってしまえばと「日本政府が加害の事実を認め、謝罪し、賠償すること」です。確かに日本政府は何度か謝罪は行ったかもしれません。しかし謝罪の前提となるはずの、加害の事実を認めていません。安倍元首相の「強制連行はなかった」「性奴隷は不適切」「20万人の根拠はない」という主張は、今でも日本政府の公式見解となって外務省HPから世界中に発信されています。今日はこの主張に対する個々の批判は止しますが、事実を認めていない者からの謝罪は被害者にとっては受け入れることができないのは当然だし、お金を渡されようとしても「これは何のお金なんだ」と言われて当然です。アジア女性基金の「見舞金」を受け取らずに1997年に亡くなった姜徳景さんは、アジア女性基金のことをこう言って批判していました。
《日本政府はお金が惜しいんじゃない。「慰安婦」がいたいうことを歴史に残したくないのだ。悪いことをしたと、日本は認めたくないのだ》
 姜徳景さんの言葉は、まさに本質を突いたものだと思いませんか?

 女性差別撤廃員会は、続けてこのように指摘しています。

34.委員会は(中略)国際法において、「戦争犯罪と人道に対する罪には期限がないという原則」を受け入れなければならないことを確認したという事実に締約国の注意を喚起する。委員会は、前回の勧告を想起し、締約国に対し、「慰安婦」に関する国際人権法上の義務を効果的に履行する努力を拡大・強化し、被害者・生存者の権利が全体的に取り組まれるようにすることを勧告する。

 前回の勧告のことを知らなければ、何が問題になっているのか、少しわかりにくいかと思います。
 前回2016年の勧告では、今回よりもずっと厳しめかつ具体的に指摘されています。
 当時は安倍政権と朴槿恵政権による2015年日韓合意が締結された直後です。2015年の日韓合意は日本軍「慰安婦」問題が「最終的かつ不可逆的に解決した」と日本と韓国の国家間で決定し、そこに被害者の意図はひとつも反映されませんでした。
 問題が解決したか否か、判断できるのは被害当事者だけです。
 ましてや日韓合意後も安倍首相は「強制連行はなかった」と主張し続け、「戦争犯罪の類ではない」とあたかも問題そのものが存在しないかのように振る舞い続けました。
 また2013年には橋下徹大阪府知事が「慰安婦制度は必要だった」「どこの国でもしていた」「米軍は性風俗業を活用してほしい」などと発言するなど、政治家をはじめとする公人の否定発言も相次いでいました。
 2016年の女性差別撤廃委員会の勧告は、このような日本の状況に危惧を表明したのです。今年の勧告にある《「戦争犯罪と人道に対する罪には期限がないという原則」を受け入れなければならない》という文言は、政治的な解決によって終わらせてしまうことへの過ち、過去の罪を容認擁護し続ける人を処罰する手立てすらない日本の現状に対する危機感の表明でもあるのです。
 今回の勧告は、文章こそ短いですが、前回2016年の勧告から一歩も前進していないゆえに、同様のことを求められたといえます。 

【参考】2016年の女性差別撤廃委員会の勧告からの引用

28.(前略)当委員会は以下のことをさらに遺憾に思う。
(a)「慰安婦」に対して行われた侵害に対する締約国の責任に関して、近年、公的な職にある者や指導的立場にある者による発言が増えていること、また「慰安婦」問題が「最終的かつ不可逆的に解決した」とする大韓民国との二国間合意の発表は被害者中心アプローチを十分に採用していないこと。
(b)深刻な人権侵害を受けた「慰安婦」には、締約国から公式で曖昧さのない責任の認知を得ることのないまま死去した者がいること。
(c)他の関係国の「慰安婦」被害者に対する国際人権法上の責務を締約国が果たしていないこと。
(d)締約国が「慰安婦」問題に関する教科書の記述を削除したこと。
29.(前略)当委員会は、このような違反を扱うことに時間的管轄権による妨げはないと考え、締約国に以下を求める:
(a)指導的立場にある者や公職者が責任について中傷的な発言を止めることを確保すること。こうした発言は被害者に再びトラウマを与える。
(b)被害者の救済への権利を認知し、それに基づいて損害賠償、満足、公式謝罪とリハビリのサービスを含む十全で効果的な救済と被害回復措置を提供すること。
(c)2015年12月に大韓民国と共同発表した二国間合意を実施するにあたって、締約国は、被害者/サバイバーの見解を十分に考慮し、彼女たちの真実と正義と被害回復に対する権利を保障すること
(d)教科書に「慰安婦」問題を十分に取り入れ、生徒・学生や一般の人々に歴史の事実が客観的に提供されることを確保すること。そして、
(e)次回の定期報告において、被害者/サバイバーの真実・正義・被害回復の権利を保障するために行われた協議や他の施策の状況について情報を提供すること。

