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シリーズ・社長の履歴書・第2回「リアルグローブ誕生秘話(教育事業編)」 ~東大発ベンチャーが挑むより良い社会づくり(全3回)~

「現場の “いま” を地図に載せよう」を合言葉に、リアルタイムな現場の情報を地図上に集め、AIでちょうどいい地図を作る、「デジタルツイン」「地図 x AI」という切り口から社会課題の解決に取り組んでいるリアルグローブ。

現在、令和5年度に国土交通省のSBIR制度「3D都市モデル自動生成・自動更新システムの開発及び実証」に採択され、令和6年度には「不動産分野における新たなサービス創出」を行う事業者に選定されるなど、Project PLATEAUに関わる開発も行っています。

前回の note では、東大受験について、東大在学中の起業、そして東大大学院を中退するまでを赤裸々に語っていただきました。第2回目では、起業家として本格的に歩み始めてからの軌跡をお伝えします。


ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインとの出会い

― (前回の続きから)グローバル・ブレインから出資を受けることが決まり、大学院を辞められたとのことですが、そのあたりをもう少しお話を聞かせていただけますか。

2008年に会社を法人化してから、自分たちで開発したものを営業した訳ですが、売れなくて。売れないけれど、意見やアドバイスをいただく中で、仮想化技術を応用したクラウド基盤の開発をやっていたのですが、そのうち、仮想化基盤としてコンテナ(※)を活用することで、よりリソース効率も良く、便利なサービスを作ることができる、ということに気づいたんです。今では、PaaSだとかマネージドサービスだとかと言われている類のサービスだったのですが、当時はなんと呼んでいいか、世の中的に定まっていないくらい、新しいものでした。

新しくできたものをプレスリリースや営業していたところ、グローバル・ブレインに見つけてもらって、出資を受けることができました。いろいろアライアンス先をご紹介いただく中で、ニフティクラウドがうちの技術を採用してくれて、資本業務提携まで、一気に進むことができました。

※コンテナ(container):
サーバー内を整理してアプリケーションやWebの開発・管理を効率的に行えるようにするOSレベルの仮想化技術。

参考)ニフティ株式会社:
1987年にパソコン通信の「NIFTY-Serve」を開始して以降、長きにわたり、日本のオンライン文化を牽引している。(ニフティHPより)

快進撃のはずが…

ー 「東大インキュベーション」→「NTTインキュベーション」→「グローバル・ブレインからの出資」→「ニフティクラウドに採用」と、快進撃の始まりですね。

ところが、苦労しました。ニフティとの協業では、追加出資のお話もいただいていて、本腰を入れて事業に邁進するぞ、というタイミングだったのですが、当時若かった僕はそれを断ってしまったんですよ。今の自分だったら、「そこは追加出資を受けて、きちんと事業を形にしてから、新しいことをやればいい」と思えるんですが、当時、尖りまくってた僕は「リアルグローブならもっと高みを目指せるはず」って思ちゃったんですね。

― いいお話を断ってしまうほど、可能性に満ちた出会いがあったのでしょうか。

当時、外資系企業に勤める友人も多かったこともあって、「もっとすごいクラウドサービスが日本に入ってくる!」という情報が入ってきていました。直感的に「このままじゃ勝てない」と思って、組み立て直そうと。

― 直感に従って…。

動いてしまったんです。もし過去に戻ることができるのであれば、その時の自分に「変な反骨心を出すな」と言いたいですね。せっかく大人たちが、成功への道を一生懸命に組み立ててくれていたのですから。でも当時は「社会(ビジネス)のしくみ」がわかっていなかったんですね。社員をはじめ、たくさんの方々にご迷惑をかけてしまいました。反省しています。

自分が目指そうとしていた市場は、突き詰めると規模の経済が強烈に働く市場だったんです。クラウドサービスって、特にIaaSやPaaSは、基本的にはどこから仕入れてもあんまり機能や性能に変わりはありません。最後は値段勝負になります。そうなると、でかい資本でたくさん仕入れて安く売るやつが勝ちます。そういう市場でグローバルに戦うのであればアメリカで起業するべきですし、桁違いの資本力を持つGAFAM相手に正面から戦いを挑むのは、無謀な挑戦でした。

