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2020年-2023年 総合商社はなぜ株価が上がったのか?

概要

学生の就職先ランキングでは人気があるものの、投資家にはあまり人気がなかった総合商社
そんな総合商社の株価がコロナで下落した後に、少しずつ上昇して現在に至るまでのストーリー。

総合商社の株価が軒並み上昇した主な理由としては、主に円安の影響、および地政学リスクに伴うエネルギー・資源価格の高騰による業績アップ、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが今まで安値で放置されていた日本の総合商社株を買い集めたのがきっかけと考えられます。

また、2024年1月よりスタートした「新NISA」も株価上昇の追い風となった要因の1つと考えられます。

では、実際にどのようなタイミングで何が盛り込まれることによって株価の上昇に繋がったのか、三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅・豊田通商・双日の7社を調べていきたいと思います。

目次

総合商社のビジネスモデル

総合商社のビジネスとは?

総合商社のビジネスは主に下記の2つとなっています。

① トレーディング:貿易の仲介役
事業投資:利益が見込めそうなあらゆるビジネスに投資

トレーディングに関しては日本国内、世界各国、あらゆる国や地域で貿易に仲介役を行い、その仲介料で利益をあげております。総合商社独自の強みを持ったコネクションを活かすことによって、取引先のメーカーなどは事業の幅を広げられるメリットがあります。

一方で事業投資は利益が見込めそうなあらゆるビジネスに投資を行い、生産から消費までに関わるあらゆる業界・企業への出資を行い、経営参画を行うことにより、総合商社は収益を増やしています。

また、商社によって強みは異なり、次の項目では7社の事業内容や強み、業績・株価について説明していきたいと思います。

総合商社各社の特長・業績・株価

三菱商事

三菱グループを代表する総合商社であり、日本一の商社です。
特徴としてはバランスの良い事業経営を行っており、その中でも特に「金属資源」に強みを持っています。

売上高はコンシューマー産業と金属資源が高く、純利益は4割以上が金属資源となります。

三菱商事 2023年3月 売上総利益(百万円) ※調整額を除く
三菱商事 2023年3月 純利益(百万円) ※調整額を除く

業績・株価チャートは以下の通り。
業績は2008 - 2009年が最大であるものの、株価の伸びだけで言うと現在が最も高い水準。
2020年で買っていた人は5倍程度まで利益が膨らんでいる計算です。

三菱商事 業績(引用:株探)
三菱商事 月足チャート(引用:株探)

三井物産

三井グループを代表する総合商社です。
特徴としては「資源分野」に強みを持っています。

資源分野は資源価格の影響をダイレクトに受けてしまうため、資源価格が低いと赤字に転落する可能性もあるものの、2022年以降は鉄鉱石などの資源高を追い風に、純利益は1兆1,306億円で業界2位を記録しております。

売上高は金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品の順に高い結果となっております。
一方純利益は金属資源とエネルギーで全体の65%以上を占める結果となっています。

三井物産 2023年3月 売上総利益(百万円) ※調整額を除く
三井物産 2023年3月 純利益(百万円) ※調整額を除く

業績・株価チャートは以下の通り。
業績は三菱商事と同じく2008が売上高が高いものの、資源価格高騰の影響で経常利益や純利益は2022-2023年で爆発的に伸びています。

また、株価も過去最高値の水準を付けています。

三井物産 業績(引用:株探)
三井物産 月足チャート(引用:株探)

伊藤忠商事

三菱・三井・住友の3大財閥に属さない独立系の総合商社。

大きな特徴としては、三菱商事や三井物産とは異なり、「非資源分野」に強みを持っています。
資源価格の影響を大きく受ける資源ビジネスに偏らず、景気変動耐性のある生活消費関連を中心としているため、安定的な収益基盤を構築しています

売上高はエネルギー・化学品や機械、金属、食料、生活品、情報・金属など、オールバランス型となっています。
一方純利益は金属資源とエネルギー・化学品の割合が高く、今の時勢ではエネルギー価格の高騰が総合商社の純利益に大きな影響を与えているのが良く分かります。

