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小さなさえずりに耳を澄ませて

三年前、ちょうど自宅の門を出た所に、スズメの幼鳥が巣から落ちたのか母鳥を呼んで大きな口を開けて鳴いていました。
空は薄曇りで雨が降りそうだったので、私は予定をキャンセルして幼鳥を抱いて家に戻りました。

幼鳥は温かい巣の中にいるから保温しなくては!それくらいのことは分かったのですが、とにかくその仔のご飯をどうしていいのか分かりませんでした。しかし幼鳥は沢山ご飯を食べなくてはすぐ弱ってしまうことは容易に想像できました。

ネットで調べるとミルワーム(芋虫)の粉末がペットショップに売っているので与えると良いと書いてありました。ちょうど父が出かける所だったので帰りに買ってきて欲しいと頼みました。

けれど父が帰ってくる前にお腹を空かせてこの仔が死んでしまったらどうしよう、と内心気が気ではありませんでした。しばらくして妹が自宅に帰って来ました。そして彼女は私が状況を話すと急いで電熱式の腰を温めるシートを貸してくれました。虫カゴにシートとティッシュを一箱分くらいに敷詰めて私と妹はスズメの幼鳥の様子をみていました。幼鳥の声は少しづつ小さくなっていきます。

2時間ほど後、父が帰って来ました。
父が買ってきてくれたミルワームをぬるま湯で溶いて綿棒の先に付け、弱々しく開く幼鳥の口に入れました。
幼鳥はミルワームを飲み込みました。
もう一度綿棒でやってみると食べてくれました。
二口、三口。少しですが鳴き声も大きくなった気がします。
「お願い!もっと食べて!」
私は祈る気持ちでミルワームを幼鳥に与え続けました。

その過程を繰り返して数時間経ちました。
幼鳥の体は温熱シートの上で冷たくなっていました。何がいけなかったのか。自分では何もわからず、幼鳥を助けられなかった罪悪感でいっぱいになりました。

後日動物園で偶然出会った獣医さんに、餌を食べたのになぜ幼鳥を救えなかったのか尋ねてみました。
「野鳥の幼鳥を育てることはとんでもなく難しいよ。色んなビタミンを与えなくてはいけないし。僕達プロでも難航するんだ」
獣医さんは残念そうに言って獣舎の方へ歩いて行きました。

スズメの幼鳥を救えなかったこと。
せっかく出会ったのに、あの仔はもっと生きて空に飛んでいきたかっただろうに私には出来なかった。

時々庭の桜の木の元で眠る幼鳥の声が、今でも聞こえてくるような気がしてなりません。



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