お互いを思いあう感情に名前をつけるとしたら、僕らはなんと呼ぶのだろう
恋愛において、気持ちが高まることのひとつは、片思いから両思いに変わる時だと思う。
お互いに“好き”という気持ちを確かめあい、恋人として付き合うことを約束して、ぎこちなく肌を触れ合わせる。
とてつもなく幸せを感じる瞬間だ。
でも、人の気持ちはそんな風に上手く動くとは限らない。
相手を“好き”だと思い、相手も同じような気持ちを抱いているはずなのに、付き合うのを選択しないことがある。
そこには、やむにやまれぬ事情や理由があるのかもしれない。それによって、“好き”をあきらめたりするのだろう。
でも、そういう事情があっても自分の思いが変わらなかったら。相手の思いも同じだったら。
その2人は一体どういう関係なのか。
そして、このあいまいな気持ちに名前をつけるとしたら、なんて呼べばいいんだろう。
あいまいな感情に揺れる2人
「俺らが“付き合う”ってどういうことなんだろう?」
ファンクラブだけが見られる動画の生放送で、「恋つばチャンネル」のれんくんがポツリと言った言葉が忘れられなかった。
「恋つばチャンネル」は、バイセクシャルのつばさくんとノンケのれんくんの男性2人組が作るYouTubeだ。チャンネル名を「バイとノンケの物語-恋つば-」という。(以下、恋つばと表記)
私が今、一番推しているYouTuberだ。
左がつばさくん、右がれんくん
内容はBL(ボーイズラブ)をテーマにしていて、カップルになりたいつばさくんがノンケのれんくんにハグやキスを仕掛け、毎回嫌がられるのがお約束。
全く無名の25歳と23歳が手探りでスタートさせた恋つば。
今年の1月1日にYouTubeのチャンネルを開設すると、わずか20日あまりで登録者数が1万人を突破(6月末日現在は4.1万人)。
短期間で多くのファンを獲得した理由のひとつに、2人の間にある“あいまいで微妙な感情の揺れと関係性”があると思う。
動画内で、れんくんがつばさくんからのお色気攻撃を時折嫌がらずに受け入れ、「変な気分になった」などと心情を吐露したり。
その上冒頭のような言葉を言ってみたり。
見ているこちらは、一体2人がどういう関係なのか想像を膨らませてしまう。
そもそも2人のなれそめも変わっている。
とあるイベントで出会った2人。その後に行った飲み会で、酔っ払ったつばさくんはれんくんにキスをしたそう。
「ふざけた人だな~」と思ったにも関わらず、動画編集者になりたくて仕事を辞めて上京したれんくんはつばさくんを頼り、一緒に住み、生活の面倒をみてもらっている。
親友でありビジネスパートナーであり、恋人要素もありそうな2人。
私は、そんな彼らのあいまいな関係を見ていると、なぜか自ら経験した過去の恋を思い出してしまう。2人の姿に、色々と悩んでいた昔の自分を重ねてしまうのだ。
それは若い頃、恋愛をする度に抱いていた自分の気持ちが、つばさくんのれんくんを思う気持ちに似ている気がするからかもしれない。
つばさくんは打算のない純粋な愛情をれんくんに抱いている。“叶わない恋”かもしれなくても、ひたすらまっすぐに。
それがよく分かるのが「バレンタインデー」のサプライズ動画だ。
純粋な愛情を確かめあった日
恋つばの2人はYouTuberとして、お互いにかけがえのないビジネスパートナーだ。
ビジネスパートナーとして抱く信頼関係と恋愛感情は、当然別の資質を持つものだ。
でも、この2つがごちゃまぜのカオス状態になるのが、恋つばの動画の魅力だと私は思う。
その真骨頂が、2/15に公開された「義理チョコ企画の後に突然本命チョコ渡してみた」だ。
ノンケのれんくんが、バイセクシャルのつばさくんへのサプライズとして、チョコレートを手作りして渡すという内容。
動画はれんくんの独白から始まる。
「(つばさくんは)すごい働いていて、そのお金を僕に渡したり動画の撮影に使ったり。彼にお返ししたいなと思っているんだけど、そのお金を使ってプレゼントを買っても意味がない。でもなんとか気持ちを伝えたい」
という経緯から「本命チョコ」を作るに思い至る。
