ある日の病棟 ②
たまたま通った部屋の前でベッドに座っている患者さんに呼び止められ、「噴水がとまらんのや」と、血だらけの手首を私に見せてるんだから。
1週間前の嫌な記憶が、気持ちが戻ってくる。
頭が真っ白に・・・
「あんた、誰か呼ばなあかんのちゃうんか!」
声をかけられたのは同室のAさん。
わかってる。わかってるけど、何をしたらいいのか考えられない。
私の横でAさんがナースコールを押し、「このままじゃお向かいさん死んでまうで! はよ来て、なんとかしちゃってよ!」
大きな声でナースコールに向かって叫ぶAさん。
「あー、これはあかんやつだね」
のんびりした声が聞こえた。
あー、「 」さんだ。少しだけ安心した。一人じゃないってわかったから。
そこからは「 」さんが対応してくれて、結局私は何もできなかった。
後で聞いた話だと、緊急入院で心カテ(心臓カテーテル検査)をした患者さんが、動脈を針でついていたので止血用の圧迫器具を外してしまったのだとわかった。
私はどうしてこんなにもうまくいかないのか。
何もしてこなかったわけじゃない、あれから振り返って、勉強もした。
それでも動けない、頭が真っ白になってしまう。
こんなにもできない自分が惨めに思えて、本当に嫌だった。
その日の仕事終わりに病院の玄関先で「 」さんがコーヒーとリンゴジュースを持ってまっていた。
「おつかれ、今日も忙しかったね。これ、どうぞ」
どう答えればいいのかわからない。
少し頭を下げて、ジュースに手を伸ばす。私はどんな顔をしてるのだろう。
「急変、続くときは続くからねぇ。前の時もそうだったけど、助かった。ありがとう。急変の対応ができたのはあきさんのおかげよ。振り返って、わからないとこはいつでも聞いて。じゃ・・・おつかれ。」
そういって、ひらひらと手を振って「 」さんは私の返答もきかずに帰っていった。
何がしたいのかわからない。わからないけど、ありがとうと言われた言葉だけ少しうれしかった。
「 」さんはよくわからない。
お世辞にも仕事はできない。ミスもよくするし、効率も悪い。
一部の先輩からもよく思われていない。
後輩からは・・・少し慕われているかもしれない。
患者さんたちからは好きか嫌いがはっきり分かれるタイプだと思う。
でも、きっと、悪い人ではないと思う。
少なくても、この連休が最悪だったと思わなくなったのは「 」さんのおかげだ。
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読んでいただいてありがとうございます。
次は、私の経験からですがケースの振り返りと緊急時の対応方法について確認していきたいと思います。
タイトルに「看護師向け」とか「学生向け」とかつけて区別しようかと思います。
もし、需要があれば、詳しく・・・有料になるかもしれませんが、知識のところは書き込んでいこうと思います。
これからもよろしくお願いします。