補足:工藤忍・今井加奈の担当へ
※元記事「工藤忍・今井加奈の担当へ」を補足する記事です。先に元記事の方を御覧ください。
拙稿「工藤忍・今井加奈の担当へ」について複数の反応を各所で頂き、肯定的・否定的なものを問わず感謝する。
少なくとも、問題提起としてはある程度成功したと考えており、その点は満足している。
しかし、主に私の説明不足によって、本来の意図と異なる受け取られ方をしている部分もあったため、いくつか補足をさせていただきたい。
(思いの外長くなってしまってすみません)
1.「うちの担当が『量産型Cu』とは何事だ、存在意義が無いとでもいうのか」
冒頭に掲げた"お願い"の内容が内容であるので、工藤忍と今井加奈の担当からの反応は、まあ予想の範囲内であった。
しかし、それ以外の、特に島村卯月を始めとする『量産型Cu』として例示したアイドルの担当らからの激烈な反発は、正直なところ全然予期しないものであった。
中には全ての『量産型Cu』、ひいてはCuアイドル全体への侮辱であるという捉えられ方をされているケースもあって、困惑するばかりである。ここに至ってはさすがにまずいと思い、蛇足となりかねないことを承知でこの補足記事を書こうと決意した次第である。
このような捉えられ方は私の本意ではない。私は『量産型Cu』の存在意義を一切否定しない。むしろ必要不可欠であり、アイドルゲームであるシンデレラガールズにとっては中核的な価値観ですらあると考えている。
分かりやすく可愛い典型的なアイドル、普通の女の子のきらびやかな世界への憧れという典型的なアイドル物語は、世界観の芯を定めるために必要なものであり、それを描くために『量産型Cu』のキャラクターを据えることは必須といえる。そういう直球の人物なしに個性派の変化球ばかりを描くようでは、世界観の把握が難しく、一般的に受け入れられず、マニアックな人気に留まるものになるだろう。『量産型Cu』はそれ自身が世界の「普通」を規定するための存在でもあり、それがあるからこそ他のアイドルの個性が際立つのだ。
元記事を「『量産型Cu』など必要ないから全員リストラしろ」という主張であるかのように曲解した反応もあったが、とんでもない。そんなことをするのは大黒柱を折るようなものであり、絶対にやってはいけないことだ。
それならば、前回の記事で述べた『量産型Cu』の問題点とは何だったのか、繰り返しになる部分もあるが、改めて詳しく説明することにする。
まずはひとつ、極端な思考実験をしてみたい。題材として星輝子を使うことにする。なお、私は星輝子の担当ではない(以下ではいちいち断らない。本記事に揚げる具体的なアイドル名は単なる例示であって、それ以上の意図は何もない)。
星輝子はキノコ好きでメタル好きでぼっち気質なPaアイドルである。見ての通りの個性の塊である。少なくとも没個性とは誰も言わないだろう。
さて、この思考実験の世界のシンデレラガールズに、新たなアイドルが追加されることになったとしよう。名前を木之子2号(仮)とする。木之子2号はキノコ好きでメタル好きでぼっち気質なPaアイドルである。
ただし、見た目やプロフィールは星輝子とはまったく異なる。
この木之子2号(仮)を追加しますという発表を聞いて、この世界のプレイヤー達はどう思うだろうか? 「星輝子と丸かぶりじゃん」「このキャラいる?」という反応が返るのはごく自然ではないだろうか。
まあ、1人くらいなら構わないと言う人もいるだろう。輝子Pは輝子の友達が出来たと喜ぶかもしれない。
だが、さらにキノコ好きでメタル好きでぼっち気質な木之子3号(仮)を追加するとなったらどうだろうか? 4号、5号、…、10号と増えていったら、輝子担当もそうでないプレイヤーも、どう思うだろうか? シンデレラ外部からは、どう見えるだろうか?
『量産型Cu』で起こっているのは、これと似たような事である。
実際、『量産型Cu』における状況はより悪い。先の例えを続けるとしよう。星輝子と木之子2~10号は既に実装済みである。木之子2号から5号まではボイスが付いている。それぞれの木之子には数は異なるものの熱狂的なファンが付いており、好きなシメジの品種やエリンギ料理の違いなどを個性として珍重している。最近11号が実装され、今年の選挙でボイスを獲得した。来年の選挙で6号と7号にボイスを付けようという運動が既に始まっている…
さて、あなたはこの木之子軍団をどう思うだろうか? この世界の6号と7号の担当をどう思うだろうか? 10号は不人気だからリストラしようという声が上がり、それに対して10号の僅かなファンが猛烈に怒って暴れていたら、どう思うだろうか?
