![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51170611/rectangle_large_type_2_cda669d0bb6f8da56de563f5a96fd18d.png?width=1200)
アスリートと生理100人プロジェクト VOL.5:ラグビー選手が考える「身体を大切にするということ」
「ジェンダーのアタリマエを超えていく」をビジョンに掲げる株式会社Reboltが企画する「アスリートと生理100人プロジェクト」。日々挑戦し続けるアスリートは、生理とどのように向き合ってきたのか。そのリアルな声を、生理で悩む人たちへの解決策・周囲がサポートするきっかけへと繋げることを目的としています。
第5回のゲストは、ラグビー選手の岸岡智樹選手と青木蘭選手です。コンタクトスポーツの中でもひときわコンタクトが激しいラグビーをプレーされているお二方。今回は、生理の話を軸に「自分の身体を大切にするということ」についてお話ししていただきます。
青木蘭。女子ラグビー選手。1996年生まれ。神奈川県出身。
石見智翠館高等学校から慶應義塾大学へ進学。現在は、横河武蔵野アルテミ•スターズ所属。ラグビー歴は20年を超える。
岸岡智樹。男子ラグビー選手。1997年生まれ。大阪府出身。
東海大仰星高校から早稲田大学へ進学。現在は、クボタスピアーズに所属。高校時代には日本代表候補に選出。
生理のイメージは「とても嫌い」
ー今回は生理の話も絡めつつ、自分の身体を大切にすることについてお二人の意見をお聞きしたいと思います。まずは生理に対して、青木選手はどのようなイメージがありますか
青木:とても嫌いです。生理の時期は本当に憂鬱になりますし、痛いし、マイナスな面がほとんどです。
ー岸岡選手は、生理に対してどのようなイメージがありますか
岸岡:大変そうなイメージです。あとは、辛い、しんどい、などの本当に偏見的で誰もが思い浮かべることしかないです。
生理に対して自分が何を知っているのかも知らない。だからこそ”生理のときの女性は大変”と、世の中でうたわれているままの印象なのかなと思います。
ーなるほど。青木選手は、実際にプレーをする上で、生理によるデメリットを感じたことはありますか
青木:生理痛がない時代は、全く何も影響なくのびのびとプレーできていました。22歳をすぎた頃から生理痛が重くなり、生理のときほど怪我をしやすい印象を持っています。
生理について勉強してからは、生理の時期は怪我が多いと把握できるようになりました。怪我をしやすい理由は、血液の流れが活性化することにより関節が緩むからだそうです。生理のメリットとしては怪我をするタイミングがわかることで、デメリットは辛いことですね。
ー生理前や生理中、練習や試合前に特に気をつけていることはありますか
青木:私は生理周期が乱れることが多く、2か月から3ヶ月生理がこないことも当たり前にあります。試合中に生理がくることもありますが、それによって身体の調子が変わることはないです。ただ、生理中は身体の緩みがひどいので、練習前や試合前には全ての関節に刺激を入れてから行くようにしています。
ー生理前と生理中はアップのワークが増えるということでしょうか
青木:関節を入れる動作がひとつ増えます。頭の上から爪先まで、例えば、首との関節をアイソレーションのように動かしていき、チューブを使って関節の中にある筋肉に刺激を入れる動きをします。
ー生理について勉強したとのことですが、どこで勉強しましたか
青木:高校生の頃から、ラグビー協会側が運営しているセミナーや女性の身体についてのセミナーへに選手も出席する機会が沢山ありました。そういう機会で産婦人科の方から身体の仕組みや構造のことを聞いて学びました。セミナーの機会は多かったですね。
先ほどのアップについても高校生のときに受けたセミナーで教えてもらったことなので、参加していた方はみんな同じようなことをやっていると思います。
生理の話から怪我の話まで、女子ラグビー界のセミナー事情
ーラグビー界ではセミナーはよく開催されるのでしょうか
青木:女子ラグビー界の場合は、泊まりのある大きな大会では大会の前にレセプションがあり、その場でのセミナーが多いです。「怪我予防」「生理」「女性の身体」「ラグビー」など、知識的なレベルのことを選手に教える機会はよくありましたね。
ー生理に関するセミナーをたくさん受けてきたとお話がありましたが、そのほかにどのようなテーマの身体に関する講義やセミナーがありましたか
