ミニ四駆を科学する。~ノーマルタイヤでタイヤの可能性と理想値を追う~
ミニ四駆を買うと、大概付属するノーマルタイヤ。
大多数の人は、ほとんど使うことなく、歴が長くなるにつれ家に溜まっているのではないでしょうか?
高グリップで跳ねたりコーナー遅かったりと言う理由で敬遠されますが、本当にそうなのでしょうか?
元々ノーマルタイヤは使ってましたが、私が何故改めてノーマルタイヤに注目したかは、フラットで四輪グリップを履いてても速いマシンがいることを知り、そのメカニズムに興味を持ったからです。
そんなノーマルタイヤを本気で突き詰めると、どんなタイヤより速さの可能性を秘めてるのではないか、どんなタイヤにも理想値があるのではないか、そんな疑問を検証していきます。
ミニ四駆に限らず、およそ地面を走るものは地面とタイヤとの摩擦力により前に進みます。
摩擦力は『F=μmg』、分かりやすく書くと『摩擦力=摩擦係数×荷重×重力』という式を普通高校の物理では習うと思います。
μは摩擦係数で物質特有の定数で、例えば、ノーマルの黒タイヤで比較すればここは変わらず、mは荷重、gは重力で表します。
mは車重で120gで固定とし、重力は変えられませんから、『タイヤを太くして接地面積を大きくしてもグリップ(摩擦力)』は変わらない』というのが答えになりますが、この「F=μmg」という法則は本来厳密にはゴム系のタイヤでは当てはまりません。
タイヤは「弾性体」で、この法則だけでタイヤの摩擦力(グリップ)を考えている限り、現実は説明できません。
何故ならば、弾性体とはバネのようなもので、そのバネを極めて小さくしたものが前後左右上下のあらゆる方向に組み合わさってるイメージで、「伸ばされたら縮もうとし、縮められたら伸びようとする」性質も備えます。
そこには、以下のような性質もあり、
〇摩擦力は接触面積に比例する。
〇摩擦係数は荷重が大きい程小さくなり、あるところで一気に小さくなる
〇温度に依存する
〇速度にも依存する
〇接触面の形状(力の方向と同じ方向に長いか短いか)でも変わる。
等、厳密に数値を弾き出していくにはどんなタイヤでも極めて困難です。
とはいえ、その全てを網羅するのは不可能かも知れませんが、ある一定の条件を付し、仮定する事で論理的に理想のベース値は割り出せるのではないか、それが今回の、ずっと探究してる課題の一つです。
車等には転がり抵抗と言うのがあります。簡単に言うと、進む力と反対に働く力(抵抗)です。
〇転がり抵抗=転がり抵抗係数×荷重
として上記の式で求められ、マシンの車量が重いほど、転がり抵抗が増加するということです。
普通に考えれば、転がり抵抗を小さくする視点でマシンの車重はより軽いほうが良いということにもなります。
また、全転がり抵抗の半分以上をトレッド(接地面)の厚さが占め、トレッドが厚いほど転がり抵抗が高くなります。
このような性質や抵抗について考察すると、フラットのタイヤは理にかなっており、そこから立体においては
〇一定の厚みによる、接地面積を勘案した段付きタイヤ
が私の中で想定されました。
また、私の提言では全てのものに黄金比(1:1.618)が存在し、勿論タイヤにも当てはまります。今回のメインは「幅(摩擦力)」なので、それに注目します。
そして、一般的な自動車のタイヤでの一番グリップ力が発揮されるタイミングは、路面に対し20%ほどスリップしてる瞬間が縦横ともにバランスを保ってベストに働くとされています。また、それを超えるスリップ率では、それまで縦に強かったグリップ力が横へのグリップ力と立場入れ替わり、縦より横の方に強くなると言われています。
つまり、摩擦力を発揮する接地幅を意図的に20%程度スリップしやすくする事でベストなグリップ力を生みつつ、コーナーでは縦グリップ力を越えてスリップに持ち込みやすくする事で曲がりやすい状況を作り出す事が出来るとも言えます。
摩擦力は速度にも依存するため、モーターにも関係性があると考察しました。
この時、モーターの実走行時から算出するモーターの回転数が、無負荷時の良くて約7割程度との事から、計算から算出されるベストなグリップ力の70%以下を目安
とするのが理想であろうと考察しました。
そして、基準とするモーターをHD3の3万弱を定格とし、例えばこれを100(1.0)とします。
コレらの条件から、
〇仮に転がり抵抗を約5%とした時、120gのミニ四駆で発生する抵抗力は6g
〇ミニ四駆のタイヤ接地面積が1mm×幅として、タイヤ最小全幅は8mm。コレを段付きタイヤにする時のサイズは
6×120÷1.618÷100×1.0=約4.45
摩擦係数の最大有効幅は約4.45mm、故意的にスリップ率20%を生む為には
4.45×0.8=約3.56
幅3.56mmのモーター負荷時70%で
3.56×0.7=約2.49
つまり、私の考察ではHD3搭載の車重120gのミニ四駆は、1本約2.5mmの接地幅を持つノーマル段付きタイヤがあれば足りる試算です。
チューン系は各個微妙に違いますが、概ねHD系の約60%程度のパワーですから、1.5mm程度(実際には変動します。)とも試算できます。
