そもそも「不動産賃貸業」とはどのようなビジネスなのか?
企業経営における不動産戦略のひとつとして、近年再び注目を集めているのが不動産賃貸業です。都心部に不動産を保有する大手企業のなかには、老朽化した社屋などを建て替えて床面積を拡大、オフィスや商業施設を併設し、それを賃貸することで安定したキャッシュフローを生み出すケースが増えています。また、豊富な内部留保を持つような中小企業では、都心部の区分オフィスなどを取得し、将来に備えた事業の柱にしようというケースも見られます。様々な形態がありますが、そもそも不動産賃貸業とはどのようなビジネスなのでしょうか、見ていきましょう。
不動産業界の内訳と構造
不動産賃貸業は不動産業の一種です。不動産業は一般的に、不動産開発業、不動仲介業、不動産管理業、不動産賃貸業に分類されます。
不動産開発業はいわゆるデベロッパーとも呼ばれ、オフィスビルや商業施設、分譲マンション、物流施設などを自ら開発し、分譲したり、賃貸したりするものです。財閥系など大手不動産会社が該当し、森ビルなど都心の再開発事業を手掛けている会社もデベロッパーです。
不動産仲介業は、不動産の売買や賃貸の仲介を行うものです。売買仲介は大手デベロッパー系列から、地場の中小不動産会社、そしてフランチャイズチェーンなどがあります。また、賃貸仲介については比較的小規模な地場の不動産会社が多く、こちらにもいくつか全国的なフランチャイズチェーンがあります。
以上の不動産業は基本的に専業または複数の不動産業を手掛けているケースが多く、宅地建物取引業法による免許が必要になるのが特徴です。
続いて不動産管理業は、入居者対応や客付け対応など、不動産から得られる収入を最大化するために行う業務全般のことを指します。免許など必要なく、オーナーが自ら管理業を行う場合と、管理会社に委託する場合があります。
これに対して不動産賃貸業は、いわゆる大家として、自らが保有する土地や建物などの不動産を第三者に賃貸して、賃料を得る事業です。免許は必要なく、本業とは別の補完的な事業として取り組むことができます。
不動産賃貸業はさらに、住宅(店舗併用住宅を含む)を賃貸する「貸家業」と、事務所、店舗その他の事業用オフィスを賃貸する「貸事務所業」(または貸ビル業)に分けられます。総務省の「平成28年経済センサス」によると、貸事務所業を手掛ける事務所のうち約8割は法人なのに対し、貸家業を営む事務所のうち約7割は個人です。
このように、不動産賃貸業のなかでも貸事務所業は法人がおもに手掛けていることがわかります。
不動産賃貸業の「ビジネスモデル」とは?
不動産賃貸業の大きな特徴は、設備産業であるということです。「貸家業」であれ「貸事務所業」であれ、ニーズの高い立地であれば長期にわたって安定収入が見込めます。一方で、土地や建物を取得するための初期投資は非常に大きく、多額の借入金を利用し、長期間にわたって賃料収入で投資資金を回収、収益を確保するというのが基本的なビジネスモデルです。
また不動産賃貸業は、売上にあたる賃料収入の変動は比較的少なく、安定しているのも特徴です。借り手とは2年契約などの長期契約を結ぶことが一般的で、引越しには手間もコストもかかるため更新を繰り返す傾向があるからです。そのため賃料相場の変動も、景気変動や株式相場の動きなどに比べると、かなり緩やかです。
また支出も、借入金の支払い利息、管理費、修繕費、租税公課、借り手の入れ替わりにおける仲介手数料など、比較的固定されています。逆に言うと、たとえ入居率や賃料相場が下落したとしても、コスト削減による収支改善が難しいと言えます。
このことから、不動産賃貸業では事業を開始するにあたっての収支計画が非常に重要になります。将来にわたってのシミュレーションは行いやすいので、金利変動や賃料の変化、さらには自己資金と借入金のバランスなど条件を変えながら、入念に検討していきます。
不動産賃貸業は「地域特性」と「立地条件」が鍵
不動産賃貸業は、地域特性と立地条件が大きな鍵になります。地域によって人口動態や産業動向が異なり、賃貸不動産に対する需要も変わってくるからです。
たとえば、「貸家業」の場合はアパートや賃貸マンション、貸家などの住宅を貸すので、その地域の人口、世帯数、年齢構成、家族構成などが事業の成否を左右します。一方、「貸事務所業」のターゲットは法人であり、企業の集積度や企業活動の活発さが重要になります。
また、不動産賃貸業にはエリアによって商圏があり、その商圏における立地も重要です。「貸家業」の場合は生活の拠点を提供するので、スーパーや商店街などの買い物施設、小学校などの教育施設、公園など生活施設が周辺にあると人気があります。また、駅に近い繁華街よりは、少し離れた静かな環境が好まれる傾向もあります。
一方、「貸事務所業」は基本的に駅周辺などオフィス街でのニーズが強いと言えるでしょう。都市部では、再開発で整備されたエリアは人気も高い傾向にあります。
したがって、不動産賃貸業を始めるにあたり、賃貸不動産の所在地が都市部なのか地方や郊外部なのか、その地域における人口や世帯数、年齢構成、あるいは主要産業や企業の経営状況などが重要になります。
特に、借り手(「貸家業」であれば独身者やファミリー層、「貸事務所業」であれば企業)の需要と供給のバランスによって賃料相場は決まります。地域特性を踏まえて、借り手のニーズに合致した物件を提供することが重要と言えるでしょう。
活況が続く「オフィス市場」だが…
ここ数年は景気回復により、東京をはじめ国内の主要都市では、オフィスの空室率低下と平均募集賃料の上昇が続いています。特に東京では空室率が1%台と、バブル景気末期、1991年以来の低水準となっています。
空室率低下の背景には、IT企業やコワーキングスペース業などによるオフィス需要が盛り上がっていること、また人材確保の観点から高品質なオフィスへのニーズの高まりが続いていることなどがあります。
昨今、世界経済は先行き不透明感が強まっていますが、国内企業の業績は今後も堅調と見込まれ、大都市圏においては人材確保の観点から、今後も旺盛なオフィス需要は続きそうです。
不動産賃貸業のなかでも「貸事務所業」は、こうしたトレンドを的確に掴むことが重要です。
<まとめ>
不動産賃貸業は、不動産業のなかでも免許が不要で参入しやすいビジネスです。一方で多額の初期投資が必要であり、地域特性や立地条件の見極め、そしてスタート前の収支計画が重要となります。最近は都市部のオフィス需要が非常に堅調で、特に「貸事務所業」については好況が続いています。
引用:https://gentosha-go.com/articles/-/24816
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