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寝付けない夜に

布団の中に入って
どれくらい経っただろう。
今夜は目が冴えて眠れない。
今夜だけ?いや、昨日もそうだったかも。

早く眠らなきゃ、夏の夜明けは早い。
明るくなったら眠れない。
焦りながら布団の中で目を閉じていると、
おもてに何か気配を感じた。

庭に出入りするときに使う窓のカーテンを
開け、部屋の外を見たら、そこに大きな亀が
自宅に面した通りに浮かんでいた。

かなり大きな亀、よく見ると
昔、何処かの湖で乗った亀の形の遊覧船だった。
もっと良く見たくなって、窓を開けて外に出た瞬間、足がもつれ転びそうになった。

あっ!ヤバいっ!

と、思った瞬間、足元がふわっと浮いた感じがして、気がついたら、明らかに庭ではない、知らない場所に立っていた。

ここは??

周りを見渡すと、頭の上には、少し靄のかかった
濃い紫色の夜空。そして横を見たら緑の大きな亀の後頭部が見えた。どうやら私は、亀の遊覧船に
乗ったみたいだ。

こんばんは。今夜は靄がかかってますね。

と、おばあさんが話しかけてきた。

眠れない夜は、無理して寝ることないんですよ。
眠ってしまったら、夜空のナイトクルーズには
参加出来ませんからね。今夜は眠れない夜を、
存分に楽しんでください。

今度は、こんな船内放送が流れてきた。

おばあさんが

私なんて毎晩眠れないから、毎晩参加してるんですよ。

と、続けた。私は

確かに、眠れなくて布団の中でイライラしてるくらいなら、この遊覧船に乗って、夜風に吹かれてる方がずっといいですよね。

と、答えた。

靄がかかった梅雨の夜空には
星の輝きは見えなかったが、眠れない夜には、星の輝きよりも、靄がかかった夜空の方が、似合うような気がした。

船の手摺りにもたれ、下を覗いてみた。
街の灯りがぼんやり見えた。

まだ起きてる人もいるんだな。
そう言えばこの辺りは、

この辺りは、私の気になる人のうちがある。
実は、眠れない夜の原因のひとつに、彼の存在があった。同じサークルで、2年先輩。誰とでも気軽に話すイケメンは、もちろんサークルでも大人気。地味目な私に、その先輩が声を掛けてくれたのも、
多分、誰とでも気軽に話せる性格からだったと思うんだけど、だけどその日から、私の悶々とした日々が続いた。

今夜は先輩、何してんのかなぁ。

船は、先輩が一人暮らしをしてる
マンションの辺りに来た。靄がかかっているが、
何故か先輩の部屋のベランダがよく見えた。

ベランダには先輩。
そしてその隣に、私の親友の姿が。

先輩は彼女の肩を抱き寄せて
そのまま二人は、彼の部屋に入って行った。

なんとなく予感はしていた。
それも眠れない夜の原因だった。
多分、暫くは眠れそうにないけど
この遊覧船に乗れるなら、
それもいいかな。

(了)

夜景の写真を添付してます。




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