 しかし私は、別の意味も読み取らずにはおれません。
 《「戦争犯罪と人道に対する罪には期限がないという原則」を受け入れなければならない》という文言は、過去日本の裁判所で行われた一連の「慰安婦」裁判を想起せざるを得ないからです。
 1990年代に世界中の被害女性から次々と提訴された日本軍「慰安婦」裁判は、被害事実は認定されているのに賠償は認められませんでした。その理由は時効と「二国間条約で解決済み」というものです。しかし今回の女性差別撤廃委員会の勧告を認めるならば、戦争犯罪と人道に対する罪には時効がなく、二国間条約などでは被害者の権利を妨げられないということになるはずです。
 いまさら言っても仕方がないことかもしれません。しかしあえて言います。日本の司法は裁判をやり直し、国際人権法を無視しない形でもういちど判決を書き直すべきです。

 勧告では日本の教科書で日本軍「慰安婦」問題について記述されなくなっていることにも触れられています。
 教科書の問題についてはこれまでも何度もアピールしてきたことですので今回は触れませんが、日本軍「慰安婦」問題が教科書から消されていることについて国際社会がどのように見ているのか、私たちはもっと考えるべきです。

38.女子・女性の教育を受ける権利に関する一般勧告第36号(2017年)に照らして、委員会は締約国に以下を勧告する。(後略)
(d)生徒と一般公衆に対して歴史的事実が客観的に提示されるように、教科書出版に関する政府指針で「慰安婦」を含む女性たちの生きた歴史的な体験を教科書が適切に反映するよう求めることを確保すること、また、あらゆる教育機関における教科書の正確性と標準化を確保するため、この指針を出版社がどの程度尊重しているかモニターすること。

2,女性差別撤廃委員会の性売買についての勧告

 日本軍「慰安婦」問題に関する所見と並んで私たちにとって重大な意味を持つのは、性売買に関する箇所です。日本での性売買の実態や社会の認識が、日本軍「慰安婦」問題の未解決に大きく影響を与えているからです。
 そして先に引用した日本軍「慰安婦」問題に関する勧告が、「人身売買と性売買搾取」に続いて述べられていることにも注目します。つまり、国際社会では日本軍「慰安婦」問題とは、現在の性売買に連なる問題と捉えられているのです。

 人身売買と性搾取という項目で、いくつもの重要な所見が示されています。
 性売買は、女性が一方暴力的に身体的自由を奪われ性を搾取されるわけではありません。そういう事例は稀です。多くは、だまされ不法な契約を結ばされたり、借金を抱えされられ性売買せざるを得ない環境に追い込まれたり、自分自身がその道を選択しているかのように、自己責任であるかのように錯覚させられています。女性差別撤廃委員会はそういう形態を「非強制的な形態の搾取」と呼び、そのような搾取を違法とするように法改正することを求めています。
 また性搾取の被害者の多くが外国人であることにも注目し、外国人の被害者でも救済されるように言語の障壁や在留許可の問題をクリアするよう求めています。また日本政府が日本社会の中に人身売買が存在しないかのような態度を貫いていることも批判しています。
 なにより経済的困難や家庭の不安定さのために性売買を強いられている若年女性、そして子どもへの性搾取と人身売買を防止する政策をとるよう勧告しています。これは仁藤夢乃さんのColaboがやっている活動ですが、Colaboはひどいバッシングのために行政の補助金を受けられなくなっています。本来であれば行政がColaboに協力して若年女性や未成年が被害に遭わないよう対策を講じなければならないというのに、実際には真逆のことが行われています。

29.委員会は以下のことを懸念する:
(a)現行の法的規定は、特に労働者人身売買において、非強制的な形態の搾取を完全に包含しておらず、「権力の乱用」や「脆弱性」による搾取への対処にはギャップが残っている;
(b)人身売買や性的搾取の生存者は、言葉の問題を含め、シェルターや法的サービスへのアクセスに障壁があり、長期的な社会復帰支援も限られている;
(c)労働者人身売買は、依然として著しく報告されていない;
(d)法律で禁止されているにもかかわらず、児童買春やポルノ関連の犯罪が引き続き報告されるなど、特にオンライン上で、児童搾取が続いている。
30.委員会は(中略)締約国に対し、 特に女性と女児の人身売買と闘う努力を以下の方法で継続するよう勧告する :
(a)労働者人身売買における非強制的な搾取形態に適切に対処するため、特に「権力の乱用」と「脆弱性」を対象とした法規定を改正すること
(b)人身売買や性的搾取の被害者である女性や少女がシェルターや法的サービスにアクセスする際の障壁を、言語的な障壁への対処や一時的な滞在許可証の提供などを通じて解消し、社会復帰への支援を強化する;
(c)独立した、秘密厳守でジェンダーに配慮した苦情申し立て手続きの確立と労働検査の強化を通じて、女性による労働搾取の報告を奨励し、人身売買の事例が効果的に捜査され、加害者とその共犯者が訴追され、適切に処罰されることを確保する
(d)子どもの搾取、特にオンライン上の搾取と闘い、児童買春とポルノ関連犯罪を防止するための対策を強化する。
31.委員会は、COVID-19の流行が経済的困難を悪化させ、多くの若い女性と女児を売春と性的搾取に駆り立てていることを憂慮して留意する
32.委員会は、締約国に対し、特に経済的困難や家庭の不安定さのために売春を余儀なくされている若い女性と女児の性的搾取と人身売買を防止するための的を絞った措置を採用するよう勧告する