伊藤忠商事 2023年3月 売上総利益(百万円) ※調整額を除く
伊藤忠商事 2023年3月 純利益(百万円) ※調整額を除く

業績・株価チャートは以下の通り。
売上高は過去最高の14兆円台を記録。営業利益、経常利益、最終利益も高水準。
株価も過去最高値の水準となっています。

伊藤忠商事 業績(引用:株探)
伊藤忠商事 月足チャート(引用:株探)

住友商事

住友財閥を代表する総合商社。
非資源分野において、メディア・デジタル事業に強みを持っています。

また、ポートフォリオに関しても売上高としては全体的にバランスが良く、資源系のみならず生活・不動産関連も強いです。

理念には「信用・確実」という考え方が存在し、イケイケなイメージがある総合商社の中では割と堅実に事業を開拓して業績を伸ばしている会社です。

住友商事 2023年3月 売上総利益(百万円) ※調整額を除く
住友商事 2023年3月 純利益(百万円) ※調整額を除く

業績・株価チャートは以下の通り。
売上高は2009年と比較すると伸び率は低い状態であるが、経常利益、最終利益は2023.03に最高益を記録している。
2025.03予想は三菱商事、三井物産と比較するとまあまあ強気です。

株価に関しては他の総合商社と比較するとやや伸び率が低いものの、それでも2020.04の底値から約4倍の水準。十分高いです。

住友商事 業績(引用:株探)
住友商事 月足チャート(引用:株探)

丸紅

芙蓉系の総合商社であり、資源分野では金属事業、非資源分野では食料事業に強みを持っています。

資源分野である金属事業では、特に銅分野に強みを持っています。チリで鉱山開発を展開しており、持分権益銅量は日本トップクラスの約15万トン(2022年3月時点)を有しています。

一方、非資源分野である食料事業としては、コーヒー豆輸入は業界全体の約30%のシェアを誇ります。

ポートフォリオとしては他の総合商社よりも細かく事業が分かれており、特に食品分野のアグリ事業が全体の売上高の20%以上を占めています。

純利益は他の総合商社と同じく金属資源価格の値上がりにより、金属資源が約35%を占める結果となりました。

丸紅 2023年3月 売上総利益(百万円) ※調整額を除く
丸紅 2023年3月 純利益(百万円) ※調整額を除く

業績・株価チャートは以下の通り。
売上高は2015.03が最高値、営業利益、経常利益、最終利益は他の総合商社と同じく2023.03に最高益を記録しています。

株価に関しては2020.05の456.2円から約7.5倍と大きく上昇しています。

丸紅 業績(引用:株探)
丸紅 月足チャート(引用:株探)

豊田通商

トヨタ系総合商社。
2006年に総合商社であるトーメンを合併したことによってトヨタグループ外との取引が増え、総合商社としての地位が確立されました。

トヨタ系だけあって金属・自動車に強みを持っており、その他にも機械・エネルギー・化学品なども得意としています。

また、アフリカ関連事業についても歴史が古く、現在も注力しています。

ポートフォリオとしては資源・エネルギーの割合が低く、金属、自動車、化学品・エレクトロニクス、アフリカの割合が高いです。
豊田通商に入社するとアフリカ駐在の可能性が高いかもしれません。

純利益も比較的バランスが取れている状況です。

豊田通商 2023年3月 売上総利益(百万円) ※調整額を除く
豊田通商 2023年3月 純利益(百万円) ※調整額を除く

業績・株価チャートは以下の通り。
全ての業績が2024.03で最高益の状態です。

株価に関しては2020.03の安値から約5倍です。商社株恐るべし。

豊田通商 業績(引用:株探)
豊田通商 月足チャート(引用:株探)

双日

ニチメンと日商岩井という2つの商社が合併して設立された総合商社。
日商岩井の源流である鈴木商店は、第一次世界大戦中には財閥をしのぐ日本一の総合商社でした。

ポートフォリオを見ると金属・資源・リサイクル事業の売上が全体の25%を占めており、時点で化学、自動車の割合が高いです。
純利益に関しては金属・資源・リサイクル事業だけで半分以上を占めています。