では、日本で起業した自分は、何を武器にどの市場で戦うべきだろう、と悩みましたね。起業した頃は新しかった自分の持っている武器が、どんどん旬を過ぎていくこともあって、かなり迷走しました。

そんな中、教育業界の方々から声をかけていただきました。国が教育でのデジタル活用を進める中で、小中学校にタブレットを導入してクラウドをフル活用するという実証に、クラウド担当として参画させていただくことになりました。

小学生のタブレット授業の風景(イメージ画像)

小学校にタブレット導入、その現場で起きていたこと

― 今、小中学生はタブレットによる授業は当たり前ですが、その先駆けというか、導入時の実証に関わったということですね。

今、タブレットを当たり前に使っている世の中で、その導入部分で関わることができて、僕の中ではありがたい体験をさせていただいたと思っています。

実際の小学校で自分たちのシステムを使って、授業をしてもらう、という体験そのものがとても貴重なものでした。初めて教室でシステムを入れた時に、現場からエラーの情報が入ってくるのですが、「動きません!」しか上がってこないんですよ。情報の粒度が大き過ぎて、こちらも対応のしようがないんです。「現場で何がおこってるの?」って、状況が全くわからないんですね。

そこで「学校に(自分たちの)席ください」ってお願いして、実証をおこなっている小学校に二週間くらい社員を常駐させました。そこで初めて、現場で何がおこっているのかがわかったんです。
現場のユーザーが伝えていた「動きません」の内容が、「何が原因」で「どういう現象」で、どんなことに先生たちが困っているのか。想像していた状況とは全く違ったんですね。情報技術者の立場として、観察できたことはとても大きな収穫がありました。

― それはどのような状況だったのでしょうか。

まず、驚いたのは、子どもたちにIDとパスワードを渡してシステムにログインさせる、っていうことがそもそも、本当に大変だということですね。当時はまだ義務教育の現場でタブレットは珍しかったこともあって、タブレット配った瞬間の子供たちは途方もないテンションの上がり方でした。IDとパスワードがわかればログインできますよね、という以前の問題だったんです。

情報技術者が「当たり前」だと思っていることは、他の業界では「当たり前」でもなんでもないですし、反対に、今回でいう教育の現場では、先生方はその道のプロフェッショナルです。教育の現場に関しては「自分たちは現場を全く知らない」という現実に直面できたことは、大きな意味がありました。
デジタルを導入していくっていうのは、僕たちにはわからない観点で問題が発生したり、トラブルになったりするので、技術者の思い込みで物を作ってしまうと、使い物にならないものが出来てしまう。「そもそも知っていることの前提条件が違うのだから、現場に行って、相手の顔を見て話すことが重要」だと学びました。

伝統的な日本の現場におけるデジタル化の現実

― いろいろなことがありながらも、教育の現場にタブレットを導入する実証に関わり、現在の普及状況について、どのように感じますか。

コロナ禍(※)になって授業のオンライン化が進みましたが、準備ができていて良かったなと思いましたね。国としてITの導入を頑張るという方針は決まっていましたが、コロナ禍以前に実証を行っていたことは大きかったと思います。

この教育関連の様々な実証を通じて、国や地方自治体の方々とお仕事させていただくことが増えたこと、伝統的な日本の現場でデジタル化の現実に向き合えたことが、今のリアルグローブの方向性に大きな変化をもたらしました。当時の私からすると、とんでもないブルーオーシャンが広がっているように見えました。これだ! と思いました。

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19):
2019年12月初旬、中国の武漢市で第1例目の感染者が報告されてから、 わずか数カ月ほどの間にパンデミックと言われる世界的な流行となった。(出典:国立感染症研究所)


―― 教育事業とのかかわりから、公共系の仕事への参画が増えていったリアルグローブ。失敗も含め多くの経験を経てから見た「地方におけるデジタル化の現場」は、まさに「日本におけるITでの起業」のブルーオーシャンである状況など、更に深くインタビューした内容を、次回、お伝えします。