雌鶏
コツコツ、ドアを叩く音がすので開けてみると、そこには小さなメンドリが立っていた。
彼女は少し照れながら、
好きです。お嫁さんにしてください。
と、突然僕にプロポーズしてきた。
突然そんなこと言われても。それに君、ニワトリじゃない。
僕が慌ててそう言うと彼女は、
ニワトリじゃダメなんですか?じゃ、何であんな思わせぶりなこと言ったんですか?
と言うので、僕はちょっと考えてからハッとした。
あ!君はあの小屋の!
僕は散歩の途中に立ち寄る鶏小屋を思い出した。中には数羽の鶏が飼われていて、持参した小松菜を金網越しに鶏たちに与えていたのだ。
小松菜を下さるときに、かわいいとかおいでとか、優しく声をかけてくれるあなたに恋をしてしまいました。あの言葉は嘘だったの?
メンドリは目を潤ませ、泣き出しそうな顔をしてそう言った。
確かにそう言ったけど‥。兎に角、君がいなくなって小屋は騒ぎになってると思うよ。今日は一旦戻った方がいい。送ってあげるから。
僕はメンドリにそう言うと、出掛ける準備を始めた。そうだ。出掛けるついでにスーパーで買い物しよう。卵がなかったんだよな。最近卵高くて困るよなぁ‥あ!たまご!
僕は振り返ってドアの前に立っているメンドリを見た。うなだれしょんぼりしている彼女に僕が
さっきは酷いことを言ってごめんね。こんなステキな女性に言い寄られて、つい取り乱しちゃったんだ。あの言葉は僕の本当の気持ちだよ。これからはここで一緒に暮らそう。
そう言うと、彼女の表情はパーっと明るくなつた。そしてお尻をフリフリ僕の僕へ近づくと、
こちらこそ宜しくお願いします。
と言って。今度は恥ずかしそうにお辞儀をした。
あれから半年が経ったが、メンドリは一向に卵を産む気配はなく、つぶらな目と目の間にぴょこっとのぞいていたかわいいトサカは、まるでケイトウの花のように大きく立派になっていた。
コケコッコー!
夜明けとともに高らかに響く彼女の声で僕は目覚める。お尻をフリフリ、朝食の支度を始める彼女。その太腿はまるで大リーガーの選手のように、筋肉隆々でガッチリ引き締まっていた。
(了)