14人の同級生
自分たちの同級生は14人。
小中の9年間を田舎の学校で、この14人でのびのびと過ごしてきた。
「その中の1人が亡くなった」という連絡を受けたのがおとといの夜だった。
早すぎるなー。
いや早すぎる。
どういう理由でそうなってしまったのか…急な知らせに動揺して詳しく聞くことができなかったけれども、どういう理由だとしても早すぎる。
あいつは勉強も運動も特別できるというわけでもなく、かといっておバカだとか運動音痴だとかというわけでもなく、イケメンなことを除けばいたってフツーなヤツだった。
めちゃくちゃマイペースで、口癖は「めんどくさい」「だるっ」「なんで僕なの」。プラス、でかいため息。
普段そこまで喋るわけではないのに、自分が不利を被りそうになったときには理論武装とマシンガントークで圧倒する。
そしてすぐ寝る。
ある日の終礼では担任が「最近他の先生から『授業中に居眠りする人がいる』という話を聞いているんだけど」と苦言を呈している最中に居眠りして、いつも温厚な担任に特大の雷を落とさせていた。
そんなあいつがみんなから好かれていたのは、ひとえにあいつの人徳ゆえのことだろう。
あいつがいつ「めんどくさい」と言っても、でかいため息をついても、なぜか腹は立たなかった。
いろんなわがままを言ってもなぜか許してもらえる雰囲気をあいつは持っていた。
40人のクラスだったら目立たないヤツだったかもしれないけれど、14人の中ではかなり大きな存在感を放っていた。そんなヤツだった。
ただなぁ…その眠りはまだ堕ちたらいかんやつだろー。
あの時の担任もまだまだ若い。
しばらく誰もお前に雷を落としには行けない。誰もお前を起こしてやることはできないんだぞ。
最後に会ったのは去年の正月、成人式の後の同窓会だったかな。
あいつは2月生まれだからまだ未成年で、他のみんながうまそうにビールやら熱燗やらをグビグビやる中、ずっとカルピスかなんか飲んでたような気がするな。
こいつは酔わせたら面白いことになりそうだなーと思ってたんだけど、よく考えたらあいつ炭酸飲めなかったな。
まぁでも好き嫌いとかは年齢を重ねるにつれて変わっていくって言うしな。一度見てみたかったなぁ。
ってか次の同窓会どうすんだ。
俺ら14人が当たり前だからずっと「あと1人来ねぇなー」って言って始まらないぞ。
昨日が通夜で、今日が葬儀だと聞いた。
連絡をくれた友人から「お前も行くか」と訊かれたが、僕は残念ながら行くことができない。
なにしろこの日は午前中まで実家に帰省していて、連絡を受ける数時間前に下宿先に戻ってきたところだったのだ。
いろいろバタバタしているのもあって、すぐにもう一度地元に戻ってまた下宿先に戻って…というのが難しいので気持ちだけ伝えておいた。
ただ…
不謹慎な話かもしれないが、式に出ないことによって自分の中でまだ踏ん切りをつけずに済むのではないか、という気持ちもある。
あいつの姿を見てしまうと、現実を受け入れざるを得なくなってしまう。
目の前にいる人間があいつかどうかは、右腕を見ればわかる。
中学の頃、雨上がりに自転車に乗っていたあいつは濡れた路面で派手に転んで、右腕に何針も縫う大けがを負ったのだ。
たとえ顔や体型が変わっていても、あの腕の傷だけは変わらない。
あの傷を見てしまったら、認めなければならなくなってしまう。
そういう意味では、決定的な証拠を目撃しないままあいつと別れることになる自分は、幸せでもあり、また不幸でもあるのだろうと思う。
でも、いつかはこの現実と向き合わなければならなくなる日が来るのかな。
今はとてもじゃないけど信じられない。現実味がない。
そういやあいつ、スイミング習ってて泳ぐのだけはめちゃくちゃ速かったけど、その速さを発揮する場所が違うんだよなー。
俺は泳げないから、そっちに行くまでもっとかかるぞ。
そんなわけで、そっちに14人全員揃うのはいつになるかわからないけど、とりあえずそれまでゆっくり休んでてくれよな。
そん時はまた集まって飲もうや。
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