見出し画像

Split of Spirit 11

ー修学旅行最終日ー

「雲海だ~!!」

朝の4時から早起きしてロープウェイに乗り、展望台から雲海が望める。

「………すごいな。」

「写真とろ~~!」

藤沢さんが手をこまねいている。

松裏と一緒に向かっていく。

圧倒される雲海を眺めながら、写真のために視線をレンズの方に動かす。

「めったに見れないらしいよ!」

「へぇ」

槙野さんも、朝から高い藤沢さんのテンションに合わせられていない。

「朝っぱらから元気だな~」

南場先生があくびをしながらやってくる。

修学旅行の見回りを南場は自主的にやっていたらしく、かなり遅い時間まで起きていたらしい。

「おはよう、南場ちゃん。」

鳴田の顔はいつもより爽やかというより何かが吹っ切れたような雰囲気を感じる。

「おう」

南場は少し心配したが、鳴田のことなのですぐに立ち直るだろうと考えた。

雲はやがて雨を降らし、修学旅行の日程が大きく変更された。

結局、鳴田は槙野さんと喋ることなく、修学旅行最終日を終え、戻ってきた。


<七>

「どういうことですか?

鳴田君が休校するって。」

小内先生は電話口で南場を問い詰める。

「そう言われてもなぁ、これについては俺の判断じゃないんですよ。」

「今、鳴田君はどこにいるんですか。」

「俺と一緒に学年主任のところです。

電話は前の廊下でしてます。」

「あなたも担任なら止めてください。」

「まぁこれには深い事情があってだな……」

ー会議室内ー

「で、休校する理由をちゃんと説明してもらいたいんですけど。」

学年主任の山田先生が、鳴田と向かい合う。

「すみません、理由は………詳しくは話せないんです。」

「うーん、埒が開かないんだけど。

どういうことなの、南場先生。」

「まぁ、正当な理由ではあると思います。

僕が意見を言って止められるようなものではないです。」

「命がかかってるんです。」

鳴田が声を張り上げる。

「私は止めないけど、危険なこととか、犯罪だけはやめてね。」

鳴田と南場は目を逸らしながら頷く。

「え、危険なの。」

「一応。」

「南場先生、鳴田君が、危険なことしないように守ってあげてくださいね。」

「もちろん。」

「じゃあとりあえず、印を押しとくけど、本当に危ないことだけはしないでね。」

「はい。」

思っていたより、山田先生の理解が早く、スムーズに手続きできた。

会議室を出ると、槙野さんが立っている。

「行かないで」

鳴田は目線を逸らし、槙野さんを横切る。

鳴田の手を引き、ぽつりとつぶやく。

「ごめん」

槙野さんの謝る理由がわからない。

「槙野さんは何も悪いことしてないよ。」

槙野さんは掴んだ手を放す。

「すぐ戻ってくるから。」



去った後で、南場が遅れて会議室を出ようとする。

「なんで止めてくれないの?先生。」

怒りと不安が入り混じった声色。

「あいつのしたいようにさせるのが一番いいと思うからだ。」

「じゃあ私は鳴田君のことを考えてないの?

私のエゴの押し付けなの?」

「そんなことはない。」

「………」

「鳴田もそれを聞いたら行かなかったかもな。」

もういい、と吐き捨てるような顔で槙野さんもその場を後にする。

「大変だなぁ、あいつも」



南場の家に戻ってくる。

鍵を差し込むと、やけに感触が軽い。

(鍵が……)

恐る恐るドアノブを回して、中を覗く。

誰もいないようだったので部屋に入り、机を見るとおかれたコップに水滴がついている。

鳴田がその意味に気づくのとほぼ同時に、後ろから肩を叩かれる。

叫び声をあげる。

「お前は……!!」

「久しぶり~」

そこにいたのは鳴田との戦闘の後、行方が分からなくなっていた「武内」だった。

もつれそうな足を前に動かし、キッチンの水切りにおいてある包丁を手に取り、武内に向ける。

「落ち着けって。」

「落ち着けるか!!」

戦闘態勢に入る。

「ただいまーって、あれ、鳴田帰ってきてたのか?」

「ちょっと南場ちゃん、これどういうこと!?」

包丁を構えたまま人指し指を向ける。

「これとはなんだ、これとは。」

「あ~、急遽武内もこっち側になって組織と戦ってくれることになったんだ。」

先日、被害の拡大を阻止するため、組織への攻撃を仕掛けることを鳴田から提案していた。

それに南場も同意していたのだが、あまりに戦力差が激しいと考えていたところだった。

鳴田が休学という判断をとったのもこのためである。

「コイツ、ずっとこの家にいたの?」

「コイツとは(以下略)」

「協力してくれるかは微妙だったが、向こうの戦力にしたくなかったんでな。」

「俺は、こっちにつく方がおもしろそうだと思ったんだ。

なぜだか武内は誇らしそうにしている。

「でも何で?」

わざわざこんなサイコパス戦闘狂を作戦に組み込むのは、あまり得策ではないと鳴田は考えた。

「えーと、鳴田はもうイマジナリーブレインについては説明されたんだっけか?」

「一応。」

「ところで、人造人間のわりに、俺や武内は自我が強すぎると思わないか?」

「え?」

今までを振り返る。

人造人間は、一部の人造人間が幼少期から行う、身体訓練による常人離れした戦闘能力や体の一部を、機械にして、人間の都合のいい道具になったりする。最大の特徴は喜怒哀楽が欠けている、というより失くされているというもの。

しかし、南場と過ごした時や、武内と交戦したときに感情が薄いなんて考えたことは決してない。

「二人ともイマジナリーブレインを埋め込まれてる。

戦闘を求める武内と、人間のような感情を求めた俺。

昔から同じ施設で育った武内と俺には縁がある。」

鳴田が不機嫌になる。

「南場ちゃん、いろいろと隠しすぎじゃない?」

「悪いな、時間が来れば話そうと思ってたんだ。」

「え、じゃあ今日の作戦会議は、」

「武内を陣形に入れたうえで作戦を進める。」




いいなと思ったら応援しよう!