【RS:lyrics】答え合わせ
シンガーソングライターを辞めて久しい私ですが、REASNOTを創刊して以降、ありがたいことに人前で歌わせていただく機会が増えました。
かつてはどうあがいても手の届かなかったステージに立てるのに、約10年前に作った曲とカバー曲しか歌えないのでは、さすがに申し訳ありません。
せっかくなので、毎年1曲くらいは、新曲を用意しようと決めました。
本日は、2023年に制作・発表した『答え合わせ』をご紹介します。
※Fan magazine限定記事のサンプルを兼ねて、全体公開部分を増やしています。ぜひお楽しみください。
私たちの決死行
昔、友人が毒親から逃げるのを手伝ったことがあります。ここではDちゃんと呼びましょう。事実を正確に書くと問題が起きるので、創作を交えて書きますね。
Dちゃんは学生時代の友人です。出会ったころから彼女は家庭に問題を抱えており、私は話を聞くたびに「何それ?!」とドン引きしていました。
Dちゃんの母親は、彼女を殴ったり、蹴ったりするわけではありません。でも言葉の暴力や支配行為が酷かった。おまけに情緒不安定で、言うことがしょっちゅう変わるので、病気なのでは?とも思っていました。
Dちゃんの父親は、そんな母親の言動に何も対処せず、病院に連れて行くこともないので、やっぱりろくでもないと思っていました。
*
高校2年生のとき、学校で一回目の進路希望調査がありました。Dちゃんは「東京の大学へ行きたい」と書きました。
それを見た彼女の母親は、「女の子が大学へ行くなんてとんでもない。高校を卒業したらお見合いして、結婚して家業を継いで、子どもを産め」と答えました。二人は口論をしました。
一ヶ月経って、母親は「まあ時代は進んでいるものね。実家から通える範囲で、地元の大学なら行ってもいいわ。卒業したら以下略」と言い出しました。Dちゃんは溜息を吐きながら、前よりはマシになったし、大学卒業後のことはその時考えようと、志望校を地元の大学に変えて勉強を始めました。
さらに一ヶ月経って、母親は「まあ若いうちに広い世界を見ておくのもいいかもね。でも無名の大学へ行かせるのはお金の無駄だし、共学は怖いわ。お茶の水女子大学、津田塾大学、日本女子大学、東京家政大学のどれかなら行ってもいいわ。卒業したら以下略」。Dちゃんは喜び、志望校を東京の有名女子大に変えて勉強を始めました。
また一ヶ月が経ったころ、彼女の母親は「やっぱり、女の子が大学へ行くなんてとんでもないわ!高校を卒業したらお見合いして以下略」。二人は以前より激しい口論をしました。
このループを、私の知る限り3回やりました。。。
高3の1月、たまたま母親が「有名女子大ならいいわよ」モードだったため、Dちゃんはそれらの大学を受験することができました。彼女は優秀だったので、無事に合格しました。流石に合格通知が来ると、Dちゃんの母親も喜び、上京の準備に協力してくれました。
*
それから月日が流れました。大学3年生になったDちゃんは、「大学で学んだことを生かして〇〇業界に就職したい」と言い出しました。
それを聞いた彼女の母親は、「女の子が社会で働くなんてとんでもない。大学受験の時に約束したとおり、卒業したらお見合いして、結婚して家業を継いで、子どもを産め」と答えました。二人は口論をしました。
一ヶ月経って、母親は「もうちょっと独身を謳歌したいっていうなら、大学院へ行きなさい。社会に出て擦れちゃったり、彼氏ができたりしたら、嫁の貰い手がなくなるわ。大学院を修了したらお見合い以下略」。Dちゃんは溜息を吐きながら、前よりはマシになったし、先のことは2年後に考えようと、大学院へ進むための勉強を始めました。
さらに一ヶ月経って、母親は「まあ時代は進んでいるし、せっかく大学を卒業するんだし、就職してもいいかもね。3年くらいしたら退職してお見合い以下略」と言い出しました。Dちゃんは喜び、就職活動を始めました。
また一ヶ月が経ったころ、彼女の母親は「やっぱり、女の子が社会で働くなんてとんでもないわ!卒業したらお見合い以下略」。二人は以前より激しい口論をしました。
このループを、私の知る限り3回やりました。。。
私は遂にキレました。
*
「20歳過ぎた娘をここまで振り回す親はおかしいし、それにつきあうDちゃんもおかしい。もう成人して、これから社会に出ようってんだから、自分の人生は自分で決めるべきだ」と、私はDちゃんに熱く語りました。
「大学受験の時みたいに、タイミングに任せて今を乗り切ったとしても、就職して3年後や、院に進学して2年後に、また繰り返すの?あなたの人生はそれでいいの?」
「江戸時代ならいざしらず、お見合い結婚で家業を継ぐとか継がないとか、Dちゃんの意志を無視して親が勝手に決めるのはおかしいよ。長く勤めてくれている人に地位を譲るとか、自分の代で閉業するとか、やり方は色々あるでしょ?子どもは親の持ち物じゃない!」
