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アスリートと生理100人プロジェクトVOL.7:長い競技生活の中で確立していった、ピルによるコンディショニング

「ジェンダーのアタリマエを超えていく」をビジョンに掲げる株式会社Reboltが企画する「アスリートと生理100人プロジェクト」。日々挑戦し続けるアスリートは、生理とどのように向き合ってきたのか。そのリアルな声を、生理で悩む人たちへの解決策・周囲がサポートするきっかけへと繋げることを目的としています。

第7回目となるアスリートと生理100人プロジェクト8人目のゲストは、野球選手の山崎まり選手。大学卒業後、女子プロ野球界に7年間所属。男子チームやプロチームでプレーされるなど、さまざまな経験を積まれてきた山崎選手から、野球選手視点でのお話をお聞きしました。

北海道札幌市出身。1989年11月17日生まれ。
小学校2年生より野球を始め、中学時代は中学硬式真駒内シニア、札幌市立藻岩高校・ホーネッツレディース所属後、筑波大学体育専門学群に進学し硬式野球部に所属。大学3年次には第4回IBAF女子ワールドカップ日本代表に選ばれている。2013年から2019年の6年間、プロ選手としてプレーし、現在は埼玉西武ライオンズレディースに所属している。

男子チームの中でプレーするということ

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ー競技歴が20年を超えているとお聞きしました。豊富な競技経験の中で生理に悩んだ経験はありましたか

女子チームの中であれば「今、生理中なんだ」とコミュニケーションを取ったり、ナプキンを借りたりできると思うのですが、私は大学まで男子チームの中でプレイしていたので自分一人で解決することが多かったです。悩むというほどではありませんが、気を付けていた部分は多いかもしれないですね。

ー白いユニフォームの競技だと生理のときに見えてしまいそうで嫌だという話はあると思うのですが、野球でもありますか

経血量が少ない方だったので、タンポンと普通の下着を二重にするなどの対応で見えてしまうことはあまりなかったですね。

あとは替えのユニフォームパンツは2枚ほど多めに持っているようにしていました。野球では汗をかいたらアンダーシャツを着替える習慣があるので、その合間に着替えたりしていましたね。

ー男子チームでプレーする中で、生理に関するハプニングなどはありましたか

先ほども言いましたが、私は経血量が少ない方だったので、モレてしまうなどのハプニングはありませんでした。もし、モレてしまったら、お互いに気まずくなってしまっていたのではないかと思います。


年齢による生理や身体の変化

ー現在30歳を超えてプレーされていますが、年代ごとに生理による悩みや身体の状態の変化などは感じられますか

年齢によって変化はあると思っています。若いときは経血量が少なくてあまり気にならなかったのですが、生理周期が安定するようになってきてからは目に見える変化もありました。例えば、頭痛があると「そろそろ来るかな...」と思うようになったり。

ー身体の変化が「生理によるものだな」と、経験を積むごとに分かるようになってきたということでもあるのですね

もちろん個人差はあると思いますが、食欲が少し増したり体が重く感じたり、「そろそろ生理がくるかも」などに関する身体の変化には敏感になりますね。

ーこれまで生理痛など生理によって、大きく悩まされたことはありますか

野球選手だけでなくどの競技にも言えると思うのですが、生理痛には個人差があるので「今日は本当にランメニューがきつい」「今日はトレーニングを落とそうかな」とメニューを調整しているチームメイトや、気分が乗らない様子が目に見て分かる選手もいました。

私は生理によってコンディションが変わらないほうではありましたが、もっとメンタル面が安定したら成績も安定しそうな選手もいると感じているので、生理による不調が大きい選手の悩みは改善できたら良いなと思っています。

ピルを選択するハードルが  低くなれば良い

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ー生理によって体調が悪くなる選手に対して、これまでチームでの対応や選手自身の対応はどのようなものがありましたか

チームで何かを推奨する動きはありませんでした。なので、私は個人的にピルでのコンディショニングを行っていました。

あるお医者さんと出会い、実際にピルを使っている選手の話などを聞いて初めて「こういうのがあるんだ!」と知ったのがピルを始めたきっかけです。

実際にピルを使ってみたらすごく良いなと感じて。人に勧めても大丈夫だと思ったのでチームメイトの中で生理に悩んでいる選手に対して「こういうコンディショニングの方法もあるよ」とアドバイスすることもあります。実際にピルを使ってみた選手から「すごく良い感じです!」と言ってもらえることもあり、嬉しいですね。