お分かりだろう。これが『量産型Cu』に今現在実際に起こっていることである。星輝子と木之子2~5号は既存の声付きの『量産型Cu』たち(数え方次第なので実際に5人とは限らない)、11号は辻野あかり、6号と7号は工藤忍と今井加奈のアナロジーであることは言うまでもない。10号の例は敢えて挙げないでおく。
ここで注意していただきたいのは、上の議論では星輝子(あるいは木之子N号)の「キノコ好きでメタル好きでぼっち気質」という個性そのものには何らケチが付いていないことである。問題なのはそれが10人丸かぶりしているという、事実そのものである。キノコ好き自体は立派な個性で、価値あるものだが、それを10人も重ねて薄めていることこそが問題なのだ。
『量産型Cu』にも同じことが言えるのが、分かっていただけるだろうか。『量産型Cu』に存在意義はあるが、『X人目の量産型Cu』の存在意義はXが大きくなるほど薄れていく。これが元記事で本質的に訴えたかったことだ。
重ねて言うが、『量産型Cu』は必要であり、大きな価値があり、シンデレラの世界を豊かにするものである。あるアイドルが『量産型Cu』である、というのは単に特性の説明に過ぎず、決して非難や罵倒ではないし、当のアイドルの罪でも恥でも何でもないのである。問題は『量産型Cu』が多すぎるという、そのことそのものだけにあるのだ。決して混同しないで欲しい。
工藤忍と今井加奈は、現時点で声が付いたとしても『X+1人目とX+2人目の量産型Cu』にしか成り得ない。だからこそ、彼女らはシンデレラの世界をこれ以上豊かに広げることは出来ないのである。
こうなってしまったことには多分に運の要素もあるだろう。もしかしたら、工藤忍と今井加奈が早々にボイスを獲得して人気アイドルの一角として活躍し、小日向美穂や緒方智絵里がボイスをいつまでも獲得できずに悶々としているような宇宙もあり得たかもしれない。『量産型Cu』らの差異の小ささを考えれば、ほんの小さなゆらぎ、些細な条件の違いで明暗がまったく変わっていてもおかしくなかったのではないだろうか。図らずも現実がそうなっていないのは、工藤忍と今井加奈の担当にとっては残念であり理不尽さも感じるだろうが、それでも現にX人(数え方はお任せしよう)の『量産型Cu』に声が付いているという現状は変えるべくもないのである。
だからこそ、工藤忍と今井加奈の担当に伝えたいのである。恨み節を上げるばかりでなく、今の状況を鑑みて、X+1,X+2人目の『量産型Cu』でしかない、あなたの担当の価値というものを冷静に見極めてもらえないだろうか。先の思考実験での、木之子6号と7号の熱狂的担当についてあなたが感じたことが、そのままあなたに対する周囲の感想なのである。
そもそもは『量産型Cu』が増えすぎてしまったのが元凶であるが、そのことで運営を責めるのも難しいだろう。というのも、『量産型Cu』はその性質から言って増えやすいという宿命的な特徴があるからだ。
実際、先の思考実験で用いた星輝子とキノコ趣味については、こんな問題はまず発生しない。キャラを増やすに当たっては、露骨に個性が重複するようなものを追加しても誰も得をしないし、通常はなるべく既存のキャラと違うものを追加しようという努力が為されるからだ。
しかし、『量産型Cu』というのは個性がほとんど無いことそのものが特徴であるから、比較的作りやすいし生まれやすいのである。島村卯月は最初から『量産型Cu』を意図して作られたのであろうし、五十嵐響子のように「家事万能」という特性を付けてはみたものの個性としては薄すぎて結局『量産型Cu』へ収束したアイドルもいる。
Cuらしく可愛らしくて万人受けするアイドルを作ろうとすると、どうしても強く個性的にすることは難しく、結果的に『量産型Cu』になってしまうケースが多くなるのは必然的なものと言わざるを得ない。そも、工藤忍と今井加奈それ自体も、このようにして生まれたアイドルに違いないのだから。
ある意味で、工藤忍と今井加奈は『量産型Cu』の宿命的な不幸を一身に背負ったアイドルでもある。そこは気の毒に思うが、だからといって状況を好転させる方法があるとは思えない。なればこそ、構造的に活躍の難しい彼女らをわざわざ担当して、分かりきった苦しみに悶えるプレイヤーの存在も、推すプレイヤーが居る故に無理に出番をひねり出して活躍させきれず苦慮する運営も、どちらも生産的とは思えないのである。
だったら、というのが元記事での"お願い"として述べたことであり、決して両アイドルおよび担当への恨みや軽視、蔑視によるものではないことを、ここではっきりとさせていただく。元記事は純粋に担当プレイヤーとシンデレラコンテンツの将来のための提案として執筆したものである。当の両アイドルの担当からの反発は心情的に仕方ないものだと思うが、それ以外の何かを貶める目的を邪推されるのは心外であり、そのような意図はないことを重ねて明記するものである。
2.「なんでCuだけなの? なんで量産型Coと量産型Paは問題にしないの?」
これはごもっともで、本質的な問題は"似たようなキャラに声が付いては、シンデレラの世界が広がらない"ということなのだから、本来は属性を限った話ではない。