青木:前十字靭帯の予防のセミナーがありました。ラグビーだけではなく女子スポーツ界の選手でダントツに多いのが前十字靭帯の断裂だそうです。これは世界の研究を見ても、どのスポーツにおいても一番多いみたいです。
女性の骨盤から脚にかけての構造上、どうしても膝の角度が内側にいって前十字靭帯が切れやすい角度になってしまうそうです。そのセミナーは毎年受けているほど予防していたのですが私は切ってしまいました...。
ー高校・大学時代に講義やセミナーを受けてどのようなことを感じましたか
青木:少し面倒でしたね...。全国大会に備えて前泊している状況で集められて、確か4時間ほどあったと思います。でも後々になって思い出すこともありますし、セミナーの影響を受けて考えることや行動が変わったなど良かったこともあります。
ただ、タイミングは試合終わってからが良かったですね。試合の前日に敵がたくさんいる中で聞くのは少し嫌でした(笑)
ー確かに、難しいですね。
青木:競技人口の数が男子ラグビーの方が圧倒的に多くて、私たち女子ラグビーは多分4,000人ほど。男子ラグビーの10分の1ほどだと思います。だからこそひとつに集まってセミナーを開催しやすいのかなと思いました。
ラグビーは7人制と15人制の種目があるのですが、女子ラグビーの場合は7人制の方が多く規模が小さいので、より実施しやすかったのかもしれません。
ー男子スポーツ界ではセミナーは開催されますか
岸岡:男子ラグビー界ではゼロです。なので、女子ラグビー界のセミナーの話を聞いて驚きました。同じラグビーといえど、異なる点があるのは発見ですね。
ーもし岸岡選手が高校生・大学生のとき、大事な試合前にセミナーや講義あったらどのような気持ちでしたか
岸岡:内容にもよりますが、おそらく興味ないですね。例えば自分が怪我をしたことあるとか、当事者でしたら飛んでいくと思いますけど...。以前、食事、睡眠、休養の3つが大切であり、ただ食べても寝なければ意味がないなどのセミナーはありましたね。
男子ラグビー界・女子ラグビー界における"記録"をつける際の違い
ー青木選手は生理の話を他の人にすることはありますか
青木:チームメイトには「今日生理なんだよね」と練習前に話します。他にも、自分のチームではアトレーター(体調管理アプリ)を使用していて、生理についての記入欄があるのでコーチや監督スタッフには、常に自分の身体の状況が分かるようになっています。
アトレーターはルナルナ(生理管理アプリ)と制作会社が同じなので連携できるようになっています。生理が来る予定日が分かることで事前の準備もでき、周期が遅れているかも把握できるので便利ですね。
ー岸岡選手も体調管理や食事量など記録していましたか
岸岡:体重計に乗る頻度は年々増えていますね。大学生のときは練習の前後と試合の日。意識しているときは起床時と就寝前にも計って1日5回くらい乗ることもありました。アスリートの体重は大事な指標のひとつだと思います。特に僕たちラガーマンは、身体を大きくしていかないといけないのでご飯食べるとき白米などの量は必ず測っています。
ーなるほど、競技特性上、記録は大切なんですね。青木選手が使用されているアトレーターでは物理的な記録だけでなく感覚的な記録もしますか
青木:ありますね。チームでやっていることは「体温」「頭痛の有無」など健康診断の問診票のような項目は毎朝チェックします。
ーアトレーターで生理のチェックをして、スタッフの方からフィードバックをもらえたりトレーニングに反映されたりすることはありますか
青木:練習前にコミュニケーションとして「今日生理だけど体調大丈夫?」などの心配はあります。その他は特にないですね。本当に体調が悪いときは、練習に来ないでくださいとメールがきます。
ー生理のコミュニケーションはどのスタッフとしているのですか
青木:女性のトレーナーの方です。男性の指導者から生理の話題を振られることはないですね。女性のことは女性が話すとチームで決まっているのだと思います。「その人たちにしか分からないから」と監督たちは言っています。
男子ラグビー選手に生理はこない。だからこそ難しい教育の切り口
ー男子ラグビー界の選手は、定期的に自分の身体が変わるタイミングなどありますか
岸岡:ないですね。自分が望むコンディションに合わせたリカバリーや準備をすれば、自分次第で常に同じコンディションでいられると思います。特に体重と水分量はパフォーマンスに影響するので、体重管理は意識して取り組んでいますね。
ー女子スポーツ界では生理を切り口にして身体を守る・大切にすることについて教育する場を作れますが、男性はどのような切り口での教育が想定できるでしょうか
