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歌詞から生まれた『五月の涙』は

2021年1月8日
昼寝研究所寝言レポート#2479

よっしゃ、金曜日のやつをうまいことやり過ごしたぞ~

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もうね、とっとと小説を完成させたいわけですよ。
いま、終盤を書いていて、一人で盛り上がっているわけです。
こんな一文で締めてエピローグだ。うわー、すごい。などと脳内で大騒ぎしながら寒空の下、をとはJ'sRPGを聞きつつ信号が青に変わるのを待っているときになんかもう色んな感情がぐるぐると寒風に煽られて楽しくなってきましたよ。

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というわけで、これからちょっと小説を書くので、短いですが、日記はこれぐらいで終わろうと思います。

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そんな時に便利なのが短編小説。
『天使像の祈り その他の短編』から『五月の涙』をお届け。

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五月の涙 
 
 天気の良い日にはわたしの家から富士山が見えた。毎日見慣れていたこの山が「日本一大きい」とお兄ちゃんに教えられたのは小学二年生のとき。驚いたけど、確かに他の山とは全然違うのだから、それももっともだと思った。
 四年生のゴールデンウィーク。初めて富士山に登る機会が訪れた。お父さんは車を持っていなかったけど、薫おじさんがわたしとお兄ちゃんをドライブに連れていってくれた。富士山まではかなり遠く、道は混んでいたけど、わたしは楽しみにしていたことがあったので、車の中でもお行儀よく待つことができた。
 富士山が近づくと地平が斜めに見える。それはちょっと信じ難い光景だった。傾いて広がる大地の上の家や田んぼや畑。おじさんが「もう山の近くだからね」と説明してくれたけど、お兄ちゃんもわたしもその奇妙な世界に目を奪われて呆然としていた。
 富士山には途中まで車で登ることができる。これはたいそう便利だった。だって、そうでなければ大変すぎてたくさんの人が来ることができないだろう。みんな富士山には登りたいに決まっている。なんといっても日本一高い山なのだから。
 駐車場で車を降りると、風が冷たかった。せっかくここまで来たのだから、てっきり頂上まで行くのかと思っていたら、それはとても無理だとおじさんは笑った。確かに、上を見ても富士山の頂上は見えない。登ってみてその大きさに改めて驚いた。てっぺんで思いっきり「やっほー」って叫びたかったけど、わたしだってそんなわがままを押し通しはしない。歩いて登るのはすごく辛いに決まっているし、約束した時間も迫っていたから。
 駐車場の近くにちゃんと展望台という景色を見る建物があるのでそこでガマンする。
 おじさんに訊ねてわたしの家の方向を教えてもらった。
「そりゃ南東の方角だなあ」
 と指差した方向にわたしは持参した双眼鏡を向けた。
「今何時?」
「あと五分で三時だ」
 そろそろいいだろう。わたしは双眼鏡を覗きながら大きく手を振った。しかし、期待していたものは見えなかった。
 ちょっと前からうすうす感じていたけど、わたしの考えはどうやら間違っているらしい。
「誰に向かって手を振ってるんだ?」
 お兄ちゃんが不思議そうに訊ねる。わたしは小刻みに揺れる双眼鏡を手すりにくっつけて固定させ、一生懸命に目を凝らした。
「お母さんよ。家を出るときに言ってきたの。あたしが富士山で手を振るから見ててねって。お母さんもいま家で手を振ってるはずなの」
「なにそれ?」
 お兄ちゃんが甲高い声であきれる。ああ、わたしをからかったりするときにはこんな声になるのだ。
 わたしは自分のやっていることの正当性を主張した。
「だって、家から富士山が見えるじゃない。だから富士山からもわたしの家が見えるはず」
 当然の理屈を言う。だけどお兄ちゃんもおじさんも笑うだけだ。どうやら、間違っているのはわたしの方らしい。
「それはいくらなんでもおかしいよ」
 と薫おじさん。わたしは自分の考えのどこが間違っているのかよくわからない。
 悲しくはなかったけど、悔しくて涙が少しこぼれた。
「そうだな……」
 おじさんが困ったように腕を組んで空を見上げた。
「例えば、月だ。恵美ちゃんは月を見ることができるね」
 わたしはうなずく。
「それじゃあ、月から恵美ちゃんが見えると思うかい?」
 それはいくらなんでも無理だとわかる。だって月から見た地球の写真を見たことがあったけど、日本だってわからないほどだもの。
「そう。それと同じなんだよ。理屈の上では恵美ちゃんの家だってこの景色のどこかにある。だから恵美ちゃんの言っていることは確かに正しいんだ。でも、人間の目や双眼鏡で覗いたぐらいではとても見ることはできないだろうね」
「ふーん」
 それを聞いてわたしはようやく納得ができた。
 
