Let's LIVE together.
音楽ライブに行くなんて、もう何年振りかと思った。
3月7日はライブというより「お誕生日イベント」だと言っていたから、それを省くとなると、ざっと5、6年ぶりになるだろうか。ライブハウスということも考えれば、きっともっと経つだろう。
開催地は六本木。首都東京のど真ん中。
道行く人は忙しなく、喧騒に塗れ雑踏は限りない。
そんな中でも、同じ志を持った“他人”たちは一目で認識できた。まるで彼らにだけ意思があるように。
渋谷のレコードショップにも、会場へと向かう路線バスの車内にも、作業のために入った会場近くのファーストフード店でも。
孤独である事を誇りにしながら、一人独りはバラバラでも、一つの志を持った僕らは、約束の地に集まった。
筆者自身、初のスタンディングライブだった。多少の不安はあったにせよ、難なく場所の確保ができた。手すりのすぐ横をキープして体を少し預け、協賛各社のCM映像を見つめながら、開演の時を待つ。
場内BGMのボリュームが少し上がった。同時に会場内も暗転。
彼女が上がるステージには、今回のライブロゴのみが浮かぶ。
錚々たるバンドメンバーがステージ上に登場すると同時にフロアの熱が上がる。
10、9、8、7、6、
開演を知らせるカウントダウン。小さくなる数字を大声で叫ぶ。
5、4、3、
さあ、始まる。
2、
1、
ぽーんっ。
目が覚める様なパッションピンクを背景に、彼女が立つ。
名取さな 1st Live 「サナトリック・ウェーブ」夜公演。
弾ける様な彼女の歌声の波に乗って、宴の幕が開いた。
「ファンタスティック・エボリューション」
このライブの為に一月毎にリリースされていた彼女の楽曲の1つ。最初からエンジン全開で声を出させるには持ってこいの溌剌さで、その熱は一気に伝染した。
Woh oh, Sing along na na na!
Woh oh, Sing along na na na!
Woh oh, Sing along na na na!
最高のスタートダッシュだ。この先はもう波に揺られ続けていればそれでいい。それがいい。
何より生バンドの心地よさったら。全身で音を受け止め、脳を震わせ、心を弾ませ手を振りこの身を委ねる。
幾何かの不安要素なんて、この時点で既にとうのどこかへと蹴り飛ばした。最初から何も恐れる事なんて無かったのだから。
彼女がやりたかった事、彼女が歌声にしてでも届けたかった事、その全てをこの心身で受け止めれば、それで充分なのだ。
ただ、2曲目のイントロの瞬間。
筆者は頭を両手で抱え、大粒の涙を流す事になる。
「惑星ループ」
彼女の事を「推し」と認識してから幾月かが経った頃、チャンネル内にアップロードされた彼女初の「歌ってみた」動画の曲である。その時の感動は今もなお色あせる事は無いし、何かしらの節目がある度に聴きに行っている程だ。何なら今この瞬間も聴いている。
初めて聴いた時こそオリジナルソングかと思ったほど、歌詞が彼女にマッチしていると感じている。
本当に本当に、思い出深い楽曲なのだ。
それが幾年を経て、音楽活動に力を入れ始めた彼女の、溌溂としていて透き通っていて、そんな中にもしっかりと芯がある歌声は、彼女にしか出せない彼女だけの宝物で、それを何の惜しみもなく、原点とも言えるこの曲で成長した姿と歌声を披露してくれた。
涙を堪えるのは難しかった。それでも筆者が笑顔であったことは確かだ。
初めて聴いた「さなのおうた。」を、「いつか歌ってほしいな」と思っていた日を思い出した。
いちご狩りバスツアーで歌ったカラオケも、レアな歌枠も。
まだまだ歌を歌うことが珍しかったころを思い返すと、本当に本当に大きくなったと、心の底から実感する。だって今や自身の楽曲数が20曲だ。自分も彼女の口からそう聞いた時は思わず驚いた。それだけ積み上げてきた物が大きいのだ。
そんな中でも、原点に近しいこの曲を、ライブという音楽主体の場、更には生バンドという最強で最高な形で歌ってくれた事、その嬉しさを表現するには筆者のキャパシティでは到底言い表せない。
何度も涙を拭って何度も手を上げて、何度もトゥットゥルする。
きっと彼女もこの光景を夢描いていたのではないか。
だけどそれは筆者も同じで、おそらく多くのせんせえがたも同じ夢を描いていた事は想像に容易い。
だけどきっと、これからも僕らは夢を見る。しかも、見るだけじゃなく、叶えようとするだろう。
何故なら、その夢を実現できる力があるという事を知っているからだ。
夢心地だけど現実世界の目の前で起こっているこの光景と共に、また次の夢を見て、その夢を叶える事を何度も一緒にループできるなら、その多幸感は計り知れない。
劇的に飛躍した彼女の歌唱力を目の当たりにした僕らは、その後もその波長に肩を、心を、魂を揺らす。
3曲目は「ライアーダンサー」。音楽に疎い筆者にとっては初めて耳にする楽曲である。
Aメロの歌い方こそ「こんな歌い方もできるんだ」と驚いた。
それでも、彼女の歌声に乗せられればもう聴き馴染みだ。そんな魔法が彼女の声にはある。
