令和4年予備試験 国際法 答案例

1.各設問の論点など(過去の類似出題)

小問1・・・領域紛争、ウティ・ポシデティス原則(R3②)
小問2・・・選択条項受諾宣言(R1①)
小問3・・・条約の留保
小問4・・・条約の運用停止(H30①、R4②)
小問5・・・武力不行使原則、自衛権(H26①)

2.考えられる別解など

小問2・・・「本質上自国の国内管轄内にあると判断される事項」について、領域紛争をどうやって国内管轄事項とするか。(答案例では、A国が判断すればそれでよいという立場だが、客観的に国内管轄問題とする議論があるかもしれない)
小問3・・・①条約に対する留保が有効か無効か(答案例では無効としている)。②留保が有効であるなら、条約法条約20条5項を介して、21条3項を適用した条約関係を主張することになる。③留保が無効である場合、留保を付した国が条約の締約国になるか(答案例では締約国となるとしている)。
小問4・・・答案例では、条約法条約60条の運用停止としているが、それ以外にも対抗措置による違法性阻却も考えられる。また、答案例では60条2項cよりとしているが、60条2項bによる運用停止も考えられる。ただ、いずれの場合にも、条約違反をしていないC・D国との関係でA国の条約違反が正当化されるかという問題があるのではないか。
小問5・・・領域紛争に対する自衛権の行使が認められないというエリトリア=エチオピア事件判決も使えるかもしれない。また、国連憲章2条3項の、紛争の平和的処理義務違反の主張も考えられる。

