株式会社を通じて、ウェルビーイングを実現する幅広い領域でエコシステムを構築する
対談企画としてリープラの投資先の皆さんにお話を伺うシリーズ、「起業家の声」の第8弾として、株式会社ココピアの森島聖さんに、リープラで起業に至るまでの経緯やその中での葛藤、そしてこれからの展望についてお聞きしました。
株式会社ココピア
「人のこころとのより良い向き合い方を社会に提供し続ける。」というミッションを実現すべく、障害福祉、幼児教育などの幅広い領域でウェルビーイングなエコシステムの創出を行う。
・ 障害を抱えている方向けの就労継続支援「ココピアワークス」
・ 障害を抱えている方の為の就職・転職支援サービス「ココピアキャリア」
・ 探求型学習を取り入れた次世代型アフタースクール「EUREQA」
岡内:本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは自己紹介、会社紹介をお願いします。
森島:株式会社ココピア森島と申します。私は2018年1月に会社を設立し、現在7期目を迎えています。私たちの事業は障害者雇用の中でも就労支援に特化して事業を展開しています。私は元々リープラの社員でしたので、その理念などもある程度分かった上で、創業期からリープラと一緒に進めてきました。
💡なぜリープラを選んだのか
岡内:起業前にリープラで社員として働いてから起業されたとのことですが、リープラに出会ったきっかけや、そこからなぜ起業を目指したのか教えていただけますか?
森島:2017年にリープラで働き始めました。その頃、リープラはシンガポールをメインの拠点として活動している時でした。私はコンサルティングファームのシンガポール支社で働いていたので、その関係でリープラを知り、転職しました。
シンガポール国内で転職したという形になります。
業務内容としては、投資先企業の経営企画をサポートと、その実践内容を一般化するというものでした。そのころは私は起業に動機付いていたわけではなく、リープラが経営支援に関心がありました。
岡内:今おっしゃっていただいたリープラの経営支援への興味というのは、当時どのようなものだったのでしょうか?
森島:学生時代に東南アジアでボランティア活動をしていたことから、日本よりも海外に目が向いていました。
当時の私は経営の本質的なものはあまり知らないという自己認識があり、井の中の蛙だと思っていました。リープラは東南アジアで大きな産業を作るとか、強いビジネスが生み出すというストーリーを掲げており、それに感化されており、思い切って飛び込み、東南アジアでそのストーリーを実践してみたいと思ったことがきっかけでした。
岡内:リープラとの出会いは偶然だったのですか?
森島:東南アジアで活動していた友人から、シンガポールにあるリープラが経営企画を探していると連絡がありました。さきほどお話しした通り、その際には起業したいという明確なストーリーは紡ぎ出せていなかったのですが、面白いと思って参画しました。
岡内:2017年にリープラにジョインされてから、約1年間の経験を経て、どのような変化があり、起業しようとなったのでしょうか?
森島:当時はよく起業家のメンタリティーの揺らぎや、それによる会社の停滞を目の当たりにしていました。いわゆる経営書などで書かれているフレームワークだけではない別の経営の側面を見るいい経験ができたと思います。
一方、そのような状況に直面し、当時の私自身が本質的に起業家に寄り添うことに限界があるなと感じてしまいました。そして、そのチャレンジを自ら行いたいと思うようになり、入社数ヶ月後には「自分で起業します」と言っていました。
💡何を目指しているのか。現在、何に取り組んでいるのか?