岸岡:切り口...「怪我」ですかね。怪我をしないことが身体を大切にするだけでなく、パフォーマンスを高く維持することに繋がってくると思うので。
ーなるほど。
岸岡:女子ラグビー選手の方が生理を通して身体に向き合っているからこそ、ウォーミングアップも僕の2倍から3倍ほど時間をかけていると思います。だからこそ、「もっとウォーミングアップ必要だよね」と男子ラグビー選手が学べることがあると考えています。コンディションを整えることに繋がったり、怪我をしない身体を作ったりする方向に持って行って教育できるのではないでしょうか。
ーとなると、自分ごととして捉えやすい「怪我」は入っていきやすい切り口になりそうですね。
あと個人的にはとても風邪を引きやすくて...。女子ラグビー選手の生理ほど悩んでいる訳ではありませんが、風邪に関しては、男子ラグビー選手の方が身体が弱いのではないかと偏見を持っています。
ーそれは新しい切り口ですね。筋トレ等で身体を常に酷使しているラグビー選手だからこそ、風邪に関して対処できることはありそうです。
ラグビーは"男のスポーツ"ではない
ーでは最後の質問にうつります。Reboltは「ジェンダーのアタリマエを超えていく」をビジョンに掲げているのですが、これは女子サッカー界・女性スポーツ界にいる中で「女の子だから」「女性だから」と選択肢が制限されたり、表現の自由を奪われたりすることが多いと感じてきた経験から生まれています。それを踏まえた上で、岸岡選手と青木選手の中でラグビー界・スポーツ界それぞれで感じた「ジェンダーのアタリマエ」はありますか
岸岡:ラグビーはやはり男のスポーツと思われることが多いと思います。男側がラグビーのジェンダーというテーマの中で、気にすることがないのは当たり前ですよね。逆に何も気にしていない、何も思っていないのが当たり前になっているのは問題かもしれないと今回の対談を通して気付けました。
女性について分かった方が良いだけでなく女子スポーツ界のアスリートから学べることは絶対あるなと思ったので、そういう機会を設けたり、きっかけ作りができたりしたら良いなと思います。
ー青木選手もジェンターのアタリマエで思いつくものはありますか
青木:女子ラグビーでは女性らしさを押し付けられているとはあまり感じませんが、プレースタイルや試合の展開を男性と比較されることが多いです。
女子ラグビーの指導者はラグビーをやっていた男性が来られることがほとんどなのですが、女性に対して男性と同じように教えることも当たり前にあります。でも女性と男性では身体の構造も違いますし、思考も違うところがあると思うので...。男性の意見を押し付けられることは多いし当たり前にあると感じています。
ーどのように改善して欲しいなどはありますか
青木:押し付けないで欲しいと言うのは筋が違うとも思います。なので、押し付けられていると感じるのではなくそういう意見もあるのだな、と咀嚼して自分なりの解釈を持つなどして展開していました。ずっと言いなりになってやっていたときは続かなかったですし、その指導者とも上手くいかないこともありました。なので自分で考えることが必要だと思います。
ー自分はそうじゃないと思うことを伝えられているときや、そういう扱いをしないで欲しいときはどのような感情になるのですか?
青木:私たちの中での会話は「なんであのような言い方をするんだろう」などの意見が多くて。なので私たちが引っかかっていたポイントとしては、教えられていることではなく、教えるときの言い方だったと最近は理解しています。
おそらく男子スポーツ界の選手の場合は、言い方ではなく言われたことにフォーカスすると思うのです。でも私たちは言い方を気にしてしまうと分析しました(笑)
ーなるほど。
青木:岸岡選手は同年代の中でも女子スポーツ界の選手と関わったり目にしたりする機会がとても多いと感じていて、それはとてもいいことだと思っています。彼が引退したあとに子どもや女子スポーツ界の選手を指導する機会があるときに、活かせると思うので。
今教えてくださっている指導者は35歳以上の方がほとんどで、女子ラグビーと関わる機会が全くなかった人達なので。だからきっと、想像の世界で指導されていることもある。これからはより一層お互いを伝え合う必要があると思います。
----------終わりに----------
女子ラグビー選手は生理を通して「身体を大切にすること」について考えるきっかけが多いということ、一方で男子ラグビー選手は女子ラグビー選手ほど「身体を大切にする」視点で物事を考える機会が少ないように感じました。
対談という形だからこそ得られる気づきがあり、男女それぞれのスポーツ界から学べることがまだまだありそうです。
(編集:仮谷真歩)