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黒豆先生
今年は黒豆に挑戦しようと、デパートで高級黒豆を買って来た。
封を切って、中身をボールに開けようとしたそのとき、一粒の黒豆が勢いよく転がり、床にポロンと落っこちたと同時に
いってー!
と、誰かの声が聞こえてきた。声の方へ恐々振り向くと誰もいない。
下した。下だよ。
下?言われたとおり下を向くと、そこには黒豆が一粒転がっていた。あなたは?私がそう訊ねると黒豆は
俺は黒豆先生だ。
と答えた。
元々彼は普通の人間だったが、黒豆が好きで、究極の黒豆を探究しているうちに、気がついたら自身も黒豆になってしまったらしい。
黒豆畑にいて、気がついたら袋の中にいたんだ。あんたが封を切ってくれなかったら、ワシはどうなっていたか‥。考えるだけで、顔面蒼白だよ。
そう言う先生の顔はやっぱり真っ黒で、私は可笑しくてクスッと笑ってしまった。先生は自分でも変なことを言ったと思ったのか突然、
ところで、何をしておったんじゃ?
と尋ねて来たので、私が
お正月の準備です。黒豆を作ろうと思って。
と答えると、
何!黒豆ならワシに任せておけ!こう見えてもワシは、黒豆師範の免許を取得しておるのじゃぞ。
と、胸を張ってそう言った。
黒豆師範?
そうじゃ。黒豆師範は、黒豆に関する数々の厳しい試験に合格した者だけに与えられる最高の称号じゃ。そのワシが考えたレシピを、助けてくれた御礼にあんたに伝授する。このレシピを使えば、ふっくらツヤツヤ、甘〜い、究極の黒豆が出来上がるぞ。
そう言って、先生はニヤリと笑った。
よおし!先ずは300gの豆を水で良く洗え。
ザザー。私は黒豆をザルに開け、勢いよく洗う。
そうしたら、水カップ10 砂糖250g 醤油1/4カップ 塩大さじ1/2 重曹小さじ1/2を火にかけて‥
うん?何処かで聞いたことのある分量だな?そう思いながらも、私は先生の言う手順に従う。
それで、火を止めたら、さっきの豆と鉄の釘を入れて一晩置くんじゃ。
あー!やっぱりそうだ。これ、土井善晴さんのレシピでしょ?
なんでわかったの?黒豆作ったことないって言ってたじゃん。
オロオロしながらそう言う先生に私は
やったことなくても、スマホで毎日レシピは見てるんで、有名なレシピはもうすっかり頭に入ってます。先生、レシピをパクっちゃダメですよ。
そう言いながら、私はニヤリとわらった。
(了)