 
 家に帰ると母が「どうだった?」と訊いてきた。
「お母さん、富士山から見えないって、最初に教えてくれればよかったのに」
 と怒って言うと、母は洗濯ものをたたみながら笑った。
「わたしはちゃんと富士山に向かって手を振りましたよ。恵美子があの山のどこかで手を振っていると思うだけでおもしろかったわ」
 と楽しそうに言うので、わたしはなんだかわからないけどそうなのかなあと思った。
 
 
 月日が流れ、わたしは高校生になった。
 わたしにも好きな人ができ、サッカー部の練習や試合には応援に出かけるようになった。
 ついにはわたしの方から『告白』というやつをして、めでたく二人はデートなどするようになる。
 あるとき、わたしは言った。
「わたしね、ずっと前から試合や練習を見てたの」
 すると彼はうなずいた。
「知ってたよ」
 その答えに驚いた。
「どうして?」
「だって、いつもいるのが見えたもの」
「うそ。あんなにたくさんの人がいたのに?」
「うん。見えた」
 わたしは富士山でのことを思い出していた。そういうこともあるのだ。
 
 
 兄が遠く離れた大学に入り、家を出ていった。
 やがてわたしは地元の大学に通うようになり、就職はどうしようか、などと考えはじめた頃、母が亡くなった。
 父は急に老け込んだように見えた。大学を卒業した兄は地元の会社に就職を決め、近くのアパートに移ってきた。
 薫おじさんは奥さんと離婚したと聞く。久しく会っていない。
 わたしは、車でドライブに連れていってくれる人もでき、やがて結婚をすることになった。
 母に見てほしかったウェディングドレスを彼と選び、式の日程や段取りを決めた。結構大変なことだった。
 久しぶりに二人とも暇で、お天気も良い五月の日。彼がドライブに行こうと言い出した。
「どこがいい?」
 わたしは迷わずに「富士山」と答えた。
 
 
 相変わらず、麓では大地が傾いていた。
 十五年ぶりの富士山の展望台は記憶に残っているのとは違って、ちょっと狭く、汚れていた。
 彼は持参したオペラグラスで辺りを見回してたけど、やがてため息をついた。
「だめだ。こんな双眼鏡じゃ何も見えないや」
 そう。ここからは何を見るにしても遠すぎるのだ。
「ねえ、今何時?」
 訊ねると彼は腕時計を見る。
「三時五分前。なんか食べようか」
「後で」
 わたしは記憶をたどり、南東の方角が見渡せる場所に向かった。
 昔よりは建物が増えたような気もするが、あまり正確に覚えてはいなかった。
 展望台の手すりから身を乗り出してわたしは両手を振る。
 
 この景色のどこかで。
 
 悲しくはなかったけど、懐かしくて涙が少しこぼれた。

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というわけで昨日2021年1月7日の自作Kindle有料版ダウンロード数はアレもコレも0だ~
Kindle Unlimitedの既読ページ数は1215。ありがとうございました。

チョコレートの天使、いつまでこの順位なのか……そろそろ落ちるのではないかと思いますが……

さあ、ちょろっと小説を進めます。とにかく一度最後まで書くぞ~

それでは本日もお疲れ様でした。
おやすみなさい。

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