とはいえ、1.5mmや2.5mm幅の段付きとなると、径が大きくなるにつれ凸型に切るとタイヤの厚みや段差部分の走行時の変形(歪み)が発生しやすい事から、タイヤの段付き差が大きい場合は断面をラウンド型(台形型)とする事でヨレに対応させます。なので、タイヤ径や重量から考えれば、なるべくペラタイヤまたは近い状態(薄め)が良いと判断されます。
こうして求めたタイヤ接地幅を基準として、片軸と両軸に落とし込む時、シャーシの特性を考慮し、
〇両軸ならリア側は僅かに狭幅に、片軸正転ならフロント側を僅かに狭幅にする
よう意識して作成(組み合わせ)する事で、トルク配分に配慮したスリップ率を、
〇ローラーベースとトレッドの関係性に配慮してラウンドど段付き位置を決定
する事で旋回力と安定性を求めます。
何故ならば、ミニ四駆は四輪駆動ではあるものの、端的に言うと片軸はプロペラシャフトで伝達する分のロスが、両軸はモーターの回転向きで伝達効率にリア側へロスが生まれる為で、タイヤは車体構成上の理想値に寄せる為の配慮が必要だからです。
勿論、他記事にも書いたように、ローラーベースやドレッド等のシャーシに合わせたセッティングの他、パワーに耐えうる車体を構成した上でタイヤを搭載する訳ですが、こうして作ったマシンを走行させてみると、一般的なパワソでグリップを活かした瞬発力、低グリップタイヤにも劣らない旋回性と、跳ねやヨレの抑制を、ワンランク上の速度域で確認出来ます。
実際に検証したマシンはMA
(120g、マッハ、23.5・3mm)とSXX、
(129g、パワダ、24.7・トレッドタイヤ)そしてSFM
(109g、ハイパー、23.6・2.8mm)と同車(モーターをパワダに変更)、最後はMA
(120g、ハイパー、23.6・2.5mm)の4台5パターンです。
マッハMAはラウンド型の段付き、SXXはオフセットトレッド型、SFMは通常の段付き(段差約0.5mm)、ハイパーMAも同様の段付きとしました。
※ 走行動画は各シャーシ名等からLINKしてありますから確認してみて下さい。コーナリングや加速等の検証の為、完走していないものも含まれるのはご了承下さい。
SXXのオフセットトレッド型の場合は全体的に厚みがあり、当該車両はフロントが外に向けてあるのもあって、セクションによりヨレと思われる若干ロスが見受けられました。
マッハMAはセッティングが未熟で空中でロールがあるものの、想定通りタイヤの検証としては十分な結果と言える速度と旋回性が認められました。
SFMはパワーに対して車体が軽く、やはりハイパーだと計算よりタイヤ幅が広い為、マッハMAの様なキレが足りなかったと確認出来ました。
しかし、パワダに変更した場合、格段にコーナリング等良くなりました。
ハイパーMAは想定通りの設定のため、マッハMAやパワダSFMと同様に十分な結果と言える旋回性が認められました。
なお、検証時間短縮の為、各々同程度のスペックで縮みタイヤやハード、ローフリ混合のタイヤを履かせたマシンとの比較を行っていますが、各コースでのタイムに大差は見受けられず、レイアウト次第ではノーマルの方が速いと分かりました。
以上のとおり、現在までの検証結果から言えば、想定した段付きタイヤであれば、ノーマルタイヤで他の低グリップタイヤに勝るとも劣らない走行性能を発揮出来る事が判明しました。
ノーマルタイヤは他の低グリップタイヤと違い、グリップ(摩擦力を活かす走り)がある為に、ちゃんと計算しないで、また上記の数値をモーターチョイスや電池特性も考えず、鵜呑みにやればSFMの結果でも分かったように、ミスマッチな摩擦力から遅くなります。露骨に言えば、「教えて君」な方には向かないタイヤと言えるでしょう。厳密に言えば、最大限に能力を引き出すには、1つの車体でモーターパワーごとに、コンマ単位で数種類の幅や径で用意する必要があるほどシビアな話だからです。
しかしながら、これほど明確に数値で結果に出せると言うことは、これを突き詰めると他のタイヤでも同じことが言え、理想値が出るので、今までよりもマシンのポテンシャルが上がることは間違いありません。
まだこの提言は確定的なものではなく、特に計算式は私見であって、もっと正しいものもあるはずです。
これからも検証を重ねなければなりませんが、タイヤを見直すには良いきっかけ作りにはなったと思います。
勿論、動画のようにレイアウト次第でノーマルにはキツい場面もある事は事実で、至上とする事はありませんが、素晴らしい可能性は示してくれたと思います。
他の記事に書きましたが、ローフリのように硬く滑りやすいタイヤは、滑りながら高回転で摩擦し続ける事で、グリップ力のピークが、モーターで言う高回転側にズレる事から、超高回転マッハ・小径ペラという構成が流行していて、それを理由知らずに真似してると、結果的に走らず、無理にパワソを欲するようになるという悪循環になるのです。
パワソは確かに大事ですが、それを活かすも殺すも、車体構成やタイヤに対する理解度を深める事が重要であることを、本稿及び他の関連記事で知って頂きたくて筆を取ってきました。
これで私の長かった研究も一つの区切りを無事迎える事となり、関係者に感謝いたします。
これからは、それぞれに対する造詣を深めながら、新たな取り組みに邁進しようと思います。
皆さんが更にワンランク上の走りを楽しめる事を祈って😌
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