64
オレは友達の江橋と一緒に、
ある自動車メーカーの研究所にやってきた。
オレのパパはめちゃくちゃ金持ちで、
この会社のクルマをたくさん買ってる。
その縁で、未発表のスーパーカーの特別試乗会に招待されたのだ。
いらっしゃいませ。
今回の試乗会は、コロナの感染拡大防止のため、
個別開催となっておりまして、私共も同乗しません。遠隔でのご案内となりますので、このインカムを装着してください。
研究所の人にいわれ、インカムを
着けたオレたちは、エレベーターに乗り
試乗会場へ向かう。
目の前に見た事もない
スポーツカーが現れた。
空気抵抗を殆ど受けないようにデザインされてる。完璧なデザインだよ。大学で自動車工学を専攻してる江橋が、驚きの声を上げた。
漆黒に塗られ、無駄の省かれた、
流線型の美しいボディ。その上に何故か座椅子が縦列に置かれている。不思議に思って見ているとインカムから
座椅子みたいですが、これは身体を無理なくホールドしてくれるスポーツシートです。濡れたような光沢を放つブラックは、
このタイプGだけの限定色なんですよ。
と、説明が聞こえた。
ハンドルはなく、両サイドから
伸びてる2本のスティックで操作する。
アクセルやブレーキもない。
64タイプG。他の追随を許さない
最新型のスーパーカーだった。
右に曲がりたいときは右のレバーを
思い切り引いて下さい。左も同様の操作です。スピードを出す時は・・・
説明の途中で、クルマは急に猛スピードで走り出した。
オレが無意識のうちに、この触角みたいな操縦桿を引いたからだった。
クルマはグングンと、滑るように加速する。
凄いスピードだよ!しかも、タイヤの音が全くしない。なんなんだこのクルマ!
オレの背後で江橋が叫んだ。
と、その時、前方に大きな壁が迫って来た。オレはブレーキのかけ方が分からない。ぶつかる!そう思って目をつぶった瞬間、クルマは壁面を吸い付くように上り始めた。
すげー!
クルマは壁を垂直に上り
大きなトンネルに入る。
64タイプGは、もの凄いスピードでトンネルの中を駆け抜けて行く。
トンネルを抜けたとき、聞いたことのある
声が聞こえた。
今日は新型のスポーツカーの内覧会に
呼んでくださって、ありがとうございます。
ママの声だった。だけど目の前にいるママは、めちゃくちゃでかい・・・
あ!ゴキブリ!ちょっと
このカタログでいいわ。貸して!早く潰さなきゃ。
え?ゴキブリ?
あ!もしかして、この64タイプGって。
虫、ご・・・
そう思った瞬間。凄い風が吹いて来て、オレの目の前が真っ暗になった。
(了)