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(4)アメリカ永住権の実態

 アメリカの永住権許可証のことを、一般的に「グリーンカード」という。これは嘗て、米国永住権保持者であることを示すカードが緑色だったことに由来するらしい。
 近年までは、一度取得したら更新の必要がなかったのだが、9・11同時多発テロ以降、移民法が厳しくなったこともあり、今は10年おきに更新が必要だ。だから免許証と同じで、期限が切れる前に、移民局へ本人が出頭して更新手続きをしなければ、永住権は消滅してしまう。永住とはいうものの、結構不安定なものなのだ。
 それでも、永住権欲しさに、好きでもないアメリカ人と結婚したり、永住権をスポンサーしてくれる会社に、安月給でこき使われたりしている人が多いことを私は経験的に知っている。それ程米国永住権とは魅力的なもののようだ。
 米国では永住権を持てば、ビザによる滞在に比べると、自由度は大きく異なる。特に、発展途上国の人々から見れば、天国(政治的、経済的な意味での)へ住むための入場券のようなものに思われている。それ故に、不正取得も多いと聞く。筆者が以前済んでいたアパートの近くにある、ロサンゼルス市内のとある公園では、偽物のグリーンカードが、運転免許証や麻薬などと共に、白昼堂々と販売されている(らしい)。
 そもそも永住権とは、移民法に基づいて、米国内での無期限の滞在、居住、労働、通学などが認められるもので、志願すれば軍人にもなることができる(ただし、将校になるためには、市民権の取得が必要だ)。軍人にはなれるが、原則としてその他の公務員にはなれないし、選挙権はない。市民と永住権保持者の大きな違いは、この二点に尽きる。
 
 公務員になれない、選挙権がない。
 
 それさえ求めなければ、市民権を取る必要はない。逆に、公務員になりたい、政治参加を求めたいと思うならば、市民権を取得すべきなのだ。だから、日本の一部の思い上がった外国人がそれを求めようとし、愚かな政治家が、票目当てに憲法を無視してそれを行おうとしているのは、非常識も甚だしいことなのだ。
 それ以外の点を見ても、アメリカの永住権は葵の御紋の入った印籠ではない。例えば、グリーンカードを持つ日本人が、日本へ長期(半年以上)帰国する際には、移民局に事前の届け出をして許可を得ねばならず、もしも何の理由もなく居を米国外に移せば、永住権は剥奪される。また米国内での重犯罪、脱税なども剥奪の対象になるし、例えば飲酒運転での逮捕が重なれば、永住権を剥奪される可能性がある。
 永住権がなくなれば、90日以内に米国外に退去する必要がある。だからアメリカの永住権とは、実際には連邦政府による恩典にすぎず、権利というほどのものでもないのかも知れない。
 生まれながらの米国人である友人Mの前妻は韓国籍の若い女性だった。彼女がMとの結婚で永住権を得るまでは、実に数年かかった。これは女性の場合、前述のように偽装結婚や、永住権目的の結婚を先ず疑われるからだ。そして韓国人や中国人は不法滞在も多いので、必然的に厳しくなる。彼女の永住権取得の際の面接は夫婦別室で行われ、ベッドの左右どっちに夫が寝るか、歯磨きの銘柄は何かなど、夫婦でしか知り得ない細かい質問が繰り返されたという。
 ところが日本人男性の別のケースでは、アメリカ人の妻とシュミレーションしていたのに面接すらなく、カウンター越しに人定質問だけが行われ、すぐにパスポートに永住権許可のスタンプが押された。カードは2週間ほどで届くと言われ、本当にこれでよいのかと、何度もそのスタンプの文字を夫婦で読み返したという。
 ちなみに、結婚で得られる永住権は2年間の限定版で、その後、生計をともにしているか、子供は生まれたかなど、本当に夫婦として暮らしているかを確認された後、10年の永住権がもらえる。
 これとは別に、恐るべき永住権の制度がアメリカにはある。それは、抽選で得られる永住権だ。
 誰でも自由に参加できるというわけではなく、国ごとに割り当てがあり、例えば、テロリストが多く出ている国などからは参加できないが、日本は友好国だということもあり、毎年参加が認められている。手続きは簡単で、書類を書いて、参加費を出すだけだ。簡単な申し込み書類を書くだけの代行業者が存在することを見ても、結構な人数が日本からも応募しているに違いない。
 実際これは、アメリカの国家としてのビジネスにもなっているようだ。かなりの競争率だと聞くが、私が知っている狭い範囲だけでも、3人もの日本人がこの抽選に当たって永住権を獲得している。
 個人的にいえば、日本のような先進国の国民が、米国でサラリーマンをするためにだったら、無理をして永住権を取るのは馬鹿馬鹿しいことだと思う、なぜなら一部の語学の達人を除けば、アメリカ人と対等に仕事などできる訳ではないし、結局日系企業で働き、日本人で固まって暮らすことになるのがオチだからだ。自営業になっても結局、殆どの場合日本人顧客中心のビジネスをすることになるから、市場は狭い。サラリーマンにしろ、経営者にしろ、自由の国アメリカ(それも、2020年に大統領選挙を見る限り可なり怪しいが)よりも、不自由な国日本でそうするほうが遙かに自由でやりがいがある。少なくとも日本では日本語が通じるし、チップを払わないで済む。社会保険も充実している。
 しかし、前述のとおり、発展途上国の人にとっては、話は別だ。独裁者もいないし、政治も(それほど)腐敗していない。(それなりに)衛生的だし、(とりあえず)公共交通もある。言論の自由が(表面的には)ある。子供に(ちょっとだけ)マトモな教育を保障してやれるし、消費の楽しみは尽きない。
 そういう意味では、日本もアメリカと同じように、永住先として魅力的に映ってもおかしくはない。日本に憧れるから、日本が大嫌いだと公言するような輩が移民としてやってくるのだ。ところが、日本にはアメリカ的な永住制度がないと言っても過言ではない。だから、一足飛びに、帰化をどうするかという話になってしまうのだ。永住制度を整備した上で、帰化についてはその延長線上で考える。それが今後の方向であることは間違いない。

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