この時点で、れんくんの言った「本命」とは、恐らくビジネスパートナーとして大切な「本命」という意味合いではないかと思う。
自分のやりたいことをやるための資金を稼いでくれ、動画を共に作っているつばさくんに、今自分ができる最大限の感謝の気持ちを手作りチョコに託す。
しかも、彼らは“BL系YouTuber”なのだから、パートナー愛を伝える手段として「バレンタインチョコ」を渡すのは、至極当然の流れ。
れんくんがファーストバレンタインをつばさくんに捧げて喜んでもらう。動画の筋書きとしても完璧だ。
でも、そこで終わらないのが恋つばの恋つばたるところ。
れんくんがつばさくんにチョコを渡した後、つばさくんは、れんくんに対してある事をする。
彼らしい、あまりにも素直な愛情の表現だった。
私はそのシーンを見て、思わず泣いてしまった。
それは、頬を伝って流れ落ちるまで気づかないくらい静かな涙。
動画編集者になりたいれんくんの夢を叶えるためにYouTuberになり、彼が編集に専念できるように自分は働き、プライベートでも彼を喜ばせようとするつばさくん。
ビジネスパートナーとしての愛情に加えて、れんくんをどこまでも純粋で一途に思う気持ちがあり、その2つが一体となった大きな愛で包み込もうとしている。
そんな、つばさくんのひたむきな姿に心を打たれたのだ。
この動画内で、れんくんとつばさくんはお互いに「嬉しい」と「ありがとう」を言い合う。何度も何度も。
そこには、ビジネスパートナーという間柄やセクシャリティの違いを飛び越えた、ただお互いの思いが通じあった2人の喜びがあった。
◆
人を好きになって、その人にも自分を好きになってもらいたくて、お化粧やファッションを変えてみたり、相手の好きな音楽を聴いてみたり。そんな努力って凄く素敵なことだと思う。
でも、それだけでは人は振り向いてくれない場合もある。
そういう時、どうするか。
私はおそらく、その人の役に立てるように動く。恋愛は無理でも、仕事や趣味の分野などで、良きパートナーになれるかもしれないから。
結局私は、その人のことが好きなら、“恋人”という関係でなくてもいいのだと思う。どんな形であれ、心と心でつながっていたら満足なのかもしれない。
恋つばもそういう関係なのかな、と思う。
れんくんとつばさくんは恋人関係ではない。
でも、動画を見ていると、2人の心の絆は恋人よりも固く結ばれているのだと感じる。
例えばれんくんは、以前視聴者から「お互いに直してほしいところはありますか?」という質問があったときに、きっぱりと「ないです。直してしまうと、いいところまで失われてしまうから」と答えつばさくんもそれに同意する。2人とも、お互いのためを思って行動し、尊重しあう姿がみてとれる。
そんな2人は、YouTubeで“重大発表”をする。
これからもずっと手を取り合って
一緒に歩んでいく
恋つばの2人は“重大発表”と称して、自らのファンクラブ設立宣言をYouTubeライブで発表する。
それは、バレンタインの動画を配信してから約2週間後であり、チャンネル開設からわずか2カ月後のことだった。
こんなに早い段階でファンクラブを設立したのは、急激に増えた熱烈なファンに向けて、新たなサービスを提供したいという気持ちの表れだと推測する。
現に、宣言の直後に行ったYouTubeライブでれんくんはこう言っている。
「ファンの人が(自分たちを)ここまで伸ばしてくれたっていうのがあった。だからファンクラブを作ったようなもの」
さらにファンクラブで行う新コンテンツの説明の他に、れんくんはこんなことも言う。
「(恋つばで)表現したいものは映像美。編集ソフトをもうちょっと(いいものに)発展させたい。(つばさくんに対して)君をもうちょい、いい感じに映したいんですよ」
動画のアップグレードを図りたいというれんくんの願いは、ストイックに動画編集に取り組み、作品世界を作り上げる彼ならではの発言だ。
ファンクラブの設立理由をもうひとつ推測すると、れんくんとつばさくんが、お互いを唯一無二の存在だと感じ、これからも手を取り合って一緒に歩む。という決意を形にしたのではないかと思う。
その決意のほどを感じられるのが、3/8配信のYouTubeライブ「バイとノンケで健全なアソビ」。
