WEB Re-ClaM 第49回:クラシックミステリ原書刊行状況(2022/7)
最近表仕事の方がバタバタしていて、読書も思うようにままならない生活が続いております。どこかで一度仕切り直したいところですが……
★Ed. by Otto Penzler / Golden Age Locked Room Mysteries (2022, American Mystery Classics)
オットー・ペンズラー編のアンソロジーが今年も登場です。今回のテーマは「密室」。ジョン・ディクスン・カー、ジョセフ・カミングズ、クレイトン・ロースンら、いかにもな「密室派」を取り揃えつつ、ウールリッチ、エバハート、ガードナー、クイーン、パーマー、ライスといったアメリカの探偵小説黄金時代を代表する作家たちの有名な、あるいは知られざる密室もの短編をずらり。初心者におすすめでき、かつマニアもしっかり満足させる造りは、さすがペンズラーといったところでしょう。
★Max Dalman / Buried Once (1946, Black Heath Classic Crime) 他計六冊
以前ご紹介した、日本では一部のマニアックな読者の間で有名なマックス・ダルマンが七月にさらに六冊まとめて復刊されました。怪奇趣味を盛り込んだこの Buried Once は、ROMの連載でM.K.さんが絶賛したことで記憶に残る作品。以前入手したオリジナルの原書がそのままになっているので、そのうち読んでみようかな。
★E. C. R. Lorac / Crook O'Lune (1953, British Library Crime Classics)
マーティン・エドワーズのロラック復刊の……第何弾になるのかは思い出せませんが、意外にもここで中後期の作品を持ってきました。正直ミステリとしての評価はそこまで高くない作品ですが、後年のロラックが繰り返し取り上げた、イギリスの片田舎の風景の描写の素晴らしさが冴える作品です。でも、本当は30年代中期の超入手困難作に着手してほしいなあ。
★Mary Fitt / Death and the Mary Dazill (1948, Moonstone Press)
ムーンストーン・プレスでは先々月に引き続いてメアリ・フィットの作品を刊行。今のところ読んでいないのでなんとも評価できませんが……
といったところ。本当は作品を読んでからご紹介できればいいのですが、なかなか難しいですね。それではまた次回。
(追記)J・F・Norrisのブログ Pretty Sinister Books を見ていたら、見逃していた本の情報が入ってきました。
★Joan Coggin / Dancing with Death (1947, Galileo Publishing)
最近日本でも佳作『知られたくなかった男』(Catt Out of the Bag)が翻訳されたクリフォード・ウィッティングの作品を次々に復刊している Galileo Publishing が放ったのは、イギリスの女流作家ジョーン・コギンのレディ・ルーピンシリーズの第一作。この作家自体は2000年代序盤にルー・モルグ・プレスから復刊されていて現在でも入手は難しくありませんが、定期的に入手しやすい媒体が出ることに意義があります。ノリスによると同社は来年ジョーン・コッキンという似た名前の同じく英女流作家の作品を復刊予定とのこと。森事典でも取り上げられているコッキンにも大いに期待しましょう。
★Eunice Mays Boyd & Elizabeth Reed Aden / Dune House (2021, Level Best Books)
昨年の12月に出ていたのをまったく見落としていた本です。ユーニス・メイズ・ボイドはアメリカの女流作家で、1940年代にデル・マップ・ブックスでアラスカを舞台にした探偵小説を三冊書いたことで知られています。この Dune House は、ユーニスの名づけ娘で自身も作家であるエリザベス・リード・エイデンが、ユーニスの遺品を整理している時に見つけた未発表原稿を整理して刊行したものだそうです。amazonでは、同様の経緯で刊行されたSlay Bells という中編も購入することができます。古い児童書の復刊を中心に刊行している Level Best Books は、今後ユーニスのもう一つの未発表長編を刊行し、またデル・マップ・ブックスで刊行された三作を復刊すると発表しており、今後の動きに要注目です。
他、ノリスは今後の予定として、
・ランブルハウスから Cecil M. Wills の超レアな初期作二冊が復刊。
・自分好みの本を復刊するために、自社レーベルを立ち上げる(ノリスの本業はネット古書店主)。自分のブログでレビューしてきた Elma K. Lobough と Reginald Davis をまずは復刊する予定で、以降は20世紀前半のアメリカの作家を中心に企画を立てていく。
と述べています。ロボウとデイヴィスについては、以下の記事を参考にしてください。
個人的に、ノリス大兄からは大いに影響を受けており、彼が絶賛している本をebayやネット古書店で何度も買っています(読めてなくてスンマセン)。彼の新たな活動を日本のミステリマニアに紹介して、少しでも購買数を増やしていきたいところです。