ーそれは嬉しいですね

ただ、私自身、大人になってからピルを始めたので…。「ピルでのコンディショニング」については学生の間に学んで、選択肢のひとつとして知っておけたら良かったなと思います。そうすることで、女子スポーツ選手が生理による不調に対する対処法として、ピルを選択するハードルが低くなれば良いなと。

ーピルを知るきっかけとしてお医者さんとの出会いがありましたが、どのような機会だったのですか

なでしこジャパンの合宿などを見ていらっしゃる先生と、筑波大学時代の野球部のドクターをやっていた馬見塚尚孝先生がお知り合いで、その繋がりからご紹介いただきました。現在、馬見塚先生は野球専門の病院クリニックを開いています。

ー野球専門の病院クリニックがあるのですね!

はい、女性医学を専門としている医師のサポートも受けながら、こちらの病院でピルを処方して貰えます。

産婦人科というと抵抗がある方もいると思うのですが、こちらの病院では女性医学を専門としている先生が外勤で月に1度程度の頻度で来られて、相談にも乗っていただけます。もちろん整形外科として検査などもできますが、ピルを処方してもらえるのはアスリートとしては行きやすくて嬉しいですよね。私も処方してもらっています。

ーちなみにどちらの病院ですか

武蔵小杉にある「ベースボール&スポーツクリニック」です。女子サッカー選手もたまにコンディショニングをしに来ていますね。

野球に特化はしているのですが、テニスやゴルフ、その他の競技でも生理で悩む方いるとは思うので、そういう方も訪れます。

ー「産婦人科に行きたくない」と感じる選手にとっても嬉しいですね。女子野球界ではピルは結構受け入れられてる、または使い出してる選手も山崎選手の周りでは多いなどの感覚はありますか

まだ全然少ないかもしれないですが、自分の周りでも一部、使っている選手はいますね。

ただ、最初は副作用として多少の頭痛があったり薬に慣れるまでの期間が長かったりするケースがあるので、その時点で「合わないな」と感じて辞める選手もいます。なのでコンディショニングのひとつの選択肢として知っておいて、やるかやらないかは自分の判断になるとは思います。

野球のユニフォームとナプキンの相性

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ー現在はピルを使用していて、以前はナプキンとタンポンを併用されていると伺いました。野球のウェアは着脱がしづらくて、暑いイメージがあるのですが、ナプキンを不快に感じることはありませんか

とても不快ですね。できることならタンポンだけで済ませたい気持ちもあるのですが...。ランメニューやボールを捕るときは足を開くし、打つときは締めるし、夏の暑い日はどうしても蒸れてしまうので全く気にせずプレイできることは少ないかもしれないです。

ーなるほど

あとは、野球の場合、競技する際はスライディングパンツを履くんです。

ースライディングパンツとはどのようなものでしょうか

「スラパン」と呼んでいて、スライディングしたときに衝撃から守るためにパッドが入っているものや、普通のスパッツタイプのものがあります。

男子スポーツ選手はおそらく直に履いてるのですが、私はパンツを履いて、その上にスラパンを履いて、普通のユニフォームの上のズボンを履くので、それらにナプキンなどが加わるとかなりごわつきます。

ーそれはごわつきそうですね…それでも、ナプキンを使う選手が多いのでしょうか

そう思いますね。個人によりますが、やはりタンポンが苦手な選手もいますので。

ー山崎選手がタンポンという選択肢を取り入れたきっかけはありますか

やはりモレが怖く、ナプキン1枚だけでは不安なときがあるので、タンポンの併用を選択しました。最初は量が少なかった方だったのですが、大学ぐらいから「失敗できないな」と思って。


プロリーグとアマチュアでのサポート体制

ー山崎選手はプロリーグで7年間プレーされていましたが、サポート体制についてはどうでしたか

生理に関するサポートは、ほぼありませんでした。栄養指導や体調面でのメディカルチェックはあるのですが、生理は「個人のコンディショニング」と位置づけられていて、そこまで踏み込んだサポートは無かったですね。

ー日々の練習を通してサポートが無かったのだと思うのですが、リーグ単位で講義を行う場などはありましたか

生理に関してはありませんでした。チームによっては女性トレーナーさんが自発的に講義をしたいと申し出て、トレーニングなどの話をする中で生理に少し触れることはあるみたいです。気を付けることや、悩んでることがあれば相談して欲しいなど。