岡内:現在、森島さんが目指していること、今の事業を通じてどのような社会を目指しているのか。また、初期の事業として何から取り組んでいるのかについて教えてください。
森島:私たちは、幅広い領域でウェルビーイングのサイクルを回すためのエコシステム作りに励んでいます。一義的な価値観に引っ張られずに、自分自身で多様な価値観を育み、生き方自体を柔軟に考えられる人を増やしたいと思ってます。
辛いことが起きても、柔軟に波乗りしていけるような生き方が今後は求められるんじゃないかなと思っています。過去の体制から来る社会的な価値観に引っ張られないことが大切だと思いますし、ダイバーシティや多様性という文脈がより社会に浸透していく中で、固定された生き方や旧来の文化的な価値観に囚われない生き方が普及していく、いくべきだと考えています。
株式会社として事業を通じて、そういった多様な生き方を実現できる人を増やしていきたいというのが、私たちのビジョンです。
岡内:なるほど。そういう多様な価値観を育み、自分で生き方を決めて学び続ける社会を目指しているわけですね。
森島:はい、まさにそういう社会をイメージしています。私たちは幼児教育や障害者雇用など、様々な領域で活動しており、例えば幼児教育では探求型学習に着目し、好奇心を広げることに重点を置いています。
障害者雇用の分野でも、ハンディキャップがあることによって用意される選択肢に限りがある応対になっており、仮にハンディキャップがあっても楽しく生きることを目指し、その選択肢を広げていく取り組みをしています。
岡内:そうなんですね。もう少し詳しく教えていただけますか?
森島:既存の教育インフラの中に「生き方を科学する」取り組みを長期的に埋め込んでいきたい、株式会社でできる範囲からやっていきたいと思っています。事業として創業以来強く取り組んでいるのが、障害を抱えている方に対する就労支援です。
非認知能力の重要性にも注目していて今後の社会においては、好奇心や柔軟性などを育むことがますます重要になってくると考えています。これからも、株式会社として、公共がカバーできない支援を事業を通じて後押ししていきたいです。
岡内:この事業を選ぶまでにはどのような試行錯誤があったのでしょうか。
森島:元々この領域に強い関心がありました。色々な方にヒアリングやリサーチをし、最初の3〜4ヶ月ほどたったタイミングで、就労継続支援施設という福祉施設の事業にたどり着きました。
岡内:その就労継続支援施設をエントリーで選ばれたといいうことですが、そこに至るまでにどのようなプロセスがあったのでしょうか。
森島:まず、自分が本当に執着してやめないでやれることをやるべきだと強く感じていました。事業として社会的に求められるかどうかはもちろん大事なんですけど、それ以上に自分の中で何かしらの動機があるかどうかというところを強く見ていましたね。
僕自身、商売っ気が強いわけでもなく、お金を稼ぐことに特化して事業を作ってきたわけでもないので、必ずしもうまくいくわけじゃないっていう不安はありました。ビジネスモデルの魅力よりも、何よりも大事にしていたのは、自分が執着してやめないこと。10年、20年続けられるものを選ぶことが重要だと考えていました。そうすることで、関わる人々への責任を果たせるし、結果的に成功の確率も高まるんじゃないかと思っていました。
身内が双極性障害を持っていることもあり、その経験を通じて、自分が知っている領域であれば、何かしらやる余地があるんじゃないかと感じていました。
岡内:社会起業などで自分で起業したいと考えた時に、自分では執着したやりたいテーマを選ぶと皆それぞれ思っていると思うのですが、そこにすでにマーケットが存在しているのか、陳腐であるかどうかなどは、テーマを選ぶ段階でどのように捉えていますか。
森島:精神疾患を持つ方々の数も増えていて、今後の不確実な社会において、メンタルヘルスの重要性がますます高まると考えており、社会から求められている部分ではあったので、マーケットはあると確信していました。
しかし、マーケット自体は存在すると感じていましたが、具体的に何をするかというのは決めていませんでした。ただ、大きなトレンドとして必要とされていることは確信していたので、その領域で何かしら価値を提供できるのではないかと思っていたんです。
岡内:社会的に大きな課題に取り組む場合、収益性が難しいという側面もありますよね。マーケットが存在していなく、そこに画期的なプロダクトを作っても収益化できないと言ったこともある中で、既存のマーケットを探していくと言うことにどのような背景があったのでしょうか。
森島:その点で言えば、私は最初から株式会社としてやることを決めていました。株式会社でやるからには一定の収益性やキャッシュフローを確保する必要があり、そうすることで、より多くの人を巻き込むことができ、より大きなインパクトを生み出すことが可能になると考えています。他のアプローチが悪いわけではないですが、株式会社だからこそできることもあると考えています。
