![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161591626/rectangle_large_type_2_3698dc092adbd2f31e26395512123f5f.png?width=1200)
Photo by
miyuna1141
【連作ショートショート】悪魔の花(7)
運転席には息子が、助手席にはオカザキユミコという女性が座っている。
おばあちゃんの名前はミツコ。
ワシが国立大学で、悪魔の花の研究をしていた同期もオカザキミツコ。同姓同名の可能性もあるが、たぶん彼女でまちがいない。
ワシはピンクのパンツに薄青のTシャツを着たユミコさんに声をかけた。
「オカザキさん、あなたのおばあちゃんはいつ頃から日光にいるのかね」
「さあ。私が生まれたときにはもう住んでいたと思いますから三十年以上前ですね」
「おばあちゃんは若い頃、なにをなさっていたのかな」
「お母さんは海外で産まれたって言ってましたから、外国でなにかしていたんでしょうね。仕事は聞いていません」
そうか。海外に身を潜めていたのかとワシはうなずく。
「この道の奥だね」
とカーナビを見ながら孫が言った。
「だいぶ山深いところまで来たな」
「懐かしい。三年ぶり」
とユミコさんが言った。
目の前には平屋の日本家屋があった。
玄関が開いて、白髪の老婆が出てきた。
ワシらはクルマから降りた。
緊張で手が汗ばむ。
「急に訪ねてきて、申し訳ありません」
と孫が言った。
いやいやというふうに老婆は手を振る。
「どうせヒマな身ですから。ユミコは変わらんねえ」
「ばあちゃんもね」
ワシは穴が開くほどオカザキミツコを見つめたが、なんせ五十年ぶりである。お互い変わり果てており、あのミツコかどうか確信はもてなかった。
声を聞いてもまだわからない。
「ワシはクワタヨシオと申します」
と名乗った。
「はじめまして、オカザキミツコです」
と老婆は言った。
はじめまして、か。
ポルシェは道に迷ったのかまだ到着しないが、ワシらは家の中に招き入れてもらうことになった。
(第七話 深川岳志)