3,国連勧告に従わないことは、この国に人権がないということ

 日本軍「慰安婦」問題に関して、女性差別撤廃委員会や自由権規約委員会など、国連の機関からこれまで何度も勧告を受けています。しかし日本政府は何度勧告を受けても、態度を改めようとしません
 「勧告には法的拘束力がない」というのが、従わない理由です。2013年には安倍政権が、日本軍「慰安婦」問題に関する国連の拷問禁止委員会の勧告について、「法的拘束力を持つものではなく、締約国に従うことを義務づけているものではない」とする答弁書を閣議決定すらしています。
 日本政府は国連の勧告の意味を全く理解していません。女性差別撤廃委員会や自由権規約委員会がなぜ各国に勧告を出しているのが、その重みを日本政府はまったく理解していないのです。

 第2次世界大戦が終わるまで、人権問題とは国内問題でした。人権を理由に他国が干渉することは、内政干渉でした。
 しかし人類はナチスによるホロコーストという大規模人権災害を止めることができませんでした。その反省から国連を設立するときに、人権問題を一国内の問題に終わらせるのではなく、国際的な問題としたのです。
 1945年には国連憲章が採択され、人権の尊重が国連の目的の一つとなりました。そして1948年には世界人権宣言が採択されます。
 人権が一国内のものでなく世界的な問題であるからこそ、各国の人権が守られているか審査の目が入るのです。条約加盟国であれば、勧告は必ず守られなければなりません。
 日本国憲法は条約を誠実に遵守することが定められています。国が批准や加入をした条約は国内でも法的拘束力を持ち、国内でも直接適用することができます。条約は法律より優位であり条約に抵触する法律は改正されなければなりません。日本は女性差別撤廃条約を1985年に批准しましたが、条約批准のために国内の3つの法制度の改正が必要でした。国籍法の改正(父母のいずれの国籍も選択できる)、家庭科教育の両性への必須化、男女雇用機会均等法の制定。つまり、条約を守るということはとても重要なことであり、日本政府の言うように「法的拘束力がない」というような問題ではないのです。
 女性差別撤廃条約についていえば、毎回勧告を受けているもののなかに、民法の再婚禁止期間と夫婦同姓規定があります。これらについても、本来であれば議論の余地はありません。条約違反だということであれば、国内法を変えなければならないのです。

 日本政府の無視や強気を可能にしている理由の一つに、日本政府が女性差別撤廃条約を批准していても、「選択議定書」を批准していないということがあります。
 選択議定書は1999年、条約の実効性を担保するために作られた制度です。個人通報制度と調査制度の2つを柱にしています。個人通報制度では、条約で認められた権利を侵害された個人が条約の委員会に直接訴えを起こして救済を図ることができます。委員会は個人と国の両方の言い分を審議し、必要と認められれば国に勧告を出すことができます。これに対して国は委員会に6か月以内に回答書を提出しなければなりません。
 日本政府が選択議定書を批准していない理由は「司法権の独立との関係で問題がある」というものです。しかし何度も繰り返しますが、人権は国内の問題ではありません。それに日本の司法がちゃんと人権を尊重するよう機能していれば、司法権との独立との関係でも何ら問題はないはずです。司法が非人権的だから日本は選択議定書を拒んでいる、世界はそう受け取っています。
 女性差別撤廃条約の選択議定書の批准は189カ国中114カ国です。日本がどれほど遅れているかわかります。

 日本が選択議定書を批准していれば、世界中にいる日本軍「慰安婦」被害者は日本の裁判で救済されなかったとしても、国連に訴えることができます。その時どのようは判断になるでしょうか?
《「戦争犯罪と人道に対する罪には期限がないという原則」を受け入れなければならない》
 その原則の重さが、私たち日本人の身にもしっかり刻み込むことができると思います。

 今まで話した内容の多くは、藤田早苗さんの『武器としての国際人権』(集英社新書)という新書本で学びました。ぜひともみなさん、この本を読んでみてください。国際法がどのようなものであるのか。人権とはどのようなものであるのか。そして日本政府がいかにそれを勘違いしているのか、きっとみなさんにもお分かりになると思います。

 最後にもう一度繰り返します。
 条約加盟国であれば、国連勧告には従わなければなりません。
 日本政府は女性差別撤廃条約委員会の勧告に従い、「戦争犯罪と人道に対する罪には期限がないという原則」を受け入れ、日本軍「慰安婦」問題の事実認定を行い、事実認定に基づいた謝罪と補償を行うべきです。そして学校教育においても日本軍「慰安婦」問題が語られるべきです。
 それが実現できる日本社会を作っていきましょう!

【2024年11月27日 第190回神戸水曜デモ アピール原稿】


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