しかし、これは個人的な感覚なのかもしれないが、例えば「八神マキノや大石泉の担当は渋谷凛に変更してください」ではやっぱり少し話が違ってきてしまう。この3人には類似点も見られるが、元記事と同じ議論を展開するには、少しばかりキャラが濃すぎると思えてしまうのである。実際、渋谷凛は諜報しないし理系才女でもないし、逆に八神マキノや大石泉は花を売らないので、すぐに乗り換えろと言ってもなかなか難しいのではないか。
ただし、『量産型Co』や『量産型Pa』、もっと一般に『量産型アイドル』を観念的に考えることは可能であるし、そのときはやはり『量産型Cu』とまったく同じ問題が発生すると言えるだろう。もし、八神マキノや大石泉は渋谷凛(または他の声付きCo)と同じ『量産型Co』の一種なのだと考える八神マキノや大石泉の担当がおり、それをもって彼らが声付きの『量産型Co』に担当を変えてくれたとすれば、それは私としては望ましく歓迎すべきことである。もっと言えば『量産型Co』というステレオタイプを一段挟む必要性は必ずしもなく、八神マキノや大石泉に渋谷凛(または他の声付きCo)と近しい部分を見出して、担当を変えてくれるならこれも結果的に同じことである。もちろん、うちの担当には唯一無二の個性があり、似たようなアイドルなどいないから担当を変えるのは難しい、という確信があるならそれは仕方ない。苦難は覚悟の上で頑張るしかないのであろう。
Paについてもまったく同様の議論ができることは言うまでもない(もっとも本田未央を『量産型Pa』と見做すのは凛の場合よりも遥かに無理があり、例示の選び方はより難しくなる)。
さらに言えば、シンデレラの属性というのは割といい加減に分けられているので、久川颯や高森藍子などCoやPaにも『量産型Cu』に近いアイドルは含まれる。なんなら工藤忍や今井加奈の担当がこのような属性違いのアイドルに担当を変えてくれても一向に構わないし、もちろん他の声なし(Cuに限らない)の担当も、どんどん属性の垣根を超えて、良い声付きアイドルを選んで担当を変えてほしいと願っている。
このように、CoやPaでも事情は一緒であり、もともと属性を限った話ではないのだ。適当な例示の選び方がCoやPaでは難しくなるだけである。
以上を踏まえて、元記事の"お願い"をより正確に述べ直そう:
「声なしアイドルの担当は、そのアイドルに声が付くことでシンデレラガールズの世界が広がるという確信がないのであれば、他の声付きのアイドルに担当を変更してください」
この表現は正確であり誤解の余地の少ないものであるが、いささか長ったらしく、対象者が広すぎてぼんやりしており、変更先が具体的でないため実際のアクションに繋がりにくいという欠点がある。そのため不特定多数への"お願い"に用いるステートメントとしては頼りなく、工夫が必要であった。
元記事で敢えて工藤忍、今井加奈、島村卯月、そして『量産型Cu』を取り上げて、それを冒頭に掲げたのは、それが最も分かりやすい具体的なインスタンスだったからである。『量産型Cu』は先に述べたようにその性質上数が多くなりやすく、実際に過剰感を多くの人が感じている。さらには『量産型Cu』が普通であり個性がないという特徴のために、真ん中の長ったらしい条件を自明なものとして取り除くことができるのもメリットであった。こうして、結果的には上の冗長なステートメントを掲げるよりも、多くの人の目に止まり、広く問題提起を出来たのではないかと考えている。
元記事でCuを中心に取り上げたのは、以上のように、典型的で説明しやすく、受け入れられやすい例示が容易であるという事情によるもので、Cuのみを吊るし上げる意図があったわけではない。
ただ、繰り返しになるが、本質的な問題は"似たようなキャラに声が付いては、シンデレラの世界が広がらない"ということである。属性を限らず声なしアイドルの担当は、自らの担当アイドルがシンデレラガールズの世界を広げるに足る個性を持っていると言えるかどうかを自問した上で、もし自信がないのなら積極的に担当を他の声ありアイドルに変更することを検討してみていただきたい。
あなたは、あなたの担当が「木之子X号」の類ではないと、自信を持って、胸を張って、本当に言えるだろうか? 少しでも引っかかるのならば、担当を変えるべきである。
元記事では工藤忍・今井加奈の担当に絞って呼びかけたが、全ての声なしアイドル担当への"お願い"でもあることを、この場で改めて強調させていただくことにする。
あなたの担当が声のない『量産型アイドル』ならば、担当を他の声ありアイドルに変えてください。
ただし、それが『量産型アイドル』ではなく、シンデレラガールズの世界を広げるに足ると確信できるのであれば、担当を続けることは止めません。茨の道ですが、あなたの担当にしか出来ない何かを目指して頑張っていただきたいと思います。
PS.
「カワイイだけで勝負してる輿水幸子こそ量産型Cuである。例示しないとはけしからん」との、ある幸子Pの反応を拝見しました。ありがとうございます、元記事への反応の中で一番面白かったです。でもあの個性で量産型Cuは無理だよ。
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