だからサビのコール&レスポンスも、一度聴いたらあとはなんて事はない。ライアー!皆に釣られてそう叫ぶ。叫んで聴き入ってまた叫んで、ずっとずっと魅了されっぱなしだ。
MCに入った後は普段の何ら変わりないいつもの彼女だった。
曲について色々と語ってくれた事をよく覚えているし、やはり惑星ループに関しては語る事も多く、筆者もこくこくと頷いた。
その後もライブは澱みなく進行し、筆者も時には周りの迷惑にならない程度に手を振り声を上げ地を蹴った。
セットリストを改めて見返すと、彼女自身の楽曲を除いて初めて聴く曲の方が多く、それは筆者にとっても新たな発見となった。
それでも、「ギミー!レボリューション」や「全部ホントで全部ウソ」がそうなったように、彼女の声に乗せられた楽曲は、彼女にとってはもちろん、恐らく自分を含む多くのせんせえがたの中でも特別な楽曲になるのではなかろうか。今回はそんな楽曲たちが一段と増えたと感じている。
しかし、弱酸性ラジオブレイクからのおしりぷり音頭には筆者も困惑し、絶望し、会場も阿鼻叫喚の渦に呑まれた。
せんせえがたは皆「あぷり!あぷり!ぷりぷりぷりぷり!」と絶叫を始め、ある者は踊りだし、ある者は茫然と手を振りながらも立ち尽くしていた。束の間の悪夢(?)ののち、和太鼓の音色に合わせたまま弱酸性ラジオブレイクに戻るのだが、これがまた素晴らしく、会場も一気に息を吹き返したのだった。
また、今回のライブでは彼女の新曲が2曲披露された。
「ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ。」、「ソラの果てまで」。
ライブに向けて発表された楽曲は他にもあるのだけれど、この2曲は特に彼女の「音楽活動をもっと頑張りたい」という発言に嘘偽りがない事の一つの証明だった。
初のアニメーションMVが付いた「アマカミサマ」も、高いキーでも何なく歌ってしまう(程になるまで練習したのであろう)「パラレルサーチライト」も、節目節目で披露された大事な楽曲で、それは勿論筆者にとっても大事な楽曲で。
圧倒的に歌唱力が飛躍した彼女の実力は底知れずで、もうこちらからも「歌が上手くなったね」なんて言わずとも、それは分かりきった事であるかの様だった。
ただ、それでも、少なくとも自分は、「本当に歌が上手くなったね」って言いたい。褒めたい。褒めて褒めて褒めちぎって、褒めまくって彼女の頬が薄いピンク色に染まったとしても。
「おうた、上手になったね」
ずっと、ずっと言ってあげたい。
だってそれが、彼女の努力の結晶で、彼女の宝物で、我々に向けられた「愛」の一つだと感じているからだ。少々大袈裟に聞こえるかもしれないが、少なくとも筆者はそう受け取った。
この先も今回の様な、「生きている事」に充実感を与える事ができる事柄が増えてくれるのならば、この先の人生もきっと笑顔を絶やさずに生きていく事ができるだろう。
勿論、悲しい事、苦しい事、悔しい事、自分の力ではどうにもならない事だって起きる筈だ。
そんな時は、彼女の声を聴いて、姿を見て、心を癒されたりする事が増える事だろう。
驚くほどに、「名取さな」が自分の中で凄まじく大きな存在になっている事が、この上なく幸せなのだ。
彼女が作詞した「ソラの果てまで」に心身を揺らしながら、そんな物思いに耽っていた。
帰宅後に改めて歌詞を確認した際に大きな溜息を吐いた筆者は、より一層心に灯ったこの火を消すまいと心に誓ったのだった。
言葉にできない様な多幸感が、全身を包んでいる。
「アンコール!アンコール!」
その波は何度も反響し打ち返る。何倍にも何十倍にもなって、彼女に対しては勿論、バンドメンバーにも、製作陣にも、関わってくれた全ての人たちに対しても。
まだまだまだ足りない。筆者も声を上げる。上げ続ける。何回叫んだか分からない。けれど、それが届くまで叫ぶ。叫び続ける。
大好きなおうた。のイントロが流れた気がした。けれど、ここからはぐちゃぐちゃになって記憶が朧げだ。
けれど、確かにこの脳裏に刻まれている事がある。
彼女が大きな事柄を成し遂げるその度に、この曲の歌詞はその分重みを増して、我々に感情そのものとして降り注ぐのだ。
「わたしここまでこれたよ 本当にありがとう」
これまでもずっと、そうだったように。
これからときっと、そうであってほしい。
彼女と共に歩む「人生」はきっと。
「最高の人生」となるだろう。
もちろん確証なんて持てない。いつかはきっと終わりが来るのだから。
けれど、その日がいつになるか分からない以上、今を楽しむ事しかできないのだ。
だからこの今を、全力で生きようと今一度心に誓った。
この日が最高の日であるのは確かだ。けれど最高の日なんて、何日あってもいいじゃないか。
これからも「人生で最高の日」をたくさん作って、文字通り「最高の人生」を歩み続けたい。
まだまだ最高の人生は始まったばかり。まだまだやりたい事は沢山あるけれど、改めて。
ありがとう、名取。
これからも人生、やっていこうな。
まだまだ足りない「足跡」を地に付けて、次の旅を心待ちにするのだった。