思いと言葉の差
みなさん、こんばんは。
最近急に寒くなってきましたね、体調くずされてはいませんか?
先日こんなことがありました。
いつものように訪問させていただき、体の調子を確かめさせていただき、内服カレンダーに内服を準備させてもらっているときでした。
「 さん、私ね、この人(利用者さん)にここに住まずに入院したいって言われたの」
思わず、手が止まってしまいました。
傍目から見て夫婦の関係は悪くは見えず、和やかに過ごされていたように思えていたからです。私は何故そういう話が出たのか、理由に思い当たることがなく沈黙してしまいました。
「私がおむつを替えたり、ご飯作ったり、家のこともしてるし、出かけるのもあなた(利用者さん)がいてるから長くは出かけていないのに。」
さみしそうな顔で、眼に涙が浮かんでいたように思いました。
利用者さん本人はそこに何も発言はなく、座ったまま少し困ったような、複雑な表情をされていたのを覚えています。
「A(利用者)さん、何かそう思う理由があるのですか?」
沈黙に耐えられず、ぽつりとAさんに問いかけました。
もう薬の準備はできるほどの余裕がありません。幸い、切りのいいところまでは進んでおり、止めても問題がない状態でしたのでそこで切り上げAさんと妻の間に座らせてもらいます。
Aさんは何も言わず、ゆっくりとうつむき、眼を閉じて沈黙を続けます。
「この人のためにこんなに時間も労力もつかったのに。それに、どこから入院のお金が出ると思ってるの?」
そういって妻は再び話かけますが、沈黙だけが戻ってきます。
私の知っているAさんはあまり口数は多くありませんが、それでも必要な時は話くれました。それに、くだらない冗談を言ったときも笑ってくれたり、学生の実習で一緒に訪問させてもらった時の嬉しそうな笑顔、妻が離れたすきにお菓子を盗み食いするこどもっぽさのある一面をもつ、どこにでも居そうな「悪ガキを少しおとなしくさせたおじいちゃん」という印象でした。
とても、理由なく入院して過ごしたいと突き放すことを言うようには思いません。
ですが、沈黙を続けることは妻にとってはモヤモヤするだけです。
否定も肯定もなければ結局のところ、何もわからないのですから。
恐らくこのまま沈黙を守っても何も変わらないと思った私は、一つ提案をします。
「理由についてはわかりかねます。しかし、話したのであれば理由があると思います。それを奥さんもそうですが私も教えてもらいたいです。」
Aさんは何も語りません。表情も変わらなかったように思います。
私は続けます。
「うちの親の話なんですが、男の方はよく言葉が足らないことがあります。相手に伝わっているだろうと無意識に考えてしまうのです。そして、大事な場面でもそれは変わりません。だから、喧嘩をよくします。思っているだけでは伝わりません。私に対して話さなくても大丈夫ですが、奥さんには理由について伝えてもらえると私は嬉しいです。理由にもよりますが、私に話してくれればもしかすると解決できることもあるかもしれません。
私の見方になってしまいますが、Aさんは言葉数が決して多いわけではないと思います。それでも、盗み食いをするときも「おなかがすいてたからな。」と教えてくれました。もし、今はなせないのであれば、私は待とうと思います。もし、良ければ奥さんも同じように少し時間を待っていただけませんか。」
今までの訪問看護で行ってきたことがすべて崩れ去りそうになることも十分怖かったですが、おそらく一度ヒビが入った関係は修復できないと考えました。
その場はいったんそこで話し合いは終わり、1週間後までAさんから返答をもらうことはできませんでした。
後々聞いた理由は「妻に迷惑をかけたまま過ごすことが悪いと思った。自分が原因で遠出できないこともわかっていた。施設も考えたが、どこもいっぱいだと聞いた。ずっと入院は行えないが、少しでも入院していればその分楽をさせてやれるのではないかと思った」ということでした。
それを聞いた奥さんは思いっきり肩を叩き、「そんなこと考えなくていいの!!!」と矢継ぎ早に今までにあったことを一つずつ挙げられ、どの時も私がいてるから上手くいった。今さら気にならない。気にするならそんなこと言わずに「ありがとう」のひとつでも毎日言え!と怒り、私が退室したあとも外まで声が聞こえていました。
さて、長くなってしまいました。
日本人は察することに長けていると思います。
ですが、あくまでそれは想像であり、実際に本人が考えているものとは多少の違いがあるものです。時にそのズレが大きくなり取り返しのつかないことがあります。
皆さんも言葉にすることなく胸に秘めているものはないでしょうか。
一言、ありがとうでもなんでもいいです。
伝えてください。
今回は長い文章になってしまいました。
読んでいただいてありがとうございました。
もし、よろしければコメントやスキを頂けると今後ンお活動の励みになります。コメントは今回の記事に限らず認知症のことや過去の記事のこと、私に対しての質問など書いていただいてかまいません。
是非、スキやコメントをよろしくお願いします。