双日 2023年3月 売上総利益(百万円) ※調整額を除く
双日 2023年3月 純利益(百万円) ※調整額を除く

業績・株価チャートは以下の通り。
売上高は残念ながら縮小傾向ですが、経常利益、純利益は金属資源価格の高騰により過去最高値を付けています。

株価に関しては2020.07の安値から約4倍と伸び率は凄いのですが、他の総合商社株と比較するとPERが低く人気がやや低いという印象です。

双日 業績(引用:株探)
双日 月足チャート(引用:株探)

総合商社全体の業績比較

全体の業績データ

下記は7大商社のそれぞれの2023年3月時点での業績比較データです。

7大商社 業績データ

売上高、経常利益、最終益、自己資本比率、最終利益率の比較したグラフはそれぞれ下記の通りです。

売上高

売上高

経常利益

経常利益

最終益

最終益

自己資本比率

自己資本比率

最終利益率

最終利益率

総合商社全体の株価水準

日経平均株価、為替、原油価格との比較

2019年1月4日を100%とした場合の7大商社の株価の平均上昇率と指数(日経平均株価、為替、原油)の比較のグラフです。
(データ:2019年1月4日 ~ 2024年4月12日まで)

株価・指数 伸び率比較(2019/01/04 :100%とした場合)

2020年のコロナショック後に原油が大幅に下落し、総合商社株も軒並み日経平均より下落している状況が続いてましたが、2021年頭から息を吹き返し始め、2022年の半ばから大きく上昇する結果となりました。

銘柄別の株価比較

2019年1月4日を100%とした場合の7大商社のそれぞれの株価の平均上昇率と日経平均株価の平均上昇率を比較したグラフです。
(データ:2019年1月4日 ~ 2024年4月12日まで)

銘柄別 株価 伸び率 (2024/01/04 :100%とした場合)

2024年6月時点では順位が入れ替わっている可能性もありますが、2024年4月12日までのデータでは三井物産がトップで400%、三菱商事、伊藤忠商事、丸紅が350%台、豊田通商が300%台となりました。

一方で双日に関しては2019年1月4日起点で見ると、日経平均株価の伸び率より低い水準となっています。
コロナ後の下落からの立ち直りに時間がかかり、他の銘柄よりもゆっくりと株価が伸びています。

週次ヒストリカルPERの比較

週次のヒストリカルPERの結果は以下の通りとなりました。
(データ:2019年1月4日 ~ 2024年4月12日まで)

ヒストリカルPER(週次)

2023年頃からPERの水準が高まり、PER:10倍を超えるようになってきました。
特に三菱商事に関しては日本一の総合商社だけあり、2024年に入ってから新NISAで買われた結果、PERが15倍以上に大幅上昇しています。

ではなぜここまで株価が上昇したのかについて、次の項目でまとめていきたいと思います。

総合商社の株価上昇シナリオ

上昇シナリオのチャート

昨今の上昇に至るまでのシナリオを下記のグラフの通りまとめました。
(データ:2019年1月4日 ~ 2024年4月12日まで)

商社株 上昇シナリオ

【要因1、バークシャー・ハサウェイによる買い集め】

元々は2020年3月に起きた新型コロナによる景気悪化により、株価は2020年11月頃まで伸び悩んでおりました。

しかし、2020年8月頃から水面下で日本株の割安感と総合商社のビジネスモデルの伸び代を察したウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事株を各5%以上取得し、大きなニュースとなりました。

また、合わせてウォーレン・バフェット氏が最大9.9%まで持ち分を高める可能性があると述べました。

その後、2022年10月頃にはバークシャー・ハサウェイが保有株を6%まで保有比率を高めるとニュースとなり、2023年4月にはウォーレン・バフェット氏自らが来日し、総合商社株を絶賛すると共に、保有株を7.4%まで買い増しを行いました。

さらに2023年6月19日にはバークシャー・ハサウェイが保有株を8.5%まで保有比率を高めたとニュースになり、その頃には2019年1月4日の水準より約2.5倍の株価に値上がりする結果となりました。