ただ、全てのチームに女性のトレーナーさんがついているとも限らないのでチームによって差が生まれるのではないかと思います。

ー野球のプロリーグは運営母体が一緒だと思うのですが、トレーナーさんはずっと同じチームに所属されてるのですか

トレーナーさんは基本的に業務委託の方が多く、各チームでその地域ごとに繋がりがある方や監督さんが選んだ方と契約する形です。最後に会社と面談して最終OKをもらう形がほどんどなので、会社が全て選んで各チームに振り分けることはあまりないですね。

ーなるほど、そうなっているのですね

少し特殊ですよね。でもスポーツとして各チームの色を出したり競争・運営のときに1球団に1社の方が良い部分も多くありました。

スポーツを盛り上げるには横の球団同士の協力は絶対必要なので、そこは難しいところだとは思います。その点では、チーム単体ではなく女子野球自体を応援してくれてるファンの方が多かったので助かっていました。

ープロリーグで7年間プレーされたあとに現在のチームに所属されていると思うのですが、現在のチームはアマチュアなのでしょうか

そうですね、アマチュアです。なので社会人や学生もいます。それぞれ環境がバラバラなので土日に全体練習をやる形で集まっていますね。

ー生理に関するサポート体制はプロリーグでもあまりなかったというお話でしたが、現在のチームはいかがですか

チームで理学療法士をされている方が1人いて「女性医学系を専門に勉強しているのでわからないことがあったら聞いてください」とおっしゃってくれています。なので安心感はありますね。

ー実際に生理痛がひどい選手がその方に相談して、練習メニューなどを変えるアドバイスなどはもらえるのでしょうか

正直、実際に相談してるところをあまり見たことはないです。やはり言いづらいのかなと...。男性のトレーナーの方なので、知識を持っていても言いづらさはあるのだと思います。

なので、あらかじめ「こういうことができます」「こういうことに悩んでいるのであれば相談してください」などとオープンにしてくれたら話しやすいかもしれないですね。


「違い」や「壁」を女子野球の魅力に変えていく

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ー最後の質問です。Reboltは「ジェンダーの当たり前を超えていく」をビジョンに掲げています。これは女子サッカー界や女性スポーツ界にいる中で、「女の子だから」「女性だから」という「ジェンダーのアタリマエ」で選択肢が制限されることが多いと感じてきた経験から生まれたビジョンです。

山崎選手が野球界、女性スポーツ界で感じた「ジェンダーのアタリマエ」は何かありますか

野球でいうと男子プロ野球は150年ぐらい歴史がある中で、女子野球は、プロは10年ほど。歴史だけ見ても15分の1ほどで競技人口も少なく、比べる土俵でもないと思うのですが、男女で比べられがちだったり、比べて見てしまう自分がいたりもします。

女性だからできなかったことがありますが、女性だからできたことも競技の中でたくさんあるので、私自身はジェンダーにこだわらないことが当たり前なのかなとも思っています。

女子野球の普及は力を入れていきたくて、その活動を進めていく中でジェンダーの壁は感じると思います。でもそれもひとつの魅力や特徴として浸透させていけたらなと。


ージェンダー壁や違いをひとつの魅力として捉えているのですね

女子野球では、ライトゴロ(ライトにヒットを打ちファーストに投げられてアウトになるプレー)がよく起こります。これは、女性はライトのオーバーという強い打球をあまり打てないのと走力の差から生まれるもので、男子野球では滅多に起こらないプレーです。ライトゴロは女子野球の特徴だとも言われるのですが、それもすごく面白いと思っていて。

だからこそライトゴロを取れるのも技術として、魅力のひとつとしても見ることができます。このような特徴や面白さを、見せ方から工夫していくことでさまざまな人に応援される競技にしたいと思っています。

ー女子野球ならではのプレーを魅力として見せていけると考えているのですね

とても難しいですが、男子野球を競技として超えるのは無理だなと感じているので、その中でも応援してくださるファンの方や見ようとしてくれてる方にどう楽しんでもらうかが必要だと思っています。


----------編集後記----------

野球ならではの生理のムレや不快感はユニフォームやプレーの動きによるものもあり仕方ありませんが、自分に合ったコンディショニングを見つけることが少しでも快適に過ごすために欠かせないことだと感じました。

ピルの知識が無いことによる間違った先入観から、そもそもコンディショニングの選択肢に入っていない選手も少なくないのではないでしょうか。

今回の記事を通して生理に悩む方が自分のコンディショニング方法と向き合うきっかけになると共に、女子野球の魅力がより広まることを願います。

(編集:仮谷真歩)



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