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首相は言った「一緒に泥をかぶろう」 西野智彦の金融取材ファイル#12

朝から仕事が立て込み、投稿が遅れました。大変失礼しました。
今週は、去年10月に出した最初の連載企画「大平・前川会談」の追加版(補遺)です。新たな資料を発見したので、金融史に残しておこうという思いで書きました。ご関心あれば。

大平首相・前川総裁会談の全貌(補遺)
1980年予算委員会中の公定歩合引き上げ余話

去年10月に始めたこの読み物は、筆者が過去35年間に集めた金融当局の内部文書や当局者の日記・メモ、および当局者へのインタビューを基にして書いている。

インタビューの中には、直接引用できる「オン・ザ・レコード形式」もあれば、実名を明かさないことを条件に聞く「バックグラウンド」もある。加えて、大蔵省(現財務省・金融庁)や日本銀行が幹部経験者から体験談を聞き取る「オーラルヒストリ(口述史)」も貴重な情報源となっている。

オーラルヒストリーは、局長以上経験者を対象に自身の政策運営を回顧してもらい、これを製本して次世代に伝承する試みである。大蔵・財務省では「史談会」という名で戦後長く続けられており、『昭和財政史』などもこれに拠るところが大きい。日銀や金融庁にも同種の取り組みはあるが、財務省ほど体系だって行われてはいない。

これを基に、筆者は連載最初の企画で1980年2月の「予算委員会中の公定歩合引き上げ」を取り上げ、多方面で反響があった。

前例のない衆議院予算審議中の利上げをめぐって日本銀行と大蔵省の間で激しい駆け引きがあり、最後は日銀総裁の前川春雄が首相の大平正芳の自宅を訪問し、1週間後に承諾を得たという有名な話である。

だが、調べたところ、前川の大平邸訪問を働きかけたのは、実は当時大蔵事務次官だった長岡実(のち東京証券取引所理事長)である可能性が高いことがわかった。

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