300字小説 『ある夜 』
あの日の夜、白い息を吐きながら、ぼくは駐車場にいた。そこへ、一本の電話。Aからだった 。
「おい、空見てみろよ。飛行機が飛んでんだろ」
ぼくは少しして吹き出した。それは、いつものあいつだったから。
ぼくは顔を上げてみた。
そこには、浅黒い空を背景に月と、一つの星。そして確かに、赤と白の点滅が見える。
だが、そんなの当たり前だ。いったい、飛行機不在の空なんて、現代にあるだろうか。しかも、二人が同じものを見ているとは限らない。
そんなことはお構い無しにAは続ける。
「飛んでんだろ飛行機が。あと2時間したら、もう一度空見てみろよ。それに俺が乗ってんから」
そう言い残して、電話は切れた。
それが、Aとの唐突な別れだった。