好きになった、もっと。
それは1枚のイラストから
とある大手イラスト投稿サイトで、スポーツドリンクをこちらに差し出すショートカットの女の子のイラストを見た時、その透き通るような色彩美に思わずマウスが動いた。
イラストをブックマークして、他に描かれ生み出された宝石たちを眺めてみる。
それは本当の宝石のように、丁寧に、慎重に、そして繊細に描かれていた。
その数々に既に魅了されていたのであろう自分は、そのイラストレーターのフォローボタンを押す事に何の淀みも、躊躇いも無かった。
「しぐれうい先生、か」
人生にまたひとつ、彩りが加わった。
初めてしぐれうい先生のお声を聴いた
2018年頃からVTuberという新しいコンテンツの沼に陥り、めでたく「推し」という概念が自分の中でも形成されたこの頃、どうやらそんなしぐれうい先生もVTuberとして配信活動を始めるという事を聞き、「こりゃあ配信を観に行くしかねぇべ」とYouTubeの配信画面に飛んだ。
イラストのメイキングを中心に活動をなさるんだろうか、とか、イラストの解説とかしてくれるのだろうか、だったらあのイラストの事も聞いてみたいな、なんて事に想いを耽ていると、配信は開始されていた。
なんかパン食ってんだけど。
って言うかお声がめっちゃくちゃにかわいいんですけど。
あ~~あ、これもう戻れないやつだ~~~ぁ。
一通りの配信を聞き終えて、「まぁガッツリ推し!って訳じゃないけどこれ定期的に配信観に行くタイプの刺さり方だわこれ」みたいな事をクッソ早口で言って机に突っ伏した覚えがある。言うてあんま覚えとらんけど。
そこから先数年、VTuberは名取を中心に他の方の配信もちょくちょく観つつ、時にはVTuvberに関する様々な悲喜交々を味わいながら、気づけば2021年も終わろうかという時期まで時は進んでいた。
初めてしぐれういが動いてるのを見た
イラストレーターとしての「しぐれうい先生」と、VTuberとしての「しぐれうい」さんを分けて考える事もあるだろうと思い、ここから先は上記の様に書き分けていく。
ヤブ医者に当たって鼓膜を破った、という開いた口も塞がらない様な話をしぐれうい本人が語ってくれた。耳の奥がキン、となる様な話ではあったが、当の本人はあっけらかんと話していたのが記憶に新しい。
恐らく理由はそれだけでは無いだろうが、当初の予定より少し遅れていたVTuberとしてのしぐれういの、3Ⅾお披露目配信の当日を迎えた。
去年から今年にかけて、何人かの3Ⅾお披露目配信を観た事がある。
基本的には歌ったり踊ったりゲストが来たりで賑やかな印象なのだが、ことしぐれういに関しては個人勢である。粗方の予想は付くものの、「どうなるのかな」と、期待不安が織り交ざった感情のまま、配信開始の時刻を迎えた。
タイトルが天才過ぎる。
「わぁ、動いてはるわ」
辺り一面、ただ純白だけが広がるその空間に彼女は立ち、歩いていた。
他のVTuberの3Ⅾお披露目配信と比べてしまうとだいぶあっさりした登場ではあったが、それも彼女らしさの表れだとも感じた。
半々抱いていたちょっとの不安も、この時点ですぅっと晴れた。後は楽しむだけだ。
Q, さかなを食べるとどうなる?
「スクショする手が止まらねぇよぉ~~~~ホッホヒィ~~~~~ン!!!」
なんかそんな事言いながら無限スクショ祭りしてた気がする。知らんけど。
しぐれうい自身が創造神である事から、同じく神様が主人公のアニメ、かんなぎのOP「motto☆派手にね!」で軽快に始まったお披露目の場は、途中スクショ素材タイム等を挟んで、次の曲である「おさかな天国」へと進行してゆく。
は???
おさかな天国???
当初は彼女がアイドルマスター しんれれらガールズで担当している活舌よわよわお魚大好きっ娘アイドルのボイス実装記念かと思ったが、どうやらしぐれうい本人の出身である三重県の盆踊りでは、この曲がよく踊られているらしい。なんで???
しぐれうい「や、見た事あるよなっ?(圧)」
ぼく「はい今観ました」
はてさて、どうやら地元の盆踊りで布教しなきゃいけないらしい。怪しくて変な奴だと思われちまうよぉ~~~!!!!!!
