超短編|小学生スナック「放課後」
ここは小学生スナック「放課後」、とこからともなく悩み多き小学生が集まってくる。
カランコロンカラン。
「いらっしゃい」
ママのツムギが出迎える。
ツムギはまだ小学生だが、背が高く、ナチュラルメイクで、すこし大人びている。
浮かない顔で、ハルトが入ってきた。短パンTシャツでいかにも小学生男子なたたずまいで。
「いつもの」
間髪入れず、ツムギが紙パックからオレンジジュースを注ぐ。
「元気ないじゃないの」
ツムギは、氷を砕きながら、カウンター越しに上目遣いでたずねる。
「いやー、下からの突き上げがきつくてね。
弟のヒロト、めちゃめちゃテストの点数がよくてさ、
親の評価も高くて、あいつだけ、小遣いボーナスもらってんだぜ」
「へー、そうなんだ」
興味なさそうに、ツムギは相槌を打つ。
「しかも、ヒロトのやつ、しっかりしててさ、学級委員長やってるし、
面白くて、めちゃモテるんだよ。同じ兄弟と思えないよ」
ツムギは黙って聞きながら、ピュレグミとたべっ子どうぶつを紙皿に入れてヒロトに出すと、ヒロトはむしゃむしゃ食べはじめた。
「おれなんか、テストの点は悪いし、友達の喧嘩を止めに入ったら逆にぶん殴られるし、ドッジボールしてたら指骨折するし、釣りしてたら池に落っこちるし、なーんもいいことないっすわ」
ツムギは少しかがんで、ヒロトの目をまじまじと見る。
「わたしはね、」
わずかに目をそらして、
「男は少しくらいバカな方が、魅力的だと思うけどな」
「え・・・?」
ヒロトはピュレグミを詰まらせそうになる。
それを、オレンジジュースで勢いよく流し込む。
なんだか落ち着かない様子で、妙に喉が乾くが、グラスは空になってしまった。
ツムギは、ヒロトを見て少しだけ微笑む。
「さ、そろそろ、帰らなきゃね。夕ご飯の時間よ」
「お、やべ」
夕日が沈み、町はマジックアワーのやわらかい光で包まれる。
今までの人生で、一番幸せな日かもしれないと、ヒロトはランドセルを揺らしながら、駆け足で家に向かっていった。