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「とぼけるアメリカ人」の巻

■信じているフリをする人々
 政権末期のブッシュ政権に対する嫌悪感が広がる一方、ヒラリー・クリントン、バラック・オバマという「スター」を抱えた民主党が、アメリカでも元気がよい。民主党のイメージは、反日親中、たぶん親北朝鮮で、かつてはソ連のスパイ天国。マイノリティー擁護、大きな政府、イラク戦争反対のハト派。
 しかし、民主党=ハト派は間違いだ。ブッシュ父子以外で、開戦のボタンを押したのは、FDRを筆頭に民主党の大統領だ。広島と長崎に原爆を落としたのも。その張本人のハリー・トルーマン以来、アメリカ大統領や主だった政治家は、共和党を含めて、原爆投下を正当化し続けているのは周知の通りだ。それを象徴するのが、ロバート・ジョゼフ前国務次官による、「原爆は、何百万人もの日本人が命を落とす前に戦争を終わらせた」という、2007年7月3日の記者会見での発言だ。
 トルーマンは「米兵の命を守る為」と言ったが、いまや日本人の命を守る為に、日本人を虐殺したということになっている。こんな単純な論理でよいなら、仮に「南京事件」があったとしても、簡単に肯定できるではないか。
 そして基本的には、一般のアメリカ人も、核兵器は良くないが、あれは仕方なかったと思っている。こういった論理矛盾に気づかないフリをするのが、アメリカ人は得意だ。遺伝子工学などの生物科学が高度に発達している今日でも、テレビ番組の中で、キリスト教原理主義の立場から、真顔で進化論を否定する人が登場する。それと構造は同じなのだ。
 他にもアメリカ人が原爆投下を肯定する幾つかの理由があるが、筆者はそのひとつを、アメリカ人が、「自己正当化の為に、信じているフリをする人々」だからだ、と考える。
 アメリカ人は、絶えず自己正当化していないと、寄って立つ所がない。国家建国の神話がないからである。この国で独立戦争や南北戦争の故事が多く語られるのはその為だ。そして戦争は、アメリカにとって、特別なイベントだ。実はこれは、革命には絶えず敵(地主、反革命分子、トロツキスト、日和見主義者、右派分子など)が必要であり、そしてそれらの敵は殲滅されなければならないのだと、共産党が敵を再生産するのと同じ構造なのだ。
 原爆を否定し、謝罪などすれば、軍国主義者とファシストをやっつけた、第2次世界大戦という擬似神話の正当性に傷がつく。それは、黒人やインディアンやハワイアンや日系人に謝罪したこととは全く意味が違う。それらは金でカタがつくし、結果的にアメリカの統合・再生に寄与する。しかし原爆を否定すれば、ただでさえ緩んでいるタガが、取り返しのつかないことになる。そういった意味でも、とぼけておくことが得策なのである。

■ブッシュのお笑い善悪二元論
 ブッシュ大統領は、そういった意図的にとぼけるアメリカ人の象徴だ。日本でも報じられたように(なぜか『産経新聞』はちゃんと報じなかったようだが)、8月22日に、カンザスシティーで行われた退役軍人団体の年次総会の席上、彼は過去の戦争について総括した。偶々出張先のフレズノのホテルで朝食を摂っているときに、生中継でちらっと観たのだが、戦前の日本をアル・カイーダと並列した善悪二元論の単純思考は、オツムが軽いブッシュらしいお笑い種だ。
 勿論、これは名誉ある退役軍人の集まりであり、彼にはイラク戦争を否定できないという前提を差し引かねばならないが、それにしても、納得できるような演説内容ではない。断っておくが、筆者の英語力の問題ではない。ブッシュの知性の問題だ。
 しかし、「占領政策による日本の民主化は成功した。朝鮮戦争では、一緒に戦った韓国はまともになったが、北朝鮮はあのザマだ。ベトナムでは、アメリカが名誉ある『転進』をした後、大変なことになった。だからイラクで、米軍が引き続き戦わねばならぬ、云々」とは、牽強付会もいいところだ。レストランのウェイターは私と一緒にテレビを見ながら、「戦争に行ったこともないくせに」と呟いた。
 進化論が正しいことも、原爆が虐殺だということも、ベトナムで負けたことも、みんな本当はわかっている。でも、それを否定してしまえば、アメリカという人工国家の存在理由が否定されてしまうのである。

■日本人の自己批判は原爆の免罪符
 そして原爆肯定を助長しているのは言うまでもなく反日日本人だ。原爆ドームの「過ちは繰り返しませぬ」という自虐的な言葉はそれ以外の何物でもない。
 原爆資料館を運営する広島平和文化センターの理事長はスティーブン・リーパー。原爆を落とした国の人間を理事長にするという広島市のセンスもイカレているが、この男は5月30日、展示内容を見直す委員会に支那人、韓国人らを起用し、「原爆投下を『日本の植民地支配から解放した』と肯定する考えが根強いアジアの声に触れながら議論を深め、多民族が共感、納得できる施設にしたい」(5月31日付『中国新聞』)とご託宣をたれた。要するに原爆は正しかったと、他国民にも、しかも反日特亜に言わせようという魂胆だ。 
 反日日本人は自己批判を行うことで、アメリカ人に原爆投下に対する免罪符を与えている。これは、偽慰安婦や偽南京事件で、支那人や韓国人の尻馬に乗り、自己批判するフリをして国家を売り渡しているのと同じ構造だ。沖縄でヒステリーを起こしている旧日本軍の集団自殺命令に拘泥する輩も同類だ。全ての歴史捏造は、何でも日本に責任転嫁し、その十字架を日本人に負わせる目的がある。だから原爆投下に対する怒りさえ、いつの間にか、日本の罪にすりかえられる。そしてそれは、革命の敵のように拡大再生産され、新たな殲滅すべき目標となる。
 原爆投下を謝罪しないのは、政治的な意図もさることながら、アメリカ人が「日本人は自己批判している、本気で怒っていない」と思っている、否、そう思っているフリをしているからなのだ。

『歴史と教育』2007年10月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 ハワイ島ヒロの旧新町にあるカメハメハ大王の像。ハワイ王国をアメリカが乗っ取る過程も、国民には教えたくない事実が山のようにあるのだが、ほとんど語られることはない。とぼけたまんまだ。ハワイ原住民や併合当時の移民は柔和で、現代のBLMの黒人のような過激な行動を好まなかった(こんなことを書くと差別だと言われそうだが、実際に起こった暴動の数を比較して見よ。それは事実だ)。そしてなぜかハワイは圧倒的に民主党が強い(それでも2020年の大統領選では、本当はトランプが勝っていたという情報もある)。その理由は、ハワイを併合したときの大統領(ウィリアム・マッキンリー)は共和党だったからではないか。共和党という疑似敵の存在が、案外民主党支持の単純な原因なのか持っ知れないと筆者は思っている(撮影:筆者)

【追記】
 つまらないことに難癖をつけて敵をつくり、憎悪を掻き立て、根拠もなく徹底的に糾弾し、無知蒙昧な大衆に火をつけて支持を得る。トランプ大統領に対して民主党、アンティファ、BLM、主要メディア、GAFAが行ったことはまさしくそれだ。そして、森喜朗氏のちょっとした失言(しかも森氏はあの発言の全文を読めば、女性を賞賛さえしているのだ)をとらえて、官民挙げて糾弾するという恐ろしい光景は、文化大革命を彷彿とさせる。もはや民主主義などそこにはない。私たちは大変な時代に生きている、というか、逆戻りしてしまったかのようだ。

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