「在庫に負けたタワーレコードの廃墟」の巻
113 塔だけが残った
このタワーに見覚えがある方はいるだろうか。あのタワーレコード発祥の地、の跡だ(2007年12月10日撮影)。意外なことに、ロサンゼルスでも、ニューヨークでもなく、カリフォルニアの州都サクラメントにそれはあった。日本では別会社なので、タワーレコードはまだ存在しているが、アメリカではこの記事を書いて当時にはもう消滅していた。一時代を築いた企業の残骸。まだ残っているのだろうか。
タワーレコードはネットに負けた。
言い換えれば、「在庫」に負けたのだ。
店舗を構えれば、必然的に在庫を抱える必要がある。一方現代社会は、個人の興味の多様化、細分化により、非常に多種類のCD、DVDが存在するようになった。ネット上の無店舗販売ならば、その在庫を抱える必要はないが、店舗がある場合にはそうはいかない。ましてや、タワーレコードともなればそうではないか。
大阪に住んでいた一時期、某出版社に籍を置いていたことがある。その時、自分が編集に参加していた雑誌の新譜案内に紹介されていていて、ジャケットの迫力に魅了されて買った Jennifer Holiday のデビューアルバム(LPだ)を買った。初めてゴスペルを聴き、その歌声に魅せられた。そこから他の歌手へと手を伸ばすことにならなかったのが、中途半端な自分らしいと思うのだが、彼女のレコード、そしてCDだけは、その後も見つけたら買っていた。Jennifer Holidayは1982年には"Dream Girls"でトニー賞を受賞するほどの実力派だったが、日本では人気歌手でも有名でもなかった彼女アルバムは、近所のレンタルレコード店にはなかったからだ。
でもその後タワーレコードが誕生して状況は一変した。そこに行けば彼女の名前でちゃんと検索できた。尤も、彼女はそんなにじゃんじゃんアルバムを出す人ではなかったので、たいていは空振りだったが。
話を戻すと、こういった特殊な好みの顧客の期待に応えるためには在庫が必要で、そしてそういう回転の悪い在庫は確実に企業の首を絞める。そしてタワーレコードは、時代とともにその役割を終えたのだった。少なくともアメリカでは。
i-podの普及がタワーレコードに引導を渡すのを速めた。でも、在庫の地獄に気づくのが遅かったのは、タワーレコード自身の戦略ミスだ。それは、固形石けんにこだわって倒産した、ミツワ石けん…とはちょっと違うな。でも、時代の流れを読めなかった、という点では同じことだと思うのだ。
航空機時代にうすうす気づきながらも、空軍を創設せず、大艦巨砲主義にこだわり続けた大日本帝国の失敗から学ばなかったのは、日本だけではなかった、ということ…。これもちょっと違うか。
拙ブログ『無闇にアメリカに来てはいけない』より「塔だけが残った」(2008年03月14日 07:52付)に加筆修正した。