ライブ中に流れてきた視聴者からの「れんくん、つばさくんを下さい」というコメントに対し、れんくんはきっぱりとこう答える。
「多分(つばさくんを)持ちきれない。君のキャパには合わない」
これは、コメントを発した個人に向けたというよりも、その背後にいる大勢のファンに向けた宣言と考えるのが自然だ。
すなわち、他の誰よりも自分がつばさくんの思いを受け止めていく。
他の誰にもつばさくんを渡すことはできないという、彼の気持ちの表れ。
一方、つばさくんのれんくんに対する思いは非常にシンプルで明快だ。
先ほどと同じ3/8の配信中に、やや冗談めかした口調でこう言っている。
「れんくんがずっといてくれないと生きていけない」
3/14に始動したファンクラブ「恋つばランド」では、新たなコンテンツが次々と始まり、入会したファンを喜ばせた。
それが少し落ち着いた4月下旬、2人の「これから」を象徴する動画が2本配信される。
1本は、2人が「年をとってもずっと一緒にいよう」とお互いに確認し合う、「嘘発見器で『ずっと僕と一緒にいてくれますか』って聞いてみた」。
もう1本は、動画の終盤にお祝いのケーキを食べ、手作りした指輪の交換をする「恋つば人気動画ランキング」。
この「お祝い」はチャンネル登録者数3万人達成を記念したもの。
でも配信直後、ファンのTwitterのタイムラインは「まるで結婚式みたい!」と沸きあがった。
もしかしたら「結婚式」は言い過ぎだったかもしれない。
でも、つばさくんのTwitterにあがったこの画像を見たら、ファンでなくても、“永遠の愛を誓いあった”?と思ってしまう。
2人の深い絆が形となった指輪。それは2人にしかわからない思いが込められている。恋つばを結成してから起きた喜びや慈しみ、そして苦しみ。そのすべてが。
恋愛関係でもなく家族でもない、でもビジネスパートナーというには距離が近すぎるれんくんとつばさくん。
「俺らが付き合うってどういうことだろう」
「でも、付き合っても何も変わらない」
と言い合う関係。
そして、これからもずっと人生を共に歩みたいと思っている2人。
彼らは、お互いを思い合う感情にどんな名前をつけるんだろう。
2人だけが持つ特別な感情に。
過去の感情が現在の自分を作り、
未来へのバトンを渡す
過去に自分が経験した恋愛を思い出すのは、“心の整理整頓”に似ている。過去の思い出が眠っているのは、自分の心の奥底にある薄暗い書庫の中。うずたかく積まれた書物を取り出して中味を確認し、ひとつひとつの思い出を探り、整理し、解説を加え、並べ替える。
私は、恋つばの動画を見ることで、過去に自分がした恋や、自分の中に埋もれて忘れていたあの気持ちを再確認し、整理することができた。
なぜ恋つばの動画を見てそれができたんだろう。
それはおそらく、2人がお互いの愛情に真摯に向き合い、真剣に動画に取り組んでいるから。そして、そこから生まれる思いやりや相手を思う純粋な気持ちといった感情が、私の心を揺り動かしたからだと思う。
お陰で、自分が以前から、好きな人との心の絆を大切にして生きてきたことを思い出せた。そして、今の自分を見つめ直すきっかけにもなった。
(それにしても、私が今まで関わってきた、あいまいで特別だった人たちとの関係を名付けるとしたら、なんと呼ぶのだろう。そもそも名前は必要なのだろうか。きれいに分類できるものなのだろうか?)
そして、恋つばの2人が、常にお互いを認め合いながら現実に立ち向かい、新しいことに挑戦する姿を見て
この地道な積み重ねが未来の彼らの財産につながっていくのだと感じることもできた。
私も挑戦していかなくては。
そこには辛いことも困難なこともあるかもしれない。
でも目指す未来にたどり着いたら、過去の辛かった思い出も笑って話せるかもしれない。自らを優しく癒してくれる思い出に変わっているのかもしれない。
過去から現在、そして未来へと続く感情のバトンを受け渡しながら、今日もゆっくり走っていこう。
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