【要因2、円安による影響】

円安による影響は、基本的には輸出企業にとってはプラスに働き、輸入企業にとってはマイナスに作用します。

大手商社の決算出揃う 業績好調も記録的円安にトップから懸念の声相次ぐ | TBS NEWS DIG

上記のニュースによると、M&Aによる買収や原材料の調達コストが上がることによってデメリットもあるものの、大手商社にとっては基本的にはプラスに働く要因となりました。

【要因3、ロシアウクライナ戦争勃発による資源価格の高騰】

2022年2月24日、近年まで戦争が起こらなかった平和な世界に亀裂が入りました。

ロシアとウクライナが戦争を始めたことによって世界情勢が混乱し、エネルギー・資源価格の高騰を招きました。

エネルギー・資源を多く抱えている総合商社にとっては、こちらも利益を押し上げる要因となりました。

【要因4、新NISAのスタート】

2024年1月から新NISAがスタートしました。
新NISAとは、購入した金融商品から得られる利益が非課税になる制度です。

NISAの精度は今まであったものの、そこから下記の通り大幅に制度が変わり、内容が以前よりも大きく充実しました。

旧NISA、新NISAの比較(引用:SBI証券

インフレが進む中で、国としても貯蓄よりも投資への動きを働きかけるべく、このような制度が設けられました。

そして日本を代表する大型株を中心に多くの投資家からの資金が流入し、結果として日経平均株価についてもバブル期を超える過去最高値を更新する結果となりました。

どうやったら仕込むことができたのか?

バークシャー・ハサウェイが買付スタートした際に仕込む

実際に株価が大きく上昇し始めたのはバークシャー・ハサウェイが保有比率を7.4%まで保有し始めた後で、軒並み総合商社が上方修正&増配を行ったことにより大きく株価が上昇しました。

総合商社のビジネスモデルとして、様々な事業に分散投資を行っていることから、基本的には倒産リスクはまず発生しないとしてコロナショックなどに仕込んでおくのも作戦のひとつですが、基本的には分散投資されているが故に大きなサヤは取りにくい銘柄であると考えられていました。

そのため、ここまで株価が上がることはウォーレン・バフェット氏を除いて恐らく誰も予想出来ていなかったと思われますが、バークシャー・ハサウェイが伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事株を各5%以上取得し、最大9.9%まで持ち分を高める可能性があると述べたタイミングで素直に仕込めば良かったのでは・・・と今更ながら思います。

感想まとめ

先述の通り、総合商社は安定株でありつつも大きな株価は狙えない銘柄と認識されていたため、個人投資家にはあまり人気はなく、私自身も完全にアウトオブ眼中でした。(・・・というか株のニュースをまともに見始めたのが2023年の秋ごろなので、私の中でバークシャー・ハサウェイが2022年10月からコツコツと買付を始めていたことは全く知りませんでした。)

ではまたその後不景気がやってきて、何十年後かに再び総合商社が日の目を見るようになった際に仕込むかというと恐らく手は出していない気もしますが、今のような日経平均株価が最高値を付けるようなタイミングでいろいろな業界の銘柄を研究しておき、過去に起きた事象を頭に入れておくことによって、いずれその知識が活かせるタイミングが再び訪れれば良いなと思いました。

ちなみに最後となりますが、皆さんが株価以上に気になる総合商社の2024年の年収は下記の通りのようです。

商社 年収比較(引用:就職AGENT

正直めちゃくちゃ羨ましいです・・・。英語話せないけど。
来世は総合商社に就職できるよう勉強頑張ります。

参考サイト

7大商社を徹底比較! 高難易度の関門を突破するための3つの攻略法 | キャリアパーク就職エージェント (careerpark-agent.jp)

【総合商社:業界研究】五大商社(三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・丸紅・住友商事)を比較!業績比較・ランキング・平均年収・社風/強みの違い|就活サイト【ONE CAREER】

大手商社の決算出揃う 業績好調も記録的円安にトップから懸念の声相次ぐ | TBS NEWS DIG (1ページ)

【2024年最新版】商社の平均年収は?総合・専門・年代別にランキング形式でご紹介! | 就職エージェントneo (s-agent.jp)

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