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日本の環境政策も後退??最近の日本政府の公式文書から今後の環境政策とソーラーシェアリングの今後を読み解く。
1、初めに
アメリカでは1月20日トランプ大統領が就任し、脱炭素に向けた国際的な議論が停滞するのではないかという観測が広がっています。
実際に就任当日に出された大統領令では、パリ協定からの離脱に加え、バイデン前政権が進めた気候変動対策への補助金や風力発電の許認可、電気自動車の普及支援を撤回し、代わりに石油・天然ガスの大幅増産と輸出拡大を進めることが示されました。
これを受けて日本も含む世界において脱炭素に向けた取り組みが停滞するのではないかと考えている方も多いかもしれません。
しかし、トランプ大統領の方針は世界の脱炭素の動きにとってマイナスになるのは否定できないですが、だからと言って日本での取り組みが停滞する訳ではありません。
トランプ大統領の就任に前後して、ちょうど日本では、環境、農業それぞれの分野での日本の政策の方針を決める文書の改訂が行われました。そこで見られるのは、日本政府は脱炭素に向けた計画策定を着実に進めているということです。ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に関する言及もありました。
本稿では、年末年始に出た政府の環境、農業関係の今後の政策方針を決める文書を直接に参照しながら、環境、農業分野の今後の政策の方向性、そして両者が交錯するソーラーシェアリングの現在の議論と今後について解説します。
※政府の文書の詳しい解説は不要で、日本の環境・農業政策及びソーラーシェアリングの動向の概要をクイックに掴みたい方は2、年度末の政府計画を飛ばして、3のまとめを先に読まれることをお勧めします。
2、年度末の政府計画
環境、農業に関わる政府方針は今年度末はちょうどその定期的な見直しの時期と重なり、大きく改訂が行われました。下記に環境、農業に関し重要と思われる計画又は提言をまとめました。それぞれ、計画全体の概要とその中でのソーラーシェアリングに関する言及箇所をまとめています。
・第7次エネルギー基本計画
計画の概要:
エネルギー基本計画は国のエネルギー政策の基本的方向性を示すものであり、3年に1度見直すこととされています。今回は2021年10月から3年が経過するのに合わせて改訂されたものです。今回の改訂では、2040年度の電源構成の再生可能エネルギーについて「4~5割程度」と高い目標が掲げられたこと、また、原子力については原発事故以降記載されていた「可能な限り原発依存度を低減する」との文言が削られ、原発政策が推進側に転換するのではないかとの観測が広がったことが特に注目されました。
営農型太陽型発電(ソーラーシェアリングへの言及):
エネルギー基本計画案 29頁(Ⅴ.2040年に向けた政策の方向性 3.脱炭素電源の拡大と系統整備 (2) 再生可能エネルギー ② 太陽光)にて、
「発電と営農が両立する営農型太陽光発電については、事業規律や適切な営農の確保を前提として、自治体の関与等により適正性が確保された事業の導入の拡大を進める」と言及されています。
エネルギー基本計画案のリンク:
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/opinion/data/2024_01.pdf
・地球温暖化対策計画
概要:
地球温暖化についての政府の総合計画であり、これもエネルギー基本計画同様に3年に1度見直すこととなっております(2021年には2030年度における温暖化ガスの排出削減目標を46%となることが明記され話題を呼びました)。今回の改訂では、削減目標につき40年度に73%減とすること、40年度には家庭で7〜8割、産業部門で6割程度のCO2排出削減を目指すことといった野心的な目標が設定されたことが話題となりました。
営農型太陽型発電(ソーラーシェアリングへの言及):
①地球温暖化対策計画案 98頁(第3章 目標達成のための対策・施策 第4節 地方公共団体が講ずべき措置等に関する基本的事項 3.地域共生・地域裨益型再生可能エネルギー等の導入拡大)にて、
「営農型太陽光発電について、下部農地での営農が適切に継続されていない事例が発生する等の懸念が示されており、地域特性に応じた営農、地域共生・地域裨益の観点から、地方公共団体や公設試験研究機関等と連携して推進することが期待される」と言及されています。
②地球温暖化対策計画案 109頁(第3章 目標達成のための対策・施策 第7節 地方創生に資する地域脱炭素の加速(地域脱炭素ロードマップ)1.脱炭素先行地域と脱炭素の基盤となる重点対策の全国実施をはじめとする地域脱炭素の推進)にて、
