02 バンコク ドンムアンの熱風

今でも一部のLCCでは、ドンムアン空港に国際線が発着しているので、今は無き香港のカイタック空港のような伝説の空港という事でもなく、現役の国際空港なのだが、私にとってドンムアン空港という響きは、何となくノスタルジックな気分にさせる。

東南アジアのハブ空港だったドンムアンには、バンコク市街までの交通手段が主に5つ有った。
費用が高い順に、リムジンタクシー、タクシー、リムジンバス、鉄道、路線バス(エアコンバスは鉄道より割高?)だ。
このうち路線バスは、大量に路線が有り、何処へでも行けるが、その分難解で初心者にはハードルが高かった。

行き先は限定される鉄道だが、バンコク中央駅であるファランポーン駅からそれほど遠くないTTゲストハウスに泊まるつもりだった私は、ドンムアン空港の横を通る幹線道路を挟んだ先に有る鉄道駅に向かった。

道路を横切るオーバーブリッジに足を踏み出し、南国の湿った空気と匂いにふれたとたんに、汗と不安がジワジワ噴き出してきた。

「なにやっとんねん」

実際に言葉は発していないので、関西弁である必要もないのだが、旅はバンコクを離れるまでの期間、ずっとこの思いでいっぱいだった。

昭和のワーカホリックから無職のバックパッカーに華麗なる転身をしてみたものの、本域の人達のように【世界中をこの目で見てやる!】なんて気概もなく、沢木耕太郎や蔵前仁一のエッセイに触発されただけのニワカが、引っ込み付かなくなってるだけだと自虐的になってしまった私は、スタート地点であるはずの快適なバンコクで動けなくなってしまった。

TTゲストハウスで出会った日本人の一人は、日本を出てタイの街のいくつかを廻っただけらしいのだが、タイが気に入ったので旅を止めてチェンマイで語学留学する事にしたと話してくれた。

いきなり旅の気力を失っていた私は、何とはなしに「それもいいね」と気のない受け答えをしていたのだが、彼は「それならバンコクでアルバイトでもしながら考えたらどうか」と、腰の重くなった私をアパートの内見に連れ出した。

それはそれで楽しく魅力的だったのだが、流石にインドシナ半島を一周すると息巻いて、一年のオープンチケット持って出発した手前、ビビってバンコクに居ついたなんて格好悪くて日本に帰れない。
気力を振り絞ってカンボジアとの国境の街、アランヤプラテートへ出発する事にした。

動き出せたのは、出発前に広げた大風呂敷のせいで格好が付かないという、ただの見栄だった。

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