3.答案例

第1  小問1
1             B国としては、α地域は植民地時代にC国の国内法によってB海外州の土地とされていたことから、α地域はB国の領土であるという主張をすることが考えられる。
2             領域紛争にあたっては、領域権原の有無によって係争地域の領有主体を判断する。実効的支配を及ぼしている国家が領域権原を有しない場合には、領域権原を有する国家がその地域を領有する(ブルキナファソ=マリ事件判決)。
 植民地からの独立を達成した国家同士の国境線の確定にあたっては、植民地時代の国境線を尊重するという、ウティ・ポシデティス原則が妥当する(ブルキナファソ=マリ事件判決)。
3             本件では、A・B国ともにC国の植民地であり、そこからの独立を達成した国家である。植民地時代のC国の国内法によれば、A・B海外州の境界線は山脈の分水嶺とされており、これによるとα地域はB海外州に属することになる。したがって、ウティ・ポシデティス原則に従えば、B国はα地域を領有することになる。
 A国は、植民地時代にα地域での徴税活動を開始し、独立後も同地域を支配している。しかし、これはC国国内法に反するものであり、A国がα地域を領有する領域権原は存在しない。
4             したがって、B国がα地域を領有する。B国は以上のような議論を行うことが可能である。
第2  小問2
1             A国としては、B国が選択条項受諾宣言に付した留保を援用したうえで、B国との国境紛争は当該留保によりICJが判断することができない紛争であると主張することが考えられる。
2             ICJ規程36条2項の宣言を行った国同士では、一方的提訴についてICJの強制管轄権が成立する。ただ、宣言には留保を付すことができ(同条3項)、留保されたものについてはICJの強制管轄権は成立しない。そして、留保の相互主義により、当事国は相手方が行った留保も援用することができる(ノルウェー公債事件判決)。
3             本件では、B国が選択条項受諾宣言に留保を付しており、A国はこれを援用することができる。そのため、A国が本質上自国の国内管轄内にあると判断する紛争には、選択条項受諾宣言に基づくICJの強制管轄権は成立しない。
 そして、この紛争はA国が本質上自国の国内管轄内にあると判断する紛争である。したがって、この紛争についてICJの強制管轄権は成立しない。
 また、A国はこの紛争について、B国との間でICJに付託する合意を結んでおらず、合意管轄は存在しない。ICJに出廷していないので、応訴管轄も成立しない。
4             以上より、α地域の国境画定問題について、ICJが判断するための管轄が存在しないため、ICJはこの紛争について判断を下すことはできない。A国は以上のような議論が可能である。
第3  小問3
1             C国は、自らの異議について、D国の留保が条約の趣旨・目的と両立せず無効であるという主張をすることが考えらえれる。そして、依然としてCD国がともにP条約のすべての義務を負うという主張をすることが考えられる。
2             D国がP条約批准に際して行った留保は、P条約2条の効果を排除することを意図するもので、条約法条約にいう「留保」にあたる(2条d)。
 留保が有効であるためには、条約法条約19条の要件を満たす必要がある。これを満たさない留保は無効である。
 留保が無効である場合、留保を付した国の特段の意思表示がなければ、当該国は留保のない状態で条約に拘束される(ブリロ事件参照)。
3             P条約は留保に関して明示の定めがないため、19条a,bは問題とならない。同条cについて、P条約は軍備管理を行うことで加盟国の軍事力の上限に枠をはめて、国際の平和および安全に資することを目的とするものである。そして、核兵器は兵器の中でも国際の平和および安全を最も脅かす危険性をもつものであるから、この開発・保有を禁止する2条はP条約の趣旨・目的達成のために不可欠な規定である。この適用を排除することは、P条約の趣旨・目的と両立しない。
 したがって、D国が行った留保は、19条cに反し無効である。この場合、D国は留保を付さずに条約に拘束される。
4             以上より、D国はC国との間で、P条約について、2条を含めたすべての義務を負う。C国は以上のような議論が可能である。
第4  小問4
1             A国としては、B国によるP条約への重大な違反があることから、P条約の運用停止をしたため、自国正規軍の増員はP条約3条に違反しないと主張することが考えられる。
2             重大な条約違反(条約法条約60条3項参照)があった場合、軍縮条約のような相互依存義務の違反については、同条2項cより、他の当事国はその違反を条約の運用停止の根拠として援用することができる。
3             P条約は、3条において加盟国の正規軍の兵員数の上限を定めており、軍縮条約であるといえる。3条の義務は、他の加盟国が義務を履行することが自国の義務履行の必要条件となる相互依存義務である。B国は、正規軍の兵員数を3万人に増員しており、P条約3条に違反している。
 P条約は、締約国の軍備管理を行うことによって、武力衝突を防止することを目的としていると考えられる。それに対して、B国は、α地域を武力で奪還するために兵員増強をしており、武力紛争を起こすために軍隊を増やすことはP条約の目的を真っ向から否定するものである。したがって、B国の行為は、P条約の否定であってこの条約により認められないものである(60条3項a)。B国の行為は、P条約の重大な違反を構成する。
4             B国によるP条約の重大な違反がある。P条約は軍備管理を行う内容のいわゆる軍縮条約であり、3条の義務はすべての締約国が義務を履行することが自国の義務履行の前提となる相互依存義務である。そのため、B国のP条約違反は他の当事国が条約義務を履行するにあたっての「当事国の立場を根本的に変更するもの」であるといえる。したがってA国は、P条約3条について運用停止をすることができる。
 P条約3条が停止されているため、A国が兵員数を4万人まで増員することはP条約に違反するものではない。
 A国としては、以上のような議論が可能である。
第5  小問5
1             A国としては、B国がα地域に軍隊を進めA国軍を攻撃したことは、慣習法及び国連憲章2条4項が禁止する「武力の行使」であり国際法上違法であると主張する。
 これに対して、B国からは個別的自衛権の行使であるとの主張がされているが、本件のB国の行為は自衛権の行使として正当化されない。
2             自衛権の行使といえるためには、その国に対する「武力攻撃」が発生している必要がある(国連憲章51条)。武力攻撃とは、武力行使のうちでも最も重大な形態のものをいう。それに至らないものは、たとえ武力行使であっても、自衛権の行使によって対抗することはできない(ニカラグア事件判決)。
3             A国は、正規軍を増員してα地域に駐留させているが、B国に対して越境して攻撃を加えているわけではなく、これを武力攻撃ということはできない。また、A国は政治団体Sに対して、資金・武器・弾薬等を供与することをしているが、これも武力攻撃とまではいえない(ニカラグア事件判決参照)。
4             以上から、A国の行為は武力攻撃ではないため、B国は自らの軍事行動を自衛権の行使として正当化することはできない。B国の軍事行動は国際違法行為である。
 A国は以上のような議論が可能である。

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