あんまりそのスタンスを曖昧にしていないつもりで、自分たちの事業は社会性が強いと認識されることも多いんですけど、実は社会企業だとは思っていなくて。
あくまで株式会社としてのアプローチを取っている以上、投資に対してどれくらいリターンがあるか、その人をどう巻き込んでいけるか、収益性が一定担保できるかというところはしっかり見ようとしていました。
それと、我々はバリュエーションを付けて調達するということをしていないんです。新規性の高いアプローチを取る場合、どうしても赤字を掘りながら事業を作っていくことが求められる。それに加えて、社会課題に対してアプローチをしていくとなると、やはり調達が必要になることが多いと思います。
ただ、我々の場合、調達が必要な時はもちろん行いますが、まずはキャッシュをしっかり回していくことを重要視していました。いわゆるエクイティを入れてファイナンスするということは創業時以降はしていないんです。
そうなると、お金がなくなってしまう可能性もありますが、その場合でもちゃんとお金が集まるビジネスモデルを作ろうとしています。これは、いわゆる社会企業的なアプローチとは少し違うポイントかもしれません。
岡内:なぜその資金調達を前提としていない選択をしたか教えていただけますか?
森島:元々キャッシュをしっかり回して獲得できる組織であれば、調達は不要だと考えていました。僕自身、起業やキャッシュフローの管理に関しては初心者だったので、まずはそこからしっかりやっていくことが長期的に強い組織を作るために必要だと思ったんです。
もちろん、起業してから「調達しないとできないモデルをやりたい」という可能性もありましたが、当時はできるだけ少ないお金で始められるものに集中しようと考えていました。
岡内:ありがとうございます。株式会社という形態を選択したのはどのような背景からでしょうか。
森島:学生時代にNPOやNGOの方々と触れ合う機会が多くあり、そのような非営利アプローチも知っていました。
しかしながら、私が社会人経験で関わってきたのは株式会社で、資本主義の中でビジネスをするという経験が中心であったので、その形態を選びました。あくまで利益がその企業の社会に対する付加価値の総和と捉えていますし、株式会社でやれる範囲内でそのインパクトを大きくしていきたいとも考えています。
岡内:もしこの事業を非営利で営んでいたらどのようになっていたと思われますか。
森島:そもそも株式会社か、非営利かは横比較でないのではないかと感じています。資本を使ってスケールできる可能性があるなど、その仕組みがうまく活用しやすいものは株式会社でやるべきと考えています。
一方で、すぐに資本市場において賛同を得るのが難しいようなモデルの場合、一定のアドボカシー活動(特定の問題に関して社会的弱者の権利を保護したり、主張を代弁したりして声を上げる活動のこと)が必要なため、非営利が向いていると思います。
ただし、株式会社でも収益化しスケールできる部分はそれを追求し、成り立ちにくい部分は寄付の形で行っていく。逆にNPOとして、成り立ちにくいものは寄付で行い、収益化できるものはそうしていく、というのはあると思います。
領域の特徴に合わせて、どのような時間軸で関わっていきたいかによるので、アプローチに関してはどちらがいい悪い、ということはないように思っています。
あくまで私自身は株式会社を選択したということです。
岡内:実際に、事業モデルと圧倒的な利益を追求することがコンフリクトすると感じられることはありませんか?
森島:コンフリクトする部分はないと思います。利益を大きくしようと試行錯誤することによって、ビジネスを強くしていくことができます。
金儲けと社会課題解決を天秤に掛けがちです。ただ、NPOでも株式会社的に収益を追いかけることができるし、株式会社でも上場せずに本質を追求し続けることはできると思います。どの方法をとってもメリット・デメリットはあれど、どちらかを取ったらどちらかができないということはそこまでないと思います。
株式会社も大企業になれば収益性と端的に紐づかないことを、CSR活動として長期の視点で取り組むことができます。大前提として、ある程度のお金がないと関わる人たちが十分な生活をできるだけのお金を提供し続けるのは難しく、株式会社でちゃんと稼ぐことにこだわるのは私にとっては、学習機会としても適切と思っています。
ただ、そのアプローチにどうしてもこだわっているわけではなく、一旦は株式会社でしっかりやるっていう決意が大事だなと思っているくらいです。株式会社っていうアプローチを取ったら大きな足かせがある、というものではないのかなとは思いますかね。
💡これまでの成長や学びは?