A, 食べるだけなら問題ない。
「群青」の衝撃
移動教室という事で、美術室へとやってきた。
美術室にはしぐれうい1人と1枚のキャンパス。
いつもの声よりも、より透き通る様な声が彼女から発せられている事に驚く自分がいた。
「歌はふにゃふにゃになっちゃうから苦手なんだぁ~」
確か彼女は以前、そんな事を言っていた覚えがある。
そんな彼女からこの歌声が出ているとは、まさしく驚愕そのものだった。
何より、彼女が歌うこの「群青」という曲の歌詞の重さが、説得力が、他のどれよりもの衝撃だった。
どこかへ出かける時に好きな曲だけを聴くだけで、普段はあまり音楽を聴かず、ましてや最近の曲なんか何も分からない自分にとって、この曲を聴くのは当然ながらこれが始めてだった。
どうやら年末の大型歌謡番組でも流れたとの事らしいが、如何せんテレビなぞ殆ど点けなくなってしまった昨今の自分にとっては、その情報すらも初耳だった。
しかし彼女の歌声に乗せられ紡ぎ出された詞は、自分の心を容易く劈いた。
筆者自身、「好きな事」を仕事にさせて貰っている立場だからこそ、歌詞の刺さり方が尋常ではなかったし、何よりこの歌詞の数々はイラストレーター「しぐれうい先生」と、VTuber「しぐれうい」の二面性を持った彼女だからこそ表現し得ることが出来たフレーズだとすらも思えた。
カバーした側と歌詞が、ここまでリンクする事があるなんて。
こういう事があるから、VTuberを観るのは辞められないんだ。
恐らく歌ってみた単体で動画が上がったならば、何かに付けて聴き浸るのだろう。後ろで描かれていく大空スバルの演出も相まって、この配信における自分の中での大きなハイライトの一つになった。
この時の余韻は未だに抜けていない。
因縁の曲は感謝の曲へ
キャンバスから大空スバルを召還し、その後は割かし高めのテンションで後半へと進行してゆく。
adrenaline!!!はねぇ~~~ダメだねぇ~~~。
まずこの曲がEDテーマとして使用されている作品が好きなのでマジで嬉しかった。何ならこの二人で歌ってみた動画出してるから「今回歌うんだろうなぁ~」と思ったらやっぱ来た。
ただ、動画と明らか違う事はしぐれういが動いている事。
彼女とスバルの対照的な動きが観ていて心が躍ったし、今後が更に楽しみになった事は言うまでもない。
何度聴いても元気になるこの曲を胸に受け止め、スバルも退場し3Ⅾお披露目はいよいよフィナーレへと進んでゆく。
「そろそろ体力が限界なので、色々因縁があって1万回くらい歌えって言われてたあの曲を歌って~、皆さんを黙らせて帰ろうかなぁ、と思います~」
筆者は悟った。
「これ、あの曲じゃん」と。
「すごい拙いけど、こっそりいっぱい練習したので、応援しながら観て頂けると嬉しいです!」
うわ~~~~~~~~~そういうのに弱いんだワイはぁ~~~~~~~~~~~~~
「それでは、聴いて下さいっ」
目が合った、あなたを見た。
「家から出なさ過ぎて数歩しか歩かんかったわぁ」
いつぞやの配信でしぐれうい本人がそう言っていた。
ただ、この配信における「VTuberしぐれうい」としてのパフォーマンスは、相当の練習と努力なくしては成り立たなかったはずだ。
確かに他のVTuber、とりわけ「にじさんじ」や「ホロライブ」等の企業やユニットで活動する他の面々に比べたら、多少は見劣りはしてしまうのかもしれない。
しかし、彼女の本業はあくまで「イラストレーター」なのだ。
そんな彼女が「VTuberしぐれうい」として汗をかいて、何度も何度も練習を重ねて、色々な打ち合わせやたくさんの人たちの協力を経て「観てくれている、応援してくれている人たちに楽しんでもらおう」と臨んだこのとびっきりの特別な一夜は、自分にとっても感慨深いイベントとなった。
しぐれういからのとびっきりの愛を受け取り、幸せに満ち溢れた面持ちのまま、Uindow OS はシャットダウンしてゆく。
「エモすぎりゅ……」
椅子に深く背を預け、色とりどりの彩りを吸収した目を休めようとモニターの上に目線をやる。
色々な感情や感想が、乾燥しきった瞼の裏側の事よりも早く脳内を駆け抜けた。
ぼや…と、目線の下から微かに光を感じた。
初めて目を開けた赤子が感じる光は、きっとこんな感じなのだろうか。
「まだ終わってない…?」
もう一度目線をモニターにやる。
画面の中には大きな液晶ペンタブレット、マウス、キーボード、そして後ろからワーキングチェアが滑り込む。
ここが「しぐれうい先生」の作業部屋だという事に気づくのに時間は要さなかった。
一目で分かる綺麗に洗礼された作業環境に、チェアに掛けられている可愛らしいハリネズミのブランケットが、何とも言えぬ彼女らしさを醸し出していた。
パチン!と小気味のよい音は、何かのスイッチを入れた様な。
例えるならば、朝に目が覚めて、部屋の電気を付けたかの様な音。
しかし画面はそれとは裏腹、真っ暗に暗転していた。
これから夢から覚めるのか、それとも夢を見るのか。
「しぐれういを応援してくれて、ありがとう」
「これからも彼女のこと、よろしくね」
あぁ、そういう事か。
これは、イラストレーター「しぐれうい先生」が、VTuber「しぐれうい」に対しての「よろしくね」なんだ。
VTuber「しぐれうい」も、イラストレーター「しぐれうい先生」の作品の一つなんだ。
だからここまで必死で努力して、磨き続けているんだ。
「好きな事だからこそ妥協はしたくない」
こんな誰にでも言える事だけど、実践してみると中々難しい事を、彼女たちはやってのけていて、そしてこれからも、そうあり続けるのだろう。
一夜の夢を観終えた後だけど、まだ、いや、もっと。
彼女たちの夢のような輝きを見守り続けたい。
「見つけてくれて、ありがとう」
「見守らせてくれて、ありがとう」
しぐれういさんの今後に、どうかより多くの幸がありますように。