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第一部 日本のおける移民、定住、帰化の問題について~ (1)日本における帰化の現状

 外国人が日本国民になることを、帰化するという。
 帰化は3種類に分類される。第一に、日本人と何のかかわりもない外国人が自分の希望で帰化すること。第二に、日本人と婚姻関係などでかかわりを持つ外国人が帰化すること。そしてもうひとつ、日本に特別の功労のある外国人が特別に認められる帰化がある。しかしこれは、現行法が施行された昭和25年以来、1件もないという。筆者が問題にしているのは、主に第一の帰化で、今後本稿では、特別に記載がない限り、これを帰化と呼ぶ。
 さて、この帰化に必要な要件は何か。帰化を許可する権限は法務大臣にあり、その手続きは国籍法に次のように定められている。
 
第五条 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。
 一 引き続き五年以上日本に住所を有すること。
 二 二十歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
 三 素行が善良であること。
 四 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。
 五 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
 六 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。(下略)
 
 この条件を満たすことを証明するために、帰化申請書の他、多くの種類の書類を提出しなければならず、通常は、行政書士などの力を借りることが多くなる。
 野田佳彦前首相ら、「帰化簡素化論者」が主張する簡素化とは、もちろん、居住年数の短縮(実際、婚姻による場合には、3年間の居住で申請が認められる)も考えられるが、この書類の部分に当たると考えるのが妥当だろう。
 法務省のサイトによれば、主な提出書類として、左記のものが挙げられている。
 
 帰化許可申請書、写真、親族の概要書、履歴書、帰化の動機書、国籍を証する書面、身分関係を証する書面、外国人登録原票記載事項証明書、宣誓書、生計の概要書、事業の概要書、在勤及び給与証明書、納税証明書。
 
 その他、学校の卒業証明書、技能や資格の証明書、預金残高証明書など、法務省から追加の提出や提示を求められるものもある。
 ウィキペディアの「帰化」の項目を見れば、申請書類は一センチ程度の厚さとなるという。つまり、手続きが煩雑だと言いたいのだろう。
 私事であるが、筆者は2009年12月から3年半の間、日本国籍を有しながら米国国防総省職員という、日本で言えば国家公務員の地位にあった。これは、特例である。もちろんアメリカでも原則的に外国人は公務員にはなれないからだ。採用試験の前には、30頁に及ぶ申告書類に細かい個人情報を記入した。そこには30年以上前に亡くなった筆者の父の情報、大阪に住む妹とその夫の情報など、全て書かねばならなかった。もちろん、申告書類以外の他の必要書類をも提出なければならなかった。外国人を職務上国民扱いにするのだから、ある意味で当然のことだ。
 だから日本の帰化申請書類が「1センチの厚さ」でも、決して多くはないと経験的に思う。国籍を変えるのだ。そんな甘いものではあり得ない。
 さて、法務省民事局の統計によれば、帰化を許可された者の数は、韓国・朝鮮人が漸減。中国人、その他は漸増の傾向が認められる。ところが、帰化を許可されなかった申請者の数が、平成22年度に、一気に10の1に減っているのである。
 これは、特別永住者の帰化申請及び手続きの簡素化が行われた結果だろう。特別永住者という身分なら、手続きを簡素にしてもかまわない、という意見もあるようだが、例えばアメリカではそもそも、永住権のない者が一足飛びに市民権を得られることは、原則的にはない。通常はかなり煩雑な手続きを経て永住権を取得し、それから5年以上の期間を経た後、漸く市民権取得申請が認められ、再び書類を準備し、テストを受けた上でないと、市民権は得られない。
 永住者でなくても認められる、日本に於ける帰化手続きは、もともとある意味で、非常に簡素だったのだ。
 今日、特別永住者への簡素化が、政府の方針に従って、さらにその他の外国人に拡大することは、さほど難しいことではなかろう。また、行政の側にしても、手続きを簡略化できるのであれば、それは望むところであろう。仕事が減るのだから。しかも、婚姻による帰化申請などで、他にもに簡略化の例はあるから、それを全体に拡大してしまえば、事務手続き上の混乱も起こらない。
 しかし、現行法の下では、安易に外国人を帰化させると、由々しき問題が起こり得る可能性があることを、私たちは覚えておく必要がある。


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