岡内:最後に、森島さんのこれまでの自己変容を伴うような成長や自身の変化はどのようなものがあるのでしょうか。
森島:起業してよかったと感じるのは、さまざまな経験を通じて精神的に成長できたことです。
例えば、最初は計算通りに進むことばかりを期待していましたが、実際には予想外のことや未経験のことに直面することが多々ありました。
特に、営業活動においては、これまで物を売るという経験がなかったため、初めは大きなハードルに感じました。新しいことにチャレンジするのは楽しい反面、予想外の出来事が起こると精神的に辛く感じることも多かったです。
それでも、困難を乗り越える過程で、さまざまな人の支えや従業員の助けが非常に大きかったことを実感しました。また、自分自身が問題にどう向き合うかを考え、柔軟に対応する力が身についたと思います。特に学ぶことに対する柔軟性が向上しました。
起業当初は、長期的にゆっくり進めていこうと思っていましたが、今は大きな目標を立ててスピード感を持って進めることも大切だと思っています。
組織が大きくなるにつれて、巻き込んだ従業員に対してより一層、責任を感じるようにもなっています。
自分の現在地を見つめ、何をすべきかを明確にし、集中して学び続けることの重要性を日々痛感しています。これが私の成長の大きな一部だと感じています。
僕自身「ウェルビーイングな社会を作りたい」と話しているものの、創業初期当時は精神的に全然安定していなかったんです。これは特別なことではなく、起業して新しいビジネスにチャレンジすると、いろいろなことが起きる。たとえば、コロナ禍もそうでしたが、一つ一つの課題に不慣れであっても、何とか乗り越えなければならない瞬間がありました。
いくつかの問題が重なるとキャパオーバーしてしまい、メンタル的にダメージを受けることも何度もありました。これは今後も起こり得ることです。ただ、こうした経験に少しずつ慣れてきたとも感じています。
結果として、今こうしてやってこれているし、ハードだと感じることも最終的には乗り越えて「良い経験だったな」と思えるようになってきました。さっき「波乗り」という話をしましたが、まさに自分自身も柔軟な生き方を体験しようとしているなと感じています。
今では、何か問題が起こったとしても、それを深刻に捉えすぎることなく、うまくかわしたり、プロセス自体を楽しんだりするようになってきました。もちろん、辛いこともありますが、それだけが人生ではない。バランスを考え、仕事とプライベートをうまく分けて、しっかり休むことも大切だと感じています。
ハードな状況でも、しなやかに頑張っていく力がついたのではないかと思います。これが、今後のチャレンジにも役立つはずで、それを経験していなければ、以前サラリーマンとして働いていた感覚では、ここまでチャレンジできなかったかもしれません。
岡内:森島さんが掲げている「作りたい社会」を実現するためには、まずご自身がそのギャップを体感し、変わり続けているということですね。
森島:そうですね。最初からその整理ができていたわけではありませんが、今は少しずつ理解が深まってきています。
岡内:本日はお忙しい中、ありがとうございました。
編集後記
森島さんのお話しで、起業の動機や事業に対する思いが深く語られ、ウェルビーイングやダイバーシティへの意識の高さが印象的でした。
森島さんが単なるビジネスとしての成功ではなく、社会全体にポジティブな変化をもたらすことを目指していると共に、株式会社という形態を選択した理由についても、単に利益を追求するのではなく、長期的な視野で社会課題に取り組むための基盤として捉え、社会課題への取り組みと収益性の両立に苦労しながらも、目指すビジョンに忠実であろうとする森島さんの姿勢は、社会の多様性を広げる一歩であると感じました。
文責:阿部翔汰郎