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【連作ショートショート】悪魔の花(3)



「やあ、クワタ。商売はうまくいってっか」
 ヨウスケから電話がかかってきた。
「ひさしぶりじゃないか」
 ぼくは観葉植物に水をやりながら答えた。
「ちょっと急いでるんだ。LINEを観てくれ」
 ヨウスケから花の画像が送られてきた。
「どうしたんだい」
「ケイコがシャワー浴びてる間しか時間なくてさ。んなこた、どうでもいいんだ。この花、知ってる?」
「ユリみたい形だけど、へんな色だな。あっ、これ、ひょっとして伝説の花か!」
「なに興奮してんだよ」
 ぼくは珍しい植物を見ると声がうわずる。それにしてもコイツはすごい。まさか生きてる間に実物に遭遇するとは。鎌倉の老舗花屋の三代目としては、見逃せない大物である。
「これ、どこに生えているだ」
「えーとだな。ケイコは知ってるよな。ケイコの友だちにユミコって女がいて、その子のおばあちゃんが裏山で採取したとか言ってたな」
「見に行くのか?」
「それはわからんけど」
「ぜひ連れていってくれ。千年に一度しか咲かない幻の花なんだよ」
「へー。あの話、ホントだったのか」
「取り扱いが大変らしいぞ」
「それは聞いた。なにが大変なんだ」
「ぼくもよく知らない。長老たちに聞いておくよ」
「なにかわかったらメールをくれ。あ、ヤバい。電話、切るぞ」
 バタバタと音がして電話が切れた。
 ぼくは店の裏手の書庫に入った。千年前といえば、平安時代。そんな時代に悪魔の花が咲いたら、きっと安倍晴明とかが関係しているよな。
 資料を探して、ざっと読んで、じいちゃんに話をしに行った。
 じいちゃんは話を聞くなり、興奮して部屋中を歩き回った。花で興奮するのは遺伝だと思いながら、ぼくはじいちゃんの姿をしばらく眺めていた。
 じいちゃんは植物仲間に次々と電話をかけはじめた。
「こらっ。寝てる場合か。たいへんだぞっ」
 と怒鳴っている。
 話が大ごとになってきた。

(第三話 深川岳志)

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