【弁護士が解説!】ソーラーシェアリング分野で求められる政策は?
初めに
前回の投稿では、ソーラーシェアリングの規制の動きについてまとめました。
今回の投稿では、現在の制度をベースに、もしソーラーシェアリング事業の活性化を促すとしたらどういった政策・規制改革を行うべきなのかの農業弁護士の私案をまとめてみました。
規制改革案をそもそもの問題の所在についてもまとめました。
是非多くの皆様のご意見をいただけると嬉しいです!
具体的な改革案
1. 農地転用規制について:優先度高
(ア) 農地の一時転用の期間につき、耕作放棄地及び周辺で市街化が進む地域(第二種農地又は第三種農地)で新たに実施する場合・自治体からプロの農業者として認定された認定農業者が実施する場合(Aパターン)又は下記など継続的な営農が担保されている場合(Bパターン)においては許可期間を20年とすること
モニタリング機器を導入した上で、育成・出荷システムを利用し、当局に継続的にデータ提供する場合
資格・許認可等を有するアドバイザーが営農部分及び発電部分をモニタリングし、定期的にレポーティングする場合
プロジェクトファイナンス手法が採られ、金融機関又は金融商品取引業者がダブルチェック機能を果たしている場合
しかるべき機関から優良事業者認定を受けている場合
<問題の所在>
現在、営農型太陽光発電を行う際には太陽光パネルの足の設置面につき、農地の転用許可を得る必要があるが、その期間はAパターンに当てはまる場合は10年、それ以外の場合においては3年とガイドライン上されている(営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン)。しかし、初期費用のかかる営農型太陽光発電においてはプロジェクト・ファイナンスのスキームに馴染みうるところ、太陽光発電事業に対するプロジェクト・ファイナンスの融資期間の基礎となっているのは20年である。他方、現状は基本3年、例外的な場合に10年となっており、さらに更新の場合においても原則更新できるという根拠はなく、基本的に同様の要件で再審査がなされる建て付けになっている。故に、金融機関側としては更新されないリスクを織り込んだ上で融資の判断をすることになり、融資の大きな阻害要因になっている。また、事業者にとっても更新不許可のリスクを当然考慮することとなり事業に踏み出す阻害要因にもなっている。
こういった背景で、既に10年という長期の更新が認められているAパターン及び継続的な営農が見込まれるものと考えられるBパターンについては、20年とすることを要望したい。本改正に法令改正は伴わず、ガイドラインの記載を変更するのみで足りる。
なお、20年の許可を出したとしても現状の規制上、毎年の栽培実績や農業・発電双方の収支報告をすることになっており、これを怠った場合や収穫高が不十分な場合は事後的に是正勧告、許可取り消しといった措置もできるため、悪質な事業者に対する歯止めが効かなくなる事態は想定し難い。
(イ)単収8割要件の緩和
<問題の所在>
許可に当たっては、「周辺の農地の平均水準と比べ8割以上」という単収要件が課されるが、事業者への大きな負担となっている。確かに、専ら売電目的のための農地利用は望ましくない。しかし収穫量は栽培方法、肥料の使い方(大量の化学肥料を使うか有機か)、栽培技術などで個々の農家により異なるし、局所的な異常気象や害虫の発生などのリスクもある。この要件の立証のための農家への手続の負担も大きい。実際、それを恐れて作物を安定するミョウガやサカキなどの作物に変更する例やそもそも転用自体を控えるということも起きている。専ら農地の利用をする意思が見られない場合に限り、不許可とするといった措置を講ずるべきである。
本改正には要件を定めた規則の規制が必要である。
(ウ)農地の一時転用許可の更新につき、原則更新、例外的に不許可という原則例外を明確化すること
<問題の所在>
転用許可の更新についてガイドライン上、原則更新という建て付けになっておらず、もう一度同じ要件で審査がなされる規定になっている。事業の継続性を担保する観点から、既に要件を満たし、許可された期間事業を継続した事業者については原則更新するという措置を施すべきである。これは、融資側にとってのリスクを軽減する効果もある。
(エ) 農地の一時転用を許可する主体を農業委員会から自治体に変更すること
<問題の所在>
一時転用許可の申請対象は農業委員会になっているが、判断基準が明確でない、地域ごとにばらつきがあるといった指摘がなされている。また、農業委員会は基本的に農地の最大限の維持を図りたいと考える立場であり、公平性に疑義が残る。なお、農業委員会が許可しなかった理由は、農地面積の減少が国からの交付金の縮小につながることを懸念したためだった可能性があるとの日経新聞の報道もある。公正な許可審査のために、その自治体全体としての観点を考えられる自治体が転用許可業務を担うべきである。
2. エネルギー・農業政策上の位置づけの明確化:優先度高
(ア) 営農型太陽光発電に絞った普及の具体的目標の設定
<問題の所在>
エネルギー基本計画やその他政府文章では、営農型太陽光発電の可能性は語られはするものの、その具体的な導入目標については明示されていない。現在、パブコメにかかっている第7次基本計画においては、営農型以外の発電手法である例えば住宅用太陽光発電設備については2030年において新築戸建住宅の6割の設置を目指すとの明確な宣言がなされている。また、隣国韓国でも2030年までに1,000万kWの営農型太陽光発電設備を導入することを政府目標として掲げている。
明確な目標があることで普及も進むものであるし、同基本計画で示された2040年における全電力の23%〜29%を太陽光で賄うという方針の実現のためにはポテンシャルの最も高い農地での普及は必須と言えるので、本丸である営農型太陽光発電についても目標が設定されるべきと考える。
3. 地域ごとの柔軟な規制の容認:優先度中
(ア) 構造改革特区における法人の農地保有規制の営農型太陽光発電のみ除外する付帯決議の撤廃
(イ) 国家戦略特区での上述の規制改革の導入
<問題の所在>
現在の営農型太陽光発電を巡る規制については、自治体ごとに規制を強化する上乗せ条例は多く見られるが、規制緩和は見られない。全国一律で規制緩和を図るのが難しかったとしても、特区の枠組みで部分的な緩和を認め、効果が認められ懸念が払拭された場合に全国展開する手法を模索すべきである。なお、営農型太陽光発電においては資本力が重要であり法人の農地保有と親和的であるところ、構造改革特区での法人の農地保有規制の議論がなされている際に規制強化の議論が盛り上がっていたこともあり、法人が営農型太陽光発電のために農地を保有することは認められない付帯決議が付けられることになった。これも普及促進のために撤廃すべきと考える。
4. 研究開発の促進:優先度中
(ア) 研究への補助金の交付
<問題の所在>
営農型太陽光発電の技術は元々日本の長島彬氏が発明したとされる日本初の技術であるが、研究開発は欧米諸国から遅れを取っている。営農型太陽光発電において発電のメリットと営農のメリット双方を最大化するためには研究が大変重要な分野であり、普及拡大のため重点的な投資がなされるべきである。
5. 優良事業者認証制度の導入:優先度小
<問題の所在>
農地転用許可や監督の強化の背景には、悪質業者の存在があり、それは事実であるが、真面目に農業と発電事業を両立する事業者についても一律に厳しい規制が課されているのが現状である。これに対する解決策として、官民が連携した優良事業者認定制度を創設し、認定を受けた事業者についての規制を緩和することが考えられる。これは優良事業者にとってばかりか、金融機関にとっても融資判断でメリットのある制度であると考える。
6. その他促進策:優先度小
補助金
税制優遇
カーボンクレジット組成の支援
<問題の所在>
他の促進政策としては上記が挙げられ、それぞれ実益の大きいものである。