「地域脱炭素の推進に当たっては、例えばJ-クレジットや営農型太陽光発電の活用により、地域経済の担い手である中小企業、農林漁業者の経営改善等の地域裨益につなげる取組を進めるとともに、循環経済への移行を国家戦略として進める第五次循環基本計画、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させる「みどりの食料システム戦略」、国土・都市・地域空間におけるグリーン社会の実現に向けた分野横断的な脱炭素化等の取組を戦略的に推進する「国土交通省環境行動計画」等の各分野における政策プログラムや関係省庁の進める地域づくり施策等と連携し、脱炭素とともに、循環経済の実現、持続可能な食料システムの構築、防災・減災や国土強靱化等の複数の課題の同時解決を図る。」と言及されています。
地球温暖化対策計画案のリンク:
https://www.env.go.jp/content/000279125.pdf
・「地域脱炭素政策の今後の在り方に関する検討会」取りまとめ
概要:
これは基本計画とは異なりますが、ソーラーシェアリングと関わりの深い地域脱炭素の政策について示された文書なのでピックアップしました。前述のエネルギー基本計画、地球温暖化対策の改訂に合わせる形で地域脱炭素の政策も見直すものとなっており、これまでの取り組みの振り返りと2026年度以降の具体的な地域脱炭素政策について有識者の間で議論された内容がまとめられています。
営農型太陽型発電(ソーラーシェアリングへの言及):
①取りまとめ 33頁(3. 地域脱炭素を加速するための政策の方向性と具体的な取組 (3)分野横断的な課題への対応 ④ 地域共生型・地域裨益型の再エネ導入の推進)にて、
「 下部農地での営農が適切に継続されていない事例が発生する等の懸念が示されている営農型太陽光発電について、地域特性に応じた営農、地域共生・地域裨益の観点から、地方公共団体、公設試験研究機関、地域の大学等と連携して行う実証事業等を推進する。」と言及されています。
②取りまとめ 34頁(3. 地域脱炭素を加速するための政策の方向性と具体的な取組 (3)分野横断的な課題への対応 ⑥ 新たな技術の地域における実装・需要創出)にて、
「未利用エネルギーや DX を活用したスマート農業や、営農型太陽光発電等を推進する」
「例えば、営農型太陽光発電等を活用した新たな脱炭素型農業モデルなど、地域の条件を踏まえた脱炭素型ビジネスモデルを構築する。」と言及されています。
③取りまとめ 43頁(3. 地域脱炭素を加速するための政策の方向性と具体的な取組 (4)個別分野における課題への対応 ⑤ 食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立)にて
「地域において、次世代型太陽電池の農林漁業関連施設、営農型太陽光発電等への導入を含む取組を支援するモデルを構築することを検討する。」と言及されています。
取りまとめのリンク:
https://www.env.go.jp/content/000271654.pdf
・食料・農業・農村基本計画
概要:
食料・農業・農村に関し、政府が中長期的に取り組むべき方針を定めたものです。概ね5年ごとに変更するとされており、今回は2024年における農業の憲法とされる農業基本法の改正に合わせる形で計画が改訂されました。この改訂では食料安全保障を基本理念の中心に据えることが新たに決まり、国内生産や輸出を強化する方針が確認されるとともに、これまで言及の薄かった環境との調和についても新たな基本理念に据えるといった変更が行われています。
営農型太陽型発電(ソーラーシェアリングへの言及):
食料・農業・農村基本計画(案)40頁(Ⅳ 環境と調和のとれた食料システムの確立・多面的機能の発揮 1 農業生産活動における環境負荷の低減(2)環境負荷低減に向けた個別分野の取組 ④農林漁業循環経済地域の創出)にて、
「営農型太陽光発電については、望ましい取組を整理するとともに、適切な営農の確保を前提に市町村等の関与の下、地域活性化に資する形で推進する。」と言及されています。
食料・農業・農村基本計画(案)リンク:
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/attach/pdf/250122-14.pdf
※こちらの整理に当たっては「ソーラーシェアリング入門(69)今後の政策議論のポイントは? 各種政府計画における営農型太陽光発電の取り扱い」を大変参考にさせていただきました。
3. まとめ:日本の脱炭素化への今後の歩みとソーラーシェアリング
最後にここまでを踏まえて、日本政府の脱炭素への姿勢とその中での営農型太陽光発電の位置づけ、そして今後の課題についてまとめます。
① 日本は脱炭素への歩みを止めていない
アメリカではトランプ政権が誕生し、地球温暖化対策への国際的な協調に暗雲が立ち込めました。しかし、日本は、国際的な風潮に流されることなく、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを着実に進めています。
これは、2で見てきた第7次エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画、そして食料・農業・農村基本計画など、年度末の政府計画を見ても明らかです。エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成における再生可能エネルギー比率を「4~5割程度」とする野心的な目標が掲げられ、地球温暖化対策計画では2040年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比で73%削減するという意欲的な目標が示されました。さらに、食料・農業・農村基本計画では、「環境との調和」が新たな基本理念として追加されることになりました。
これらの計画には(少なくとも現状は)トランプ政権誕生を受けた方針転換の兆しは見られず、むしろ脱炭素化への強い決意が示されています。一度決めたことは真面目にやり遂げようとする、日本の国民性の良い面が表れているのかもしれません。
② 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)への期待と根強い懸念
日本政府は、今後も着実に進める予定の脱炭素化に向けた重要な施策の一つとして、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)に注目しています。営農型太陽光発電への言及は政府の文書の至るところで見られ、その数はかつてとは比べ物になりません。営農型太陽光発電自体の重要性は広く市民権を得たと言っても良いと思います。
しかしながら、2の太字による強調箇所を見ていただければ分かりますが、営農型太陽光発電という言葉を出すときには、必ずと言っていいほど「適切な営農の確保」や「下部農地での営農が適切に継続されていない事例」と言った懸念がまるで代名詞であるかのように指摘されていることも事実です。以前の記事でも言及したように、下部農地での違反事例を受けて2023年以降営農型太陽光発電についての規制強化が進んでいる動きと符合するものであり、違反事例は厳しく取り締まらなければならないとの認識を2024年度末の現在でも政府は持っていると言えるでしょう。
特に、経済産業省や環境省は営農型太陽光発電に前向きな姿勢を示している一方で、農地法を所管し、農地保全を使命とする農林水産省は、慎重な姿勢を示しています。実際に、2で見たように、食料・農業・農村基本計画での記載は経産省や環境省所管の他の計画に比べて薄いですし、同時期に公表した農林水産省が立てた地球温暖化対策計画では営農型太陽光発電はそもそも言及すらされていません。
営農型太陽光発電については、注目はされているものの、規制面が強調され、大規模な普及に軸足が置かれているとは言えないのが現状でしょう。
③ 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の現在の位置付けと今後の課題
ソーラーシェアリングについては現状の政府方針では、特に地方自治体との連携による取り組みが強調されています。2の太字による強調箇所を見ていただければ分かりますが、地域との連携もこれまた代名詞のようになっています。
実際記事執筆の25年1月27日現在、営農型太陽光発電の導入を促進するため、地域ぐるみでのソーラーシェアリングの実施をその協議会の設置から調査、そして導入までを補助金含めて支援する事業の要望調査が募集されています(この制度については下記の記事をご参照ください)。
特にソーラーシェアリング事業を考えられている自治体や事業者の方々は地方自治体を巻き込んでの取り組みを政府が後押ししようとしていることを念頭に置くと良いと思われます。
しかし、何度も述べているように、地方自治体との連携を強化したとしても「適切な営農の確保」や「下部農地での営農が適切に継続されていない事例」と言った懸念を意識し過ぎている現状ではソーラーシェアリングの大規模な普及は難しいと言わざるを得ないです。
ソーラーシェアリングへのブレーキは誇張でもなく、日本の脱炭素に向けた目標達成にブレーキをかけることに他なりません。
第7次エネルギー基本計画では、再エネの中心となっている太陽光発電の比率につき現在の10.7%(2023年度)から23%〜29%と現在の倍増以上を目指すとされているところ、環境省の調査によれば太陽光パネルの導入ポテンシャルが最も高いのは農地であり、農地での普及なしに再エネ目標の達成は不可能と言っていいでしょう。
日本の脱炭素化の成否は、営農型太陽光発電の普及にかかっていると言っても過言ではありません。
「適切な営農の確保」や「下部農地での営農が適切に継続されていない事例」への懸念は確かに重要であり、対策を講じる必要はあります。しかし、優良事業者の方が圧倒的に多いのが現状であり、規制強化を重視するのでなく、むしろ規制緩和などによる強力な後押しを政府には期待しています。
これは、単に脱炭素の環境面でのメリットのみならず、農家の収入を支え持続可能な農業の実現を可能にし、食料・農業・農村基本計画で基本理念の中心に新たに据えられた食料安全保障の確保にも繋がると筆者は確信しています。
最後に:規制緩和などによるソーラーシェアリングの強力な後押しとして何が考えられるかについては、下記の記事に筆者の私見をまとめました。よろしければ、ご覧ください!