売れない漫画家がバイトをするまで(1)
連載終了
2020年の十月に連載漫画の最終回を描き終えて以来、仕事が一切なくなった。私が描いた初の商業オリジナルコミックはお見合いで出会った現在の夫との結婚までの心の葛藤をかなり赤裸々に描いたエッセイだったがあまり売れなかった。次の仕事はお願いできないと編集さんに伝えられ私は無職になった。
仕事がないので十年以上前に描いた十八禁原稿の電子書籍化に向け動くことにした。私が30代の時にオジサン向け実話誌で描いていた漫画だ。
人妻〇〇と銘打たれていたその手の雑誌はAⅤのグラビアやエロハウツー、AV監督やAV女優のインタビュー、風俗レビューの間に箸休め的に漫画のページが入っていた。風俗店の待合室に置いてあるような、肉体労働者が気負わず読めるような雑誌だ。
わかりやすいストーリーにご都合主義的なエロが盛り込まれていれば大丈夫というゆるいエロ漫画で私が描いていたのは人妻が出会い系で出会った男性や不倫中の彼氏と刺激的なセックスを楽しんだという体験談のコミカライズだった。
単行本にするのはあきらめていた。ほとんど忘れかけていたと言って良い。でもこんな原稿でも私の財産に変わりはない。
これを現金化しなくては!
逆に今このタイミングじゃないと一生しない作業だ。電子書籍書店との間を取り持つ出版社と契約しおおよその目安を決め自宅で作業した。
過去のアナログ原稿をスキャンし修正してテキストを打ち直す。十年どころか十五年以上前の原稿もある。トーンは変色し切り張りしたコマは剝がれてしまっている。これをもう一度貼りなおすところからはじめた。気になるところはコミスタで描きなおす。表紙のカラーイラストを描きタイトルを考えデザインも自分で作成した。二冊のうちの一冊は妹にタイトルロゴとペンネームのデザインを六千円の格安でお願いしたが二冊作り終えるまでに半年かかった。特に表紙のイラストは女性キャラクターの肌の質感や乳首の色合い、表情、ほてった肌に光る汗のしずく、下着のレース、陰部を隠すためのザーメン、などなど・・・
もう!とにかく!時間かかったしこだわった、がんばった・・・‼
そして八月末に待ちに待った配信!この日の為にエロ漫画家のペンネームのツイッターも作り宣伝した。エロ漫画、人妻、劇画、体験談・・・ 等のハッシュタグを付け最初の四ページをツイートした。
最初は一日に七冊売れた日もあった。エロだからもっと売れるかと思っていたんだけど・・・。いや、こんなもんか。まだまだ分からない、そのうち爆発するかも?
毎日ドキドキしながら売り上げ速報を見に行った。
だが一日ごとに来る速報の棒グラフは期待していたほど伸びず波打つことのないまっすぐな横棒になった。数か月経ち、もうちょっと値段が安ければ手に取りやすいのだろうか?そう思い値引きもしたが変わらなかった。
十年前にやっておけば良かったと後悔した。
無料で消費できるコンテンツが数多くある中で私が昔描いた人妻エロ漫画はあまりにも影が薄かったのだろう。フォロアーが増えなければ宣伝しても意味がない。
ちょっと興味がある人をフォローしてイイネしたらイイネが返ってくることもあったがそもそもエロ絵を描くのが面倒だった。
エロアカウントをフォローするとタイムラインに大量のエロ絵が流れ込んでくる。そのリアルさ、丁寧さに恐れおののいた。これ何時間で描くんだろう。
エロに限らずだが毎日のように絵や漫画をアップロードする作家たち。勤勉さが私とは桁違いだ。そもそも私は昔から持っているペンネームのアカウントとエッセイ漫画を描くにあたって作ったレバ美のアカウントを持っているがSNSの更新はマメではなかった。
昔からの知り合いでエロ漫画を描き続けている男性にも話を聞いた。私がエロ漫画を描いていた2000年代はまだコンビニにも書店にもオジサン向け雑誌や芸能ゴシップや都市伝説、社会問題を一冊にまとめたような実話誌が山ほどあった時代で彼もオジサン向けエロ漫画誌やエロ漫画誌で人妻系エロ漫画を描いていた。20代の時から劇画の先生のアシスタントを務めており画力は折り紙付きだ。雑誌媒体が斜陽産業となった現在では同人活動で生計を立てている。エロの中でもニッチな需要を満たすスカトロ物にジャンルを絞ってから十年以上描き続けしっかりファンを獲得しているというのだから大したものだ。そんな彼が言う
「2次創作の方が見てもらえるかもね。でもやっぱ二日に一度は絵を上げなきゃ」
そして大事なことだが新作を描き続けること。とにかく続けなければ結果は得られない。
そりゃそうだよな・・・アニメにもなった人気漫画の巨乳キャラの絵を何日もかけて描いたけど背景どうしようと思っているうちにめんどくさくなって投稿もせず終わった。
エロ・・・大変・・・私はくじけた。(つづく)
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