当時、Dちゃんには彼氏がいました(※もちろん親には内緒です)。彼氏さんは、そこそこ年上の社会人で、たまに3人で遊んでいました。
私がキレたのを知ると、彼氏さんも「その通りだ」と援護射撃してくれました。Dちゃんは泣いてしまいました。
「私だって親の言うとおりに生きるのは嫌だけど、親はどこまで行っても親だし、もうどうしたらいいのか分からない」
私たちは散々語り合いましたが、ずっとDちゃんを支配し続けてきた母親の呪縛は強く、私と彼氏さんの言葉はなかなか届きませんでした。
*
いよいよ行き詰まった時、私は最後通牒を突きつけました。
「Dちゃんが『逃げたい』と言うなら、協力するよ。彼氏さんと一緒に、やれるだけのことをするよ。でもあなたが母親の言いなりを続けるなら、もう付き合ってられないから、友達をやめる。彼氏さんも、愛想が尽きるってさ。私たちを選ぶか、親御さんを選ぶか、どっちがいい?」
今思えば、とんでもない二択ですが、私も限界でした。
「一つだけ言っておくと、親御さんは、永遠に親御さんだよ。ここで逃げて縁を切っても、血の繋がりは消せない。一生ずっとどこかで繋がってしまう。逆に言えば、5年後、10年後、何かのきっかけで和解できるかもしれないね。でも私と彼氏さんは、どこまでいっても他人だよ。ここで縁が切れたら、それで終わり。もう二度と一生会わないかもね」
あれこれあって、Dちゃんは逃走を選びました。私は手段の確保、彼氏さんは新しく住む場所の用意などをがんばりました。全て上手くいきました。
とはいえ結局、数年経って、Dちゃんは親御さんに見つかってしまいました。まあ、本当に失踪してみせたことで、親御さんも多少は反省したみたいです。ほどほどに和解できた……と言っていいのかな。
夢見たいつかの空まで飛べなくても
さてさて。時を遡って、私がシンガーソングライターを志してまもないころに話を戻します。
人生で初めてオリジナル曲を作ることになった私は、「どんな歌詞にしようか?」と考え、Dちゃんへの応援ソングにすることにしました。
欲しい物は欲しがればいい、誰かのそばにいたいならいればいい、やりたくないことはしなくていい、大切にしていることはそのままでいい、翼をもつ君は夢見た空まで飛べるはず、君は世界に一つのダイヤモンド。
私は彼女に、幸せになってほしかったのです。
それは同時に、私も幸せになりたいという祈りでした。
*
あれから、Dちゃんにはいろんなことがありました。決死の失踪事件ののち逃亡生活を送り、親に見つかって和解をがんばり、ほどほどに自由な暮らしを手に入れました。私にもいろんなことがありました。
ある日、ふと「『ダイヤモンドクロウ』を作ってから10年くらい経ったな」と気づき、「私たちの祈りは届いたのか?」と振り返ってみました。
全然ダメでした。笑
私もDちゃんも、当時の夢は叶えられていません。欲しかったものは手に入っていないし、やりたくないこともやっている。
ただ、不幸ではないんですよ。
少なくとも、「あのまま流されなくてよかった」とは思っている。足掻いただけの成果は感じられている。あのころ夢見たままでなくても、得られた奇跡はあるし、予想外のところから転がり込んできた幸運もある。
まあ、今も、悪くはない。
「さて、これから10年後はどうなっているかな?」と考える余裕があるのは、嬉しいことだと思えました。
そんな歌です。笑
それでは聴いてください。
**
『答え合わせ』
作曲:鈴木飛翔 作詞:紅葉 編曲:鈴木飛翔&紅葉
1.
「生きてさえいれば いつかなんとかなる」と言った
ともに行くはずの 君は
遥か彼方へと 儚く残る 夢の欠片
あの日 見た星は 変わらず
「貴女なら叶えられるよ」
信頼が呪いに変わる 24時
託されて 引き受けた
光だけ 思い出そう
「いつか」が 明日か、10年後か、その先か
分からなくてもいい、と決めた今日こそ
誰も知らない 君さえ忘れた、あの日
命を懸けた 私たちの答え合わせ
2.
水鏡の空 淡く 遠い 飛行機雲
ひまわりの揺れる先で 貴方に逢った
「君とは違う未来を」
諦めが 希望に変わる 24時
破られた約束を 繋いでくれて、ありがとう。
一つ、二つと降り積もるサヨナラは
桜 咲くころ 溶けて消えてしまうよ
だから あのころ 燃やし尽くした心でも
蘇るでしょう
また 新しい夢を見よう
3.
―もしも生まれ変わっても…―
「いつか」が 明日か、10年後か、その先か
分からなくてもいい、なんて 強がりで
誰も知らない 君と過ごした日々を超えて
貴方と続く 私たちの答え合わせ
「正しい答え」なんて、分からなくてもいいの
―…何度でも。―
**
いかがでしたでしょうか?
最後